港浩一社長(当時)は1月17日に行われた1回目の会見で、第三者委員会を設置しない理由を問われ「調査委員会の方々に相談したうえで、第三者委員会にしよう、調査委員会にしようというのを決めると思います」と発言していたが、企業はなぜ第三者委員会の設置を渋るのか。
企業法務に詳しい元特捜検事の日笠真木哉弁護士に話を聞いた。
「調査委員会」と「第三者委員会」の違い
そもそも調査委員会と第三者委員会は何が異なるのか。日本弁護士連合会のガイドラインによれば、企業が不祥事を起こした際の調査としては主に「内部調査」「内部調査委員会による調査」「第三者委員会による調査」のいずれかが行われているという。
「内部調査」は経営者が担当役員や従業員らに対し内々の調査を命ずるものとされ、〈経営者等自身による、経営者等のための内部調査〉(同ガイドラインより)として客観性が疑問視されている。
「内部調査委員会」は、企業が調査の精度や信ぴょう性を高めるために、内部調査に弁護士らを参加させたもので、客観性は内部調査より格段に上がる。しかし、調査対象企業と利害関係を有する顧問弁護士らが調査を担当することもあり、独立性には疑念が残る。
そして「第三者委員会」は、企業と利害関係のない独立した委員のみをもって構成され、客観性・独立性のどちらも担保されるものだ。
日笠弁護士によれば、「企業が『調査委員会』と言う際、“特別”と前につけたり、あえて“外部”調査委員会と呼んだりすることもあるが、実際は『内部調査委員会』であることが多い」という。
その上で、企業が第三者委員会の設置を渋る理由はどのようなものがあるのか。
「もちろん全部がそうとは言いませんが、内部調査委員会では、身内で選んできた弁護士が身内のために(調査・報告等に)手心を加えるという実態があるのだと思います。
第三者委員会では、そうしたコントロールが効かず、報告書にも何を書かれるかわかりません。また、IR(投資家向け情報提供)も打たなければいけないため、株価へのインパクトも大きい。企業からすれば“できるだけ取りたくない”方法でしょう。
とはいえ今回は問題が大きすぎて、フジテレビも『第三者委員会の調査でなければステークホルダー(株主・投資家、顧客・取引先、従業員など)が納得しない』と判断したのだと思います」(日笠弁護士)
「守秘義務のあるトラブル」調査はどうなる?
第三者委員会の設置を決めたフジテレビだが、今回、問題の発端となった中居氏と女性のトラブルでは「守秘義務契約」が結ばれているとされる。調査委員会は、トラブルの詳細がわからない状態で正確な調査を行うことができるのだろうか。日笠弁護士は「守秘義務が課せられていない人からの伝聞証拠、いわゆる『また聞き』をもとに調査を進めることになると思います」と説明する。
「刑事事件では伝聞証拠は排斥する必要がありますが、調査の場合は『こう言っている人がいた』というのもひとつの事実として調査結果になります。
また、調査委員会の委員にも守秘義務があるので、調査の中では『ぶっちゃけ論』で聞けることはあるかもしれません。これらをもとに調査を進めていくと考えられます」
「中居氏の処罰が目的ではない」
今回の調査ではあくまでフジテレビが、自社のコンプライアンス・ガバナンスに問題がなかったか、法律違反はなかったか等をあぶりだす目的で行われる。日笠弁護士も「中居氏を処罰することが狙いではありませんし、守秘義務の部分についてはそこまで明らかにしなくとも調査はできるのではないか」と続ける。
「発端となったトラブルにフジテレビ社員の関与がどれくらいあったのか、関与の過程、その後の対応についての調査がメインになってくると思います。
フジテレビの事後対応でいえば、トラブルの一報を受けたのは誰か。どういう風に相談されたのか。相談内容は誰にどう伝わったのか。コンプライアンス室に相談しなかったのは誰の意思決定に基づくのか…といった事実をひとつひとつ確認し、それぞれに問題はなかったかを明白にしていくことになるでしょう」
中居氏と女性との間で起きたトラブルの内容は、たとえ「ぶっちゃけ論」で調査委員が聞き出したとしても、報告書ではプライバシーにかかわる部分として塗りつぶされるという。
「第三者委員会にとっては、2次被害が起きないように気を配りながら報告書をまとめる必要があることから、非常にセンシティブで難しい作業になろうかと思います。
一方で、国民の多くが知りたい“中居氏と女性との間に何があったか”という部分は報告書では解明されない可能性が高く、報告書が公表されてもネット上の炎上はくすぶり続けるかもしれません」(日笠弁護士)
フジテレビは、3月末をめどに報告書を公表する予定としている。
同局の大株主である米ファンド「ダルトン・インベストメンツ」は今月、日枝久取締役相談役の辞任を求めたが、現時点で動きはない。果たしてフジテレビは「報告書」だけで事態を立て直すことができるのか――。