
プリクラマシーンは侵入が簡単で外から見えづらく、犯罪が起きやすい構造になっている。
わいせつ行為や盗撮、盗難プリクラで起こる犯罪
1月16日、島根県松江警察署は、埼玉県川口市在住の中国籍男性を強制わいせつの容疑で逮捕。2022年6月、松江市内の商業施設に設置された写真シール作製機(プリクラマシーン)で撮影中だった女性2人に向けて、男性が射精したとの疑いだ。プリクラでの犯罪は、これまでにも多々起こっている。報道によると、2024年5月、福岡県福岡市のプリクラマシーン内で撮影中だった韓国人女性のカバンが盗まれそうになり、会社員の男性が窃盗未遂容疑で現行犯逮捕された。
また、2022年11月には、兵庫県伊丹市でプリクラ撮影中の女子中学生のスカート内が盗撮される事件が起き、兵庫県宝塚市に住む会社員男性が迷惑防止条例違反の疑いで逮捕されている。
「入りやすさ」と「見えにくさ」に対策が必要
なぜ、プリクラは犯罪が起きやすいのか。また、犯罪を予防するため、プリクラマシーンを製造するメーカーや、ゲームセンターなどマシーンを設置する施設が取れる対策はあるのか。犯罪学者の小宮信夫教授(立正大学)は、犯罪の機会を与えないことによって犯罪の未然の防止を目的にした「犯罪機会論」を研究している。
犯罪機会論で指摘されるのは「犯罪は『入りやすく、見えにくい場所』で起こる」という点だ。
そして、誰でも簡単に利用でき、撮影現場を周囲から見られないプリクラはまさに「入りやすく、見えにくい場所」だ。したがって、「入りにくく、見えやすい場所」にする対策が必要となる。
だが、単に「入りにくい場所」にするとプリクラマシーンは密室となり、機内での犯罪をむしろ助長するおそれがある。
「そのため、少しだけ 『入りにくく、見えやすい場所』にするのがよいでしょう」(小宮教授)
「少し入りにくくする方法」の例としては、入場待ちの列を整理するためのベルトパーテーションをプリクラマシーンの前に設置する方法がある。
つまり、プリクラに入るまでにかかる時間や距離を長くするということだ。これにより、瞬間的な犯罪を実行することや、マシーンの前で盗撮することが難しくなる。
列を整理するためのベルトパーテーション(tantan / PIXTA)
「少し見えにくくする方法」としては、プリクラの撮影スイッチを押した時点でカーテンが閉まる仕組みにする、という方法が考えられる。これにより、撮影の瞬間だけ、見えにくい環境を作り出すことが可能になる。
さらに、マシーンが設置されている施設全体で取れる対策として「防犯カメラの設置」がある。
「特に、通路を歩く利用客がよく映るようにカメラを設置することが重要です。また、その映像を大画面モニターに映し出し、利用客がカメラの存在を意識できるようにすることも大切です。そうすれば、防犯カメラは犯罪の抑止力になります」(小宮教授)
もっとも、機械や施設を改善するには多額の費用がかかるため、対策をすぐに実現するのは難しい。したがって、プリクラを利用する個々人が注意を怠らないことも必要だ。
具体的には、そもそもプリクラマシーンとは犯罪が起きやすい環境であることを意識し、周囲への警戒を怠らないことが重要だ。
「また、手荷物は常に身に付けるようにして、撮影中などで体から離す必要がある場合には、プリクラマシーンの外部から手を伸ばしても届かないような場所に置くことも大切です」(小宮教授)
体液をかける行為はどのような犯罪にあたる?
前記の通り、松江市で起きた事件では、中国籍男性が「強制わいせつ」の容疑で逮捕された。強制わいせつ罪の法定刑は6か月以上の10年以下の懲役。構成要件は「暴行または脅迫を用いて」「わいせつな行為」をすることだ。そして、刑法に詳しい空田晃典弁護士によると、被害者の隙(すき)をついたような方法でわいせつな行為を行った場合にも、強制わいせつ罪は成立するという。
「本件では、プリクラ撮影中の女性に対して体液をかけていることから『隙をついた』ともいえます。
また、体液をかける行為は、通常は性行為等の際に起こるものです。それをプリクラ撮影中の女性に対して行うことは、不法な有形力の行使にあたるため『暴行』ともいえます」(空田弁護士)
なお、男性の行為は島根県迷惑防止条例第4条4号に定められた「卑わいな言動」に該当する可能性も高い。ただし、迷惑防止条例違反よりも強制わいせつ罪の方が法定刑が重いため、捜査機関はそちらの罪で逮捕・立件したものと考えられる。
また、「体液をかける」と類似した事案として、自己の体液をスポイトにいれて、それを他人にかけた男性が逮捕される場合もある。このようなケースでは「器物損壊罪」の疑いとして報道されることが多い。
「おそらく、体液をかける行為と比して、スポイトから体液を発射する行為が『わいせつな行為』といえるかは捜査機関としても自信がないため、器物損壊罪で逮捕しているものと思われます。
私の個人的な感覚としては、スポイトから発射してもわいせつ性を認めてよいと思いますが刑事司法は『疑わしきは被告人の利益に』の原則で動くため、捜査機関は強制わいせつ罪での立件には慎重になり、体液によって衣服が汚れた点をとらえて『器物損壊罪』としているのでしょう。
もし、スポイトの体液を他人の顔や髪の毛にかけたが、服が汚れなかった場合には、わいせつよりも立証のハードルが低い迷惑防止条例の『卑わいな言動』や、刑法208条の暴行罪に問うものと考えられます」(空田弁護士)
なお、2023年7月の法改正により、強制わいせつ罪は「不同意わいせつ罪」に変更された。
「男子禁制」は差別なのか?
プリクラでは盗難も起こるが、松江市や伊丹市の事例のように、わいせつや盗撮などの性犯罪が多く起きている。また、ナンパなどの迷惑行為も行われているという。このため、多くの施設は、男性客のみでのプリクラ利用を制限する「男子禁制」の措置をとっている。しかし、この措置に対し男性が「差別だ」との声をあげる場合も多く、SNSでもたびたび「プリクラの男子禁制は性差別か」との議論が起きてきた。
差別だろそもそも、法律的には、「差別」とはどのような物事を指すのだろうか。
男にもプリとらせろ pic.twitter.com/Ih2rVdKxqn
ウニトクジロウ (@unitoku_1592) March 11, 2024
日本国憲法14条は「すべて国民は、法の下に平等」として「平等権」を定めている。したがって、男女を不平等に取り扱うことは「差別」といえるかもしれない。
しかし、憲法とはそもそも国民ではなく「国家」に向けられたものだ。逆に言えば、憲法は一部の規定を除いて直接的には国民に適用されない。ただし、私法の一般条項(民法1条、90条、709条等)を通じ、間接的にのみ適用されるというのが通説的見解となっている。いわゆる「私人間効力」である。
それでは、はたしてプリクラの「男子禁制」は法律上の差別にあたるのか。
空田弁護士は「どのような人物をプリクラマシーン内にいれるかは、設置者の経営的判断によるところであり、私人間効力の観点からしても、強く男女平等が要請される場面ではありません」と指摘する。
近年では男性の性被害も注目されるようになってきた。
「とはいえ、類型的には男性は性犯罪の加害者側になることが多いと、社会的に広く認識されています。
したがって、私は、プリクラの男子禁制は『合理的規制』として許容されると考えます」(空田弁護士)