福岡・天神「警固キッズ」居場所支援の“本拠地” 「ホームレスに近い形で居座る子が増えた」ベテラン支援者の危機感
福岡市・天神の中心にある警固公園は、今も生きづらさを抱えた若者たちの逃げ場となっている。東京のトー横や大阪のグリ下にならい、「警固キッズ」「警固界隈」と呼ばれる彼ら。
筆者は1年前に警固公園を訪れ、若者や支援団体の実態を取材した。この冬、再び警固公園へ足を運ぶと、現場にはある変化が起きていた。
〈1年前の警固公園の様子:https://www.ben54.jp/news/847

支援の手が増えて問題発生?

この1年で若者たちに何があったのか。警固公園を中心に若者支援を行う『SFD21JAPAN』の小野本道治さんはこう話す。
「公園に来る子たちの数は変わらないけど、顔ぶれが変わりました。1年前はヤンキー系の男の子たちがボスっぽく振る舞っていたので、なんとなく子どもたちにまとまりがあったように思います。今はその少年たちがいなくなったためか、まとまりがない状態に見えますね」
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SFD21JAPAN 理事長の小野本道治さん/Instagram:@sfdjapan(撮影:倉本菜生)

前回の取材から1年たち、警固公園内に設置されている「安全安心センター」では、曜日や日にちごとに異なる支援団体がフリースペースなどの“居場所”を開くようになった。しかし、支援の手が増えたことで、問題が発生しているという。
「以前の安全安心センターは、公園内で活動を行う支援団体のスタッフや関係者の待機所でした。子どもたちに対しては、雨が降ってきたときなどに、『ちょっと入っておいで』と呼びこむくらいだったので、彼らにとっては”公園とは別の場所”だったんです。公園に集まってくる子たちも、普段は友人の家などに寝泊まりしている子が多かった。でも、センターでひんぱんにフリースペースが開かれるようになってからは、センター内にホームレスに近い形で居座る子が増えてきました」(小野本さん、以下同)

フリースペースめぐり子どもも大人も困惑

小野本さんは、「子どもたち目線では、何曜日にどこの団体が何をやっているかなんて分からない。彼らの中では、『あそこに大人がいたら入っていい』という認識になっている」と話す。
「たとえば、女性を対象にした虐待サバイバーの支援団体が担当している日は、センター内で警固界隈系の女の子たちの性被害相談などをやっています。
そこに警固界隈の男の子が、『今日も開いている』と入ってきて、女の子たちが相談しにくい雰囲気になってしまう。でも訪れる子たちにわざわざ『インスタで開催情報を確認して』とも言えないですよね」
誰が運営しているかに関係なく、「入ってもいい場所だ」という認識が広がった結果、若者たちは”もっともルールが緩い団体の基準”に合わせて過ごすようになったという。
「Aという団体ではこういうルールでフリースペースを開いているけど、Bが開く日はこういった行為が禁止されている。でも子どもたちはルールが緩いAに合わせてBのフリースペースで過ごす。この”団体ごとにルールが違う”という問題に加えて、主催する側にも集まってくる子たちの”どの層”にルールを合わせたらいいのか分からないという悩みが発生しています」
安全安心センターに集まってくる若者全員が、”派手なファッションをした警固界隈”ではない。小野本さんによれば、「学校に行けないおとなしい子たち、ひとりでずっとスマホを見ている子、スタッフに勉強を教えてもらっている子、派手で騒ぐのが好きな子と、フリースペース内で4つくらいの”島”ができている」そうだ。
「フリースペース内では自由に過ごしていいとは言っても、他人と場所を共有しているわけなので、『人に迷惑をかけてはいけない』『音楽を大音量で流してはいけない』など、常識的なルールは守らないといけない。でも、それを守れない子たちがいます。おとなしい子たちが勉強しているところに、騒ぐ子たちが入ってきて、音楽を流したり大声で通話をしたりして、おとなしい子たちが出ていってしまう。スタッフもどうしていいのか分からず困っています。たとえ騒いでしまう子であっても、居場所がなく困っている子には変わりありません。だからこそ、団体ごとのルールに加え、どこに照準を合わせるかを、主催者側は決める必要があります」
福岡・天神「警固キッズ」居場所支援の“本拠地” 「ホームレスに近い形で居座る子が増えた」ベテラン支援者の危機感

日々異なる支援団体によって居場所支援が開かれる「安全安心センター」(撮影:倉本菜生)

「本当の意味での支援」とは?

この状況を小野本さんは、「警固公園にいる支援団体が連携を組むチャンスだと思う」と語る。
「僕たちSFD21JAPANは安全安心センターを利用している全団体とつながりがあります。
しかし団体ごとに見ると、横の交流がないところもあるかもしれない。さらに言えば、警固の町内会とつながっているのはウチだけです。団体間の連携や地域組織とのつながり、情報共有が不十分だと感じています。しっかりと連携を取り、ひとつの協議会へと変わっていかなければならないタイミングでしょう」
特に課題として感じているのは、「公園によく来る特定の子のために、その子に対して何ができるのか、団体間で話し合うこと」だという。小野本さんは「ただ『センターに来ていいよ』だけだったら、本当の意味での支援にはならない」と言葉を続ける。
「現状、僕たちは公園内でリストカットしている子がいたら、その子に声をかけている間に、別のスタッフが交番に行き、警官を連れてくるように段取りしています。警官が到着する頃には、刃物を取り上げて落ち着かせている。警察に引き渡すところまでが、僕たちができることです。でも、その子が住んでいる地域や、親のもとに問題を持ち帰って対処しないと、根本的な問題解決には至りません」
リストカットにOD、飲酒や喫煙。そうした公園内での行為を保護や補導という形で一時的に止めさせても、若者たちはまた公園に集まってくる。問題解決のためには、彼らの”地元”でサポートすることが大事なのだと、小野本さんは訴える。

なぜ警固に子どもたちが集まるのか

「なぜ警固に子どもたちが集まるのか。
それは、ここが彼らにとって安全な場所だからですよ。交番があって警官がいて、僕たちみたいな声をかけてくる面倒な大人もいる。普通なら避けるような場所に集まるのは、『ここは安全で大人に守ってもらえる』と、無自覚に理解しているからではないでしょうか。彼らの地元に同じような場所があれば、警固に来ることもなくなるかもしれません」
地元で安心して集まれる居場所を作り、警固公園ではなく地域で若者たちをサポートしていく。その取り組みの一環として、小野本さんらSFD21JAPANは福岡市西区で「WANプロプロジェクト」という保護犬を活用した居場所づくりをおこなっている。こうした地域の居場所づくりは、今後ますます重要となっていくだろう。
支援の手が広がる一方で、新たな課題も浮かび上がる警固公園。根本的解決となる支援とは何か。その答えを探るための支援者らの模索は、これからも続いていく。


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