
これを契機として、自民党では派閥が名目上「解散」し、“裏金議員”の「処分」も行われた。現職・元職の国会議員、秘書、派閥の会計責任者ら合計11人が起訴された。
しかし他方で、派閥幹部の立件は見送られた。また、国会議員の起訴も限定的なものにとどまった。このことについて、「政治資金オンブズマン」代表として一連の裏金事件に関する調査、刑事告発等の活動を行ってきた神戸学院大学法学部の上脇博之教授(憲法学)は「トカゲの尻尾切り」と批判し、政治家本人に対する責任追及が遺漏なく行われるために政治資金規正法を改正するよう提言する。
※この記事は上脇博之氏の著書『検証 政治とカネ』(岩波書店)から一部抜粋し、再構成しています。(連載最終回/全5回)
※【第4回】政治資金から「キャバクラ」遊興費、「ガリガリ君」購入費も支出!? 政党の裏金・不適切な支出を“誰でも”見破れる方法
パーティー券問題で見られた「トカゲの尻尾切り」
政治資金収支報告書の記載義務違反や虚偽記載といった犯罪について、すべては「秘書」や「事務所の責任者」が独断で行ったことにさせられて、政治家本人は責任を免れるということが往々にしてあります。2022年以降表面化した自民党安倍派のパーティー券問題でも、国会議員はそう弁明しています。いわゆる「トカゲの尻尾切り」などと批判されるケースです。
現行の政治資金規正法では、政治資金収支報告書の虚偽記載などがあった場合、罪に問われるのはあくまで収支報告書を作成、提出した人物になります。
収支報告書は会計責任者の名前で出さなければいけないと定められているので一般的には会計責任者が刑事責任を問われますが、会計責任者が名前だけ貸していて、実質的には事務所の人が作成していたという場合は、その「作成者」の刑事責任が問われることになります。
自民党本部(creampasta/PIXTA)
政治家本人にも責任を負わせる「連座制」の導入を
政治団体の代表者になっている政治家本人の責任がどうなるのかと言うと、会計責任者など収支報告書の作成者との共謀が立証できないと起訴できませんので、政治家の立件のハードルは相当高くなります。実際のところ、自民党安倍派のパーティー券疑惑のように組織的な規模で裏金づくりが行われているようなケースが、「事務所スタッフの独断」で行われたとは考えづらく、政治家本人が指示していると考えるのが自然なのですが、いざ立証するとなると難しい。
こうした事態を避けるために考えられる改革の一つが、政治資金規正法に「連座制」を導入することです。
公職選挙法ではこの連座制が定められていて、選挙の候補者や立候補を予定している人と一定の関係にある人が買収などの選挙違反に関わった場合に、たとえ候補者本人が関わっていなくても政治家の当選が無効となり、その選挙では同一の選挙区から5年間は立候補できなくなります。
この「連座制」の規定を強化して、政治資金規正法違反などで会計責任者または事務担当者が有罪になれば代表者の議員も失職するとする改革案が考えられます。この案については、公明党の山口那津男元代表がテレビ番組に出演した際に「一つの手段だと思う。それも含めて検討したい」と話していました。
ただし、公職選挙法の連座制を、選挙以外の政治活動も含む政治資金の流れについても適用することが適切かどうかは、議論の分かれるところだと思います。また、地検は会計責任者でさえも、なかなか起訴しませんので、「連座制」が導入されても満足すべきではありません。
政治団体代表者「本人」の名前による政治資金収支報告書の提出を義務付けるべき
これとは別に考えられる手段が、政治資金収支報告書の提出者を、現在のように会計責任者だけでなく、その政治団体の代表者も連名で含んだものにするか、代表者本人の名前で提出するよう義務づけることです。実は現行法でも、政治団体が解散した後に提出する政治資金収支報告書には代表者本人の名前も明記することになっています。ただし、代表者も会計帳簿を管理する責任を負うようにすべきです。
先ほど説明したように、現状では、政治資金収支報告書の記載義務違反や虚偽記載が発覚したときに罪に問われるのは、会計責任者などその報告書を作成、提出した人になります。ここで、初めから議員本人も会計帳簿を管理して収支報告書を提出するように定めておけば、内容に対して本人が責任を持つことになり、「トカゲの尻尾切り」も封印されるというわけです。
もっとも、これに対しては、「多忙な議員が政治団体の収支を漏れなく管理する時間が十分にあるわけではないので、会計責任者に任せるしかないだろう」という反論が予想されます。
確かに、1年間の政治資金の出入りの激しい選挙区支部や資金管理団体の収支を漏れなく管理するのは事実上困難かもしれません。
実は、かつては、そうしていたのです。短期間の収支であれば、多忙な議員でも会計帳簿を管理できるのではないでしょうか。
国会議員の「選任・監督責任」を厳しく問える法改正を
もう一つ、国会議員本人の責任逃れを許さないために提唱されている方法があります。現行の政治資金規正法では、国会議員など政治団体の代表者が「会計責任者の選任および監督」について「相当の注意を怠ったときは、50万円以下の罰金に処する」となっています。
この規定では、会計責任者が収支報告書の虚偽記載などの不正を行った場合でも、代表者である議員は「選任」と「監督」の両方について相応の注意を怠ったと認められてはじめて責任が問われることになると解釈されています。
会計責任者を選任する段階でその人が不正をするとわかっていることは通常考えづらいですから、この条文は実効性を持たないものになってしまっているのです。
これを問題視した国会から、条文を改正して「選任または監督」とすれば、会計責任者の不正に対して議員の監督責任を問うことができるようになるとして改正法案が提出されたこともありました。2010年のことですが、成立することはありませんでした。この改正については、今度こそ実現させるべきです。