
往年のスーパーカブをイメージしたポニーブルーのボディカラー、2トーンのシートやメッキのマフラーカバーなど特別な装備も魅力だが、やはり“ファイナルエディション”すなわちこれで『終売』となることが人気の理由だろう。
「出前のバイク」で多くの人に知られた小型二輪
スーパーカブ50の初代モデルが登場したのは1958年。当時はまだ、日本の主要道路の舗装率が10%程度の時代。そんななかで、配達業務に使いやすいよう右手だけで運転できる設計にした実用車の鑑といえる原動機付自転車(以下、原付)だ。その実現のために採用されたのは、左手グリップからクラッチレバーを取り払い、右手と左足でギア操作できるという画期的なアイデア。この難題をクリアしたことで、乗り物に興味のない人でも“出前のバイク”として、多くの人に知られる存在となった。
長い歴史において低床バックボーンフレームやプラスチックのカウルなど基本的なスタイリングを変えていないことでも知られる。そんなスーパーカブ50の歴史が終わってしまうとなれば、スーパーカブにお世話になったユーザーやファンがファイナルエディションに殺到したのも無理はないだろう。
とはいえ、いまだ存在感、そしてニーズも十分にあると思われるスーパーカブ50。このタイミングで消滅してしまうのは残念であり、納得できない部分もある。
開発初期のコンセプトは「出前の人が片手運転できるように」。当時からゆうに半世紀を経過しているが、いまやフードデリバリーは外食でも当たり前のビジネスモデルとなっている。ラストワンマイルの配達業務において、こうした実用バイクが役立つシーンは数多くあるはずだ。スーパーカブの利便性を考えれば、おそらく当面はその需要が衰えることはないだろう。
スーパーカブ50“消滅”の理由は排ガス規制
実はスーパーカブ50が消滅する理由はニーズとは別のところにある。世界的な環境規制により、二輪車には排出ガスの規制が設けられ、原付もその対象となっているのだ。2022年11月から、現行の生産車は新しい排ガス規制の基準を満たさなければいけなくなった。しかし、原付のように総排気量が50ccという小排気量では、排ガスをクリーンにすることが技術的に難しいことから、2025年10月までが猶予措置となっている。
とはいえ、猶予期間中に50ccの原付で最新規制をクリアすることは現実的ではないため、道路交通法の施行規則改正によって原付の新しい基準が設けられることになった。
その内容は、総排気量125cc以下としながら、従来の原付免許でも乗れるよう最高出力を4kW(約5.4馬力)に制限するというもの。これが「新基準原動機付自転車(以下、新基準原付)」で、2025年4月から公道で乗れるようになる。
スーパーカブ50はこうした動きに合わせ、新基準原付きに切り替わるため、50ccのスーパーカブとしてはファイナルになるというわけだ。原付き免許で乗れるスーパーカブ自体が消えてしまうわけではない。
次のスーパーカブは約5馬力の110ccモデルの“進化版”
現時点では新基準原付に対応したスーパーカブは正式発表されていないが、すでに新基準原付となるスーパーカブの試作機は警察庁によって走行性能を評価されている(下図の新基準原付「C110」参照)。警察庁による新基準原付の走行評価
その発表データを見ると、エンジンは110cc相当で、最高出力3.8kW(約5馬力・実測値)、最大トルク7.0Nm(実測値)となっている。50cc仕様のスーパーカブは最高出力2.7kW・最大トルク3.8Nmなので、新基準原付になれば、トルクフルで乗りやすいスーパーカブに進化していることが期待できる。
なお、スーパーカブには原付二種モデルとしてスーパーカブ110が存在する。
当然だが、原付二種モデルは道路交通法施行規則の改正後においても運転には小型二輪免許が必要となる。原付免許で新基準ではない原付二種バイクに乗るのはNGなので注意してほしい。
長年愛され続けたスーパーカブ50は「ファイナルエディション」をもって、残念ながら“消滅”する。だが、代わって、新基準原付仕様のスーパーカブにその魂が受け継がれるため、これからも多くの人に親しまれるだろう。