探偵によるGPS(衛星利用測位システム)を使った不倫調査の「プライバシー侵害」等が問題となった裁判の控訴審で、札幌高裁は先月31日、一審判決(旭川地裁:24年3月)を支持し、原告・被告双方の控訴を棄却した。一審では札幌市内の探偵業者に計44万円の支払いが命じられていた。

探偵が浮気調査で相手の物(自動車やバッグなど)にGPS発信機やGPSアプリを仕掛ける行為は、相手のプライバシーを侵害するおそれがあり、相当な範囲を逸脱する行為は民事上の不法行為が成立する可能性がある。
今回の裁判の争点もそこだった。二審判決によると、判決にあたり裁判長は、「おおむね30分間隔で位置情報などを把握しており、プライバシー侵害の程度は大きい」と理由を述べ、今回のケースが民法上の不法行為にあたると判断した。
なお、GPS機器などの無断設置は、ストーカー規制法や都道府県の迷惑防止条例で処罰される可能性がある。設置のために無断で住居に侵入することなどももちろん違法だ。

「判決は妥当」の真意

「今回の判決は多くの探偵業者にとって大きなインパクトを与えましたが、あえていえば、私は妥当だと思う」。こう感想を述べたのは札幌で探偵業を営む、さっぽろ探偵事務所代表の和泉慎一氏だ。
探偵業者にとっていまやGPSは業務上、なくてはならない至便のツールとなっている。調査対象を遠隔で“追跡”し、しかもバレにくい。アナログ時代に不可能だったよりきめ細かな行動把握も可能だ。
だからこそ、と和泉氏が補足する。
「探偵は依頼者の権利行使を目的とした調査のために動きます。逆にいえば、それのみが使命。
つかんだ情報を依頼者に漏れなく伝える必要はないですし、垂れ流すなどもってのほか。そもそも承諾を得ずに位置情報記録・送信装置を取り付けての“監視”など論外です。探偵はいま一度、情報のプロフェッショナルでもあるということに立ち返り、これを転機に、情報管理の考えを改めた方がいいでしょう」

探偵業界の実状

探偵業は届け出制。営業開始の際は所轄の都道府県公安委員会に届け出をする必要がある。警察庁生活安全局生活安全企画課が公表している資料によると、2023年の届け出数は7027件。この3年は7000件前後で推移しており、大きな変動はない。
同課の資料では探偵業の法律違反の検挙状況も公開されており、それによると2023年は無届け営業の件数は2件、2022年1件、2021年3件となっている。少ない印象だが、潜り業者・経験の浅い個人調査も少なくないといわれ、そうした業者ほど探偵業の本来のミッションを軽視し、情報の扱いがずさんなケースが多いという。
現在までに業界健全化を推進する、統一のガイドラインも存在しない。その意味でも今回の判決は、法律スレスレの調査を行っている業者に対する強い戒めになる側面もあるという。

判決が業界に及ぼす影響は

「不倫調査にGPSはNG」。業界健全化への期待の一方で、今回の判決により、そんな印象が業界に刻まれる可能性はある。仮に調査にGPS使用が不可能となれば、「大多数に近い探偵業者に大きな打撃があるでしょう。また、GPSが使えない事で調査料が大幅に上がる懸念も」と和泉氏は予測する。

今回の判決で損賠賠償責任が認められる要因となった「おおむね30分間隔で位置情報などを把握」が許されないとなれば、調査時のGPSの扱いはより慎重さが求められる。位置情報を適切に扱い、目的外利用とならないよう十分な注意が必要だ。

依頼者に求められる意識変革

調査を依頼する側も今回の判決を教訓に、探偵選びの意識を改めた方がいいのかもしれない。違法な行為をする探偵を雇うことで、調査対象の悪事などを暴くはずが、逆に不要なダメージを被る可能性もあるからだ。
「安さを売りにしている業者は要注意でしょう。綿密な調査には尾行など人手が不可欠。GPS頼みの業者ほど人力を軽視していますし、尾行力に疑問が生じます。実際に撮影したサンプルの品質も確認した方いいですね。
また、HP等に考え方をしっかり記載しているかもチェックしてください。法令順守に関する記載がされているかも確認を。最後に、弁護士に紹介してもらえるかも重要なポイントです。弁護士が紹介する探偵というのは価格や品質のバランスが優れていると思います」
和泉氏は適切な探偵選びのポイントをこう明かした。

現行の刑事訴訟法では警察の捜査においてもGPSの使用は許容されていない(最高裁判所平成29年(2017年)3月15日判決参照)。それだけプライバシーは“聖域”であり、容易に踏み込んではいけない領域ということだ。
「スマホの浸透もあり、いまやGPSがあまりに身近になっています。だからといって、調査でGPSを気軽に使うことが適法かは別問題。法的側面もしっかりと意識しながら、本当にGPSが必要か、取得した情報を依頼者にどこまで共有するか、設置時に違法性はないか、設置期間は必要最低限か。もし使用するなら、そうしたこともしっかりと意識し、考えてほしいですね」(和泉氏)


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