内部通報、公益通報を行った言語聴覚士(※)の女性・Aさんが、職場で誹謗中傷やパワハラを受けたとして、勤務先や上司らに損害賠償を求めた訴訟をめぐり、Aさんとその代理人が2月4日に都内で会見を開いた。
※ ことばによるコミュニケーションに問題がある方に専門的サービスを提供し、自分らしい生活を構築できるよう支援する専門職(日本言語聴覚士協会HPより)
2023年12月5日の一審(さいたま地裁越谷支部)では勤務先の獨協医科大学埼玉医療センターや上司らに対し、50万円の支払いを命じる判決が下され、双方が控訴。
2024年7月18日の二審東京高裁判決では、双方の控訴が棄却され、一審判決が事実上維持された。
その後、同年10月に被告である学校法人らが上告受理申立てを行ったが、最高裁は今年1月24日付で上告受理申立ての不受理を決定。Aさんの勝訴が確定した。

内部通報後に担当業務から外される

Aさんは、2009年4月から、獨協医科大学越谷病院(現:獨協医科大学埼玉医療センター)での勤務を開始。そのころから病院内では診療報酬の不正請求が行われていたといい、Aさんは内部通報を行った。
その後、2013年には厚生労働省厚生局の指導が入ったものの、Aさんが業務に携わった2010年から2013年までの期間で、不正請求が行われていたにもかかわらず、返戻の対象となったのは最後の1年分のみだったという。
2018年、病院は厚生局から再度指導が入るとの情報を入手。Aさんはこの時にも不正の一部について病院への内部通報を行い、それに加えて厚生労働省への公益通報も行った。
不正請求が行われる原因の一つには、リハビリ科のセラピストに対し、所定の労働時間では到底達成することのできない「月間330単位」というノルマが課されており、それを達成したことにするため、訓練時間の水増し申告などが行われていた。
しかし、病院への調査等は行われず、さらに、Aさんは誹謗中傷や、担当業務を外されるなどのパワハラを受けたという。

一審判決「告発への報復と推認」

一審のさいたま地裁越谷支部判決ではAさんへの誹謗中傷やパワハラについて、「(Aさんが)不正行為が行われていると告発したり、リハビリ科管理職の方針に従わなかったことに対する報復として行われたと推認するのが相当」と判断。
二審東京高裁判決でも、Aさんが是正を申し入れたことに対する報復であるとの判断を示していた。
代理人の河野冬樹弁護士は判決について「内部通報制度のあり方を考えるうえで、重要な意味を持つのではないか」と指摘。
「病院側は、Aさんだけを取り立てて責めておきながら、そのことについて『必要な処理』だと主張してきました。
ですが、裁判になった場合には、『報復として行われた』と判断されることがあるということは、今後、内部通報制度を考えるうえで参考になるのではないでしょうか」(河野弁護士)
なお、本件についての編集部の取材に対し、獨協医科大学埼玉医療センターは「特にコメントはない」としている。

「厚生労働省や関東信越厚生局に取り上げてほしい」

この日、記者から判決確定後の感想を聞かれたAさんは「裁判に勝てたのはすごくうれしいが、まだやり残したことがある」と述べた。
「昨今、『社会保険料が高い』といった話が出ていますが、不正な診療報酬の請求がその原因の一つとなっていることを国民の方に知ってほしいです。
また、私は本件の訴訟後、何度も記者会見を行ってきました。
それは、この問題について、ぜひ厚生労働省や関東信越厚生局に取り上げてほしいという思いがあるからです。
ただ、それがもし全くかなわないのだとしたら、『診療報酬は不正請求をするのが当然』『どんどん不正をしたほうが病院のために良い』という考えにもなってしまいそうです。
病院側は裁判での主張において、私の作成したカルテに問題があったと指摘していました。
ですが、本当にそのことを問題視するのであれば、病院側は私のカルテについて厚労省や厚生局に訴えるべきではないでしょうか。
私はこれまでに、おそらく1億円に近い診療報酬を請求してきました。
万が一、このまま厚労省や厚生局が不正請求についての調査を行わないのであれば、せめて皆さんに対し、税金を無駄に使ってきたことを謝罪させていただきたいです」
Aさんは今後、裁判の内容等をHPで公開することも表明。
「裁判のハードルは高いと思いますが、勝訴できたことで、同様に苦しんでいる人たちにエールを送りたいです。
具体的な診療報酬不正の手口や、裁判での手続きに関する話など、これから内容を準備し、順次公開していきたいです」


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