外国人による万引き被害が深刻化している。警察庁によると、昨年1~11月のドラッグストアでの万引きの認知件数は1万3754件で増加傾向にある。
さらに、被害額でみると2021~2023年の被害状況は1件あたりで日本人1万774円に対し、観光目的も含む来日外国人で8万8531円だった。

外国人の万引き被害が高額な理由

同じ万引きながら両者に金額ベースで8倍もの差がでてしまう背景にはなにがあるのか。
「理由はシンプルです。日本人が貧困等から日用品等を常習的に万引きしているのが主流なのに対し、外国人は多くが換金目的、つまり、‟仕事”として万引きをしているからです。ハッキリいえば、彼らは窃盗団とみるべきです」
こう解説するのは、現役の万引きGメンとして現場に立ち続けながら、各地で啓もう活動などを行う伊東ゆう氏だ。それにしても、外国人による万引き被害はいまに始まったことではない。にもかかわらず、なぜ、みすみす窃盗を許し続けているのか…。
「もちろん店舗側も万引きに警戒はしています。ただ、挙動などから明らかに怪しい人(万引きするであろう人)でも声をかけるのを躊躇したり、もし間違っていたらというリスクを考えたりして、見逃してしまうわけです。対象が外国人になると言葉の壁もあります。万引き被害よりも、万引き犯とのトラブルによる“二次被害”を恐れている節があることは否定できませんね」(伊東氏)
良くも悪くも事なかれ主義ともいわれる日本。悪人がそうした“善意”を都合よく解釈すれば、いくらでも万引きができてしまうわけだ。

大量窃盗も当たり前の大胆手口

被害額が高額になる理由として見逃せないのは大胆な手口だ。
「彼らは下見をして、店内の死角をみつけ、そこに大量に盗品を詰め込んだバッグを置き、受け取り役が運び出し、さらに店の外で運び役が待機してアジトへ持ち運びます。
大きなトランクやボストンバッグなどを持ち込み、まるでそれが当たり前のように堂々と商品を詰めていく者まで散見されます。店側はそこまでされても声掛けしないことがありますし、仮に声掛けしても彼らは暴れるし、逃走するのが常套手段。必死にあがき、騒いでなんとかその場を逃れようとします」(伊東氏)
沈静化するどころか深刻化する外国人グループ等による組織的な大量万引き。こうした状況に対し、警察庁も先月末、「ドラッグストアにおける万引き防止対策の更なる推進について」と題した通達を出している。内容は以下だ。
  • 従業員等による巡回強化のほか、外国語での音声アナウンスを含む店内放送による注意喚起、店舗間における情報共有、警備員や保安員による監視体制の強化等、人的(ソフト面)強化を図るもの
  • 防犯カメラの増設や高度化のほか、防犯ゲートや防犯ミラーの設置、外国語表記を含む啓発用ポスター等の掲示等、施設(ハード面)強化を図るもの
  • 高額商品や医薬品等に対する空箱陳列のほか、万引きされにくい陳列方法、在庫管理の徹底等、商品に対する盗難防止対策を図るもの
  • 被害認知時における確実な被害申告と警察への早期通報、防犯カメラ操作方法の習熟等、被害発生時における迅速な対応を図るもの
  • 電子マネー販売店舗においては、特殊詐欺に関する注意喚起や被害が疑われる場合の通報にも配慮するもの
万引き対策としては特段、新しい施策は盛り込まれていないものの、前述のように店舗で十分に徹底されていない側面もあり、改めての注意喚起といった内容だ。
伊東氏が補足する。
「結局、警察としても、しっかり自衛してくださいということです。万引き犯をしらみつぶしに捕まえるとなると、膨大な労力が必要になります。店側のアクションによって、予防にもつながるわけですから。逆にいえば、発表されている万引き被害は氷山の一角といえるでしょう」

外国人にとって日本は“万引き天国”なのか

外国人にとって、やはり日本は“万引き天国”ということなのか。伊東氏は次のように、その真相を解き明かす。
「(いくつかの国を除けば)罪の重さはどの国も大きくは変わりません。
ただ、たとえば今回問題になっているベトナムなどでは万引きで捕まって入れられる刑務所がとてつもなく過酷なんです。“あんなところには入りたくない”と思うため、彼らも現地ではやりません。店の構造も万引きしづらくなっていますし、入り口では銃を持った警備員もいますから」
こうした環境面での格差に加え、日本のドラッグストアがターゲットにされる大きな理由がある。高額転売できる“上玉製品”の潤沢さだ。
「東南アジアなどでは日本製の化粧品は高く転売できます。定価の3~4割増しは堅い。換金目的であれば、これほど好条件がそろった場はないでしょう。ベトナム人などの窃盗犯には現地で“万引き御殿”を建てた人もいるなどとも言われていますよ」(伊東氏)

減らすための実効性のある施策はあるのか

想像以上ともいえる外国人による万引きの実状だが、なんとか歯止めを利かせることはできないものなのか。
「残念ながら、今後も減ることはないでしょう。ターゲットはドラッグストアだけではありませんしね。さらにこの先、セルフレジやレジカートなど人手不足を解消するための新しい精算システムがますます普及する見込みで、すでに新たな手口も生まれてきています。そもそも万引きに対する店舗側の危機感が総じて薄く、膨大な仕事量を抱えて防犯に従事できない実情もあるのです。

警察の通達には、“警備員や保安員による監視体制の強化等、人的(ソフト面)強化を図る”とありますが、これまでずっとやってきています。そもそもそんな予算はありません。強化を図れというなら、私設警察並みに最低限の武器と権限も持たせるような次元までもっていくべきです。国家主導でそれくらいやらないと現状では万引き対応で命が失われるような最悪の事態も起こりかねません。
事案が重なり逮捕者が続出するようなことになれば、地域警察の機能が麻痺して処理しきれない現状もあります。駐車監視員同様、軽微な被害や前科前歴のない高齢被疑者の場合は切符制度にするなどして、警察負担を軽減させる必要もあるでしょう。少なくとも丸腰の売場従業員や民間の保安員を、外国人窃盗団に立ち向かわせている現状は、早急に解消すべきだと思います」
現場で実際にそうしたリスクを体感しているだけに、伊東氏は怒りをにじませながら訴えた。
人口減少フェーズの日本にとって、訪日外国人は減りゆく労働力や消費の需要を補完する希望でもある。一方でそれ以上に絶望をもたらしかねないのだとすれば、国を挙げての抜本的な対策も決して大げさとはいえないのかもしれない。
【伊東ゆう】
万引き対策専門家、万引きGメン。およそ25年に渡って6000人を超える万引き犯を捕捉してきた経験を有する現役の保安員。「万引きGメンは見た!」(2011河出書房新社)を上梓すると大きな話題を呼び、多数のメディアで特集された。
現役にこだわり現場で活動する一方、「店内声かけマニュアル」(香川大学、香川県警)「セルフレジサポーター育成マニュアル」(同)の企画制作、監修を手掛けるなど、万引きの未然防止対策に情熱を傾ける。現在、一般社団法人ロスプリサポートセンター代表理事。映画「万引き家族」(是枝裕和監督)の制作協力、テレビ出演も多数。


編集部おすすめ