こうした事態を受けて政府は今月、備蓄米21万トンの放出を発表。3月半ばにも放出を始め、必要があればさらに拡大するという。
一方で、インターネットオークションやフリマアプリでは、一般的な米が3キロ3000円と平均価格よりもさらに高値で販売されたり、それまで米を出品していなかったアカウントが突然、「家にあったものです」と出品したりするケースが見受けられた。
米を転売する人の存在が米の価格高騰に影響していると指摘するエコノミストもおり、SNSでは「転売ヤー」を非難する声が多く上がっている。
米の転売に違法性はない?
日本の食文化を支える「米」の転売は法律に抵触しないのだろうか。刑事事件に詳しい杉山大介弁護士は、「米の高額転売行為自体が直ちに違法になるわけではない」として、こう説明する。
「現在、高額転売行為そのものを違法としているのは、いわゆる『チケット不正転売禁止法』くらいです。
他には、コロナ禍の時にマスク等が高額転売されたことを受けて、『国民生活安定緊急措置法』によって一時的にマスクや消毒用アルコールの転売が違法になりました。
しかし、法律は原則として転売行為自体を犯罪としていません」
「国民生活安定緊急措置法」での転売規制は現実的か
政府が備蓄米の放出を決めたことからも、米の需給バランスが崩れている状況といえるだろう。コロナ禍のマスクと同じように、「国民生活との関連性が高い物資及び国民経済上重要な物資の価格及び需給の調整」を行うことを目的とした、「国民生活安定緊急措置法」で米の転売を禁止することはできないのか。
杉山弁護士は、「マスクの時も半年に満たないかなり限定的な期間で行った措置だった」とした上で、「『値上がりして買いづらい』と『買えない』には差があります。現時点では、米についてコロナ禍のマスクほど緊急に管理する必要性や不足が起きているとまでは評価できないのではないでしょうか」と述べ、政府による強硬手段の発動には慎重であるべきとの見解を示した。
「転売ヤー」規制が難しいワケ
しかし、杉山弁護士は転売ヤーを擁護しているわけではない。「少し経済学っぽい言葉使うと、社会全体の“効用”を増やした人が利益を得られるという構造が、社会において正当なビジネスということになります。
たとえば、転売ではあるものの流通網を設け、取引の機会を増大させている商社や伝統的には古物商などは、社会的な役割を担い、転売において利益を得る、あるいは与える正当な理由があるわけです。
一方で、高額転売者などのいわゆる『転売ヤー』はと言うと、“効用”を阻害しています。水路に勝手に水門をたくさん設けて通行料をとり、水や人の流れを妨げる邪魔者というのを想像するとわかりやすいと思います。
つまり、人々に物の価値が届けられるプロセスに、非効率的な形で介入し、取引コストだけを増加させている。社会的に言えば、存在する価値はありません」
しかし、過度な規制は通常の商取引も阻害してしまう可能性がある。「そのため、法律などのルール作りが難しい側面を持つ」と杉山弁護士は話す。
現実的な“対抗”手段
では、今後社会はどのように転売ヤーに対抗していくべきなのか。「基本的に、高額転売者は価値を生み出すような流通ルートをもっているわけではありません。
ですから、高額転売者に流通ルートを提供して手数料を得ているインターネット市場の開設者(運営者)に対して管理責任をより強く求めていくというのが、現実的にとれる手段のように思います。
ただしその場合、管理コストが増大するため、一般的な取引においても、手数料など消費者が負担するコストが増える可能性もあることを理解しておくべきでしょう」(杉山弁護士)