弁護団の調査によると氏に関する制度が確認できた95カ国のうち、夫婦同氏を強制している国は日本だけだったという。
国際的な潮流に乗り遅れた日本
弁護団は、130を超える国を調査。夫婦別姓の根拠を確認することができた95カ国のうち、夫婦が別氏を原則とするのは中国や韓国など33カ国あり、62カ国は同氏を可能にする制度となっていたという。橘高真佐美弁護士は、「かつては多くの国で妻が夫の氏にする制度を採っていたが、夫婦同氏を強制することが女性差別にあたるとして、自己決定権や人権の観点から見直されてきた」と語り、日本だけがその世界の流れから取り残されていると話す。
しかし橘高弁護士によれば、日本にも過去、この流れに乗る機会があったという。
「1996年に法政審が『選択的夫婦別姓を導入する』という答申をしたが、その時に民法が改正されていれば、日本でもすでに選択的夫婦別姓制度が確立できていたはずだ」(橘高弁護士)
しかし、現実は法政審の答申から約30年経過しても民法の改正はなされず、夫婦同氏を強制する最後の国として取り残されている状況だ。
このことは、米国国務省の人権状況に関する年次報告書でも、毎年のように日本の女性差別の事例として取り上げられ、国連から選択的別姓制度を導入するよう、これまで4回勧告されている。
諸外国においても選択的夫婦別姓制度を導入する時には、さまざまな議論が起きたそうだが、いずれの国でも「夫婦同氏が家族関係を維持するために必須ではない」とされ、法改正が進んできたという。欧米各国だけでなくトルコやタイなどの国でもそうした議論の末に法制度が改正されてきたとのこと。
会見に同席したフランス国立東亜研究所の研究員、ルグリ・ジェラール氏は、「結局のところ、家族の一体感は愛情や絆といったことに左右されるため、別氏でそれらが阻害されるとは考えられない」と述べる。
フランスでは、子どもと両親が異なる氏をもっている事例は多くなっており、親が再婚した後も最初の親の氏を名乗る子どもや、兄弟同士で別氏というケースも珍しくないそうだ。
会見に同席した谷口太規弁護士も、「95カ国で夫婦別氏が可能になっているのであれば、それらの国々で家族が崩壊しているとは考えにくい。選択的夫婦別姓制度が、家族の絆を崩壊させないことの証明になるはずだ」と語った。
夫婦どちらの氏にするか、話し合わない日本の婚姻カップル
日本の氏制度は、婚姻時に夫婦どちらかの氏にすることと定められている。妻の氏にすることも制度上は可能だが、実際には95%で夫の氏が選ばれており、不均衡の背景には社会における女性差別があると弁護団は指摘している。それを裏付けるための調査として、大阪大学大学院の三浦麻子教授による「夫婦氏選択の際の話し合いに関する調査報告」を新たに証拠資料として提出した。
この調査は、現在婚姻しているカップルを対象に、「結婚時にどちらの氏にするか話し合いをしたか」を聞いたものだ。
その結果、「話し合わなかった」との回答が78%に上ったという。ほとんどの婚姻カップルが氏をどうするか話し合いを持たずに夫の氏を選んでいるということになる。
さらに、男性が氏を変更したカップルにおける話し合いの有無で比較すると、「話し合った」と回答した人が12人で、「話し合わなかった」と回答した6人の倍となっている。男性が氏を変更する場合には話し合う傾向があり、女性が氏を変更する場合は話し合いがなされないという傾向があるようだ。
一方で、三浦教授のアンケート調査票では、結婚時にどちらの氏にするか「話し合った」「話し合わなかった」「覚えていない」の3択となっているが、このうち「覚えていない」と回答した男性は22人、女性は11人だった。
弁護団は、裁判で夫婦同姓制度は法の下の平等(憲法14条1項)に違反するという主張をしているが、2014年の最高裁判決では「法律の規定自体は男女に中立である」とされ、違憲とは認められなかった。
確かに条文では男女“どちらかの氏”にすることと規定されているため、男女の不平等はないように思えるが、三浦教授の調査結果からは、そもそも話し合いの機会がないままに女性が氏を捨てている実態が浮き彫りとなっている。
本訴訟の次回期日は東京地裁で5月15日、札幌地裁で6月11日に行われ、今回発表された調査結果等の証拠に対する国側の反論が予定されている。