北海道恵庭市にある遠藤牧場で働いていた原告ら3人が、障害者年金を横領されたなどとして恵庭市と牧場側に損害賠償を求めている裁判の第7回口頭弁論期日が2月21日、札幌地裁であった。(小林英介)

約9400万円の損害賠償求める、市「忖度していない」

これまでの裁判で原告側は「労働の対価としての賃金が支払われていない」「朝5時から夜7時まで働かされていた」「 プレハブ小屋に住まわされ、小屋にはトイレも水道もなかった。食事はレトルト食品などで、かなり質素なものだった」などと主張。

口座に振り込まれていた障害者年金が引き出されたとして、合計9400万円あまりの損害賠償を求めている。
一方、恵庭市側は「虐待を隠ぺいすることなどしていない。(元恵庭市議会議長だった遠藤 牧場の経営者・故遠藤昭雄氏に対して)忖度はしていない」などと主張。
牧場側も「原告らには報酬としてではないが菓子とジュース、1000円前後の小遣いを与えていた。食事も朝・昼・晩の3食を提供し、肉や魚などで調理したものを出していた」と主張するなど、双方は真っ向から対立している。

なぜ?原告の口座から100万円引き出される

弁護側によれば、前回の裁判の後にさらなる調査を行ったところ、当時、原告のうちの1人が作業中にけがを負っており、労務災害手続きを行っていたという。なお、その内容についてどのように対応するかは弁護団で今後検討するとしている。
21日に開いた口頭弁論では、弁護団のうちの1人、中島哲弁護士が準備書面に基づいて陳述を行った。
その中で中島弁護士は、遠藤牧場の酪農部門では牛を70頭程度飼育しており、1頭につき30㎏のエサが1日に必要で、約60㎏のフンを出すことがわかったとした。それに加え、「牧場の営業計画書によると2008年当時、牧場のうち7ヘクタールの畑があり、 その畑を原告ら3人で担当していた」と述べた。
また、ある原告の定期預金口座には1300万円が入っていたものの、それが1年以内に全額引き出されていたという。牧場側はその使用用途について「わからない」 と回答。中島弁護士は「こんな多額の金額について『分からない』ということは普通は考えられない」と指摘した。

そして新しい事実として、農協が提出した資料などによれば2009年7月、牧場側が車を1台購入。11月にもさらに車を1台購入し、2台目の車を購入した3日後には原告2人の口座から計100万円が引き出されていたという。
その上で中島弁護士は「遠藤牧場においては、原告らに対して、身体的虐待、心理的虐待、経済的虐待、放棄・放置など、性的虐待以外のほとんどすべての虐待が行われていたといっても過言ではない」と批判した。

原告「お金を口座に戻して」と語気強める

裁判の後に開かれた報告集会には前回に引き続き、原告のひとりである佐藤さん(仮名)も出席した。支援者からは「(牧場側の)健康管理がしっかりなされていれば、このような事態にならなかったのではないか。健康管理でさえ、ずさんで訴えても訴えきれない。(原告らが)人として扱われておらず腹立たしい」などといった意見が出ていた。
陳述を行った中島弁護士は「牧場主側に弁護士がついておらず、故・遠藤昭雄氏の妻が姿を見せていないこともあり、ある意味でまともな主張が出てこなかった。そのため弁護側としてもまともな反応を出しづらかった。ただその中でも、弁護側が十分に立証できるようなことを主張した」と陳述を振り返った。
佐藤さん(仮名)は、「(フンの処理などは)大変だった。お金を口座に戻してほしい」と訴えていた。

次回の裁判は5月13日に札幌地裁で開かれる予定だ。この期日までに被告側はこれまでの事実経過を確認。故・昭雄氏の妻から聞き取った 陳述書が提出される見通し。


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