
今年2月には、茨城県神栖市で定員オーバーの軽自動車が横転。乗っていた男女7人(16~18歳)のうち高校生1人が死亡し、4人が重軽傷を負う痛ましい事故が発生した。運転していた18歳の会社員は、運転免許証を取得したばかりだったとみられている。
若者は事故を起こしやすい?
警察庁の統計によると、昨年、免許保有者10万人当たりで事故を起こした件数がもっとも多かった年齢層は、16~19歳(976.3件)、次いで20~24歳(551件)だった(※)。※ 警察庁「令和6年中の交通事故の発生状況」より、一般原付以上運転者(第1当事者:最初に交通事故に関与した事故当事者のうちもっとも過失の重い者)の年齢層別免許保有者10万人当たり交通事故件数
つまり、運転免許証を持っている人の数で比べると、若年層が事故を起こした割合が他のどの年代よりも高かったことになる。
さらに死亡事故に限定すると、16~19歳は10.29件で、もっとも多い85歳以上の10.67件に迫る勢いだ(20~24歳は3.52件)(※)。
※ 警察庁「令和6年中における交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」より、一般原付以上運転者(第1当事者)の年齢層別免許保有者10万人当たり死亡事故件数
では、どのような要因が事故につながっているのか。事故を起こした人の法令違反(免許保有者10万人当たり件数)を年齢層別にみると、16~19歳、20~24歳の1~5位は次のようになっている。
警察庁の統計をもとに弁護士JPニュース編集部が作成
「安全運転義務」が他の違反項目に比べ突出しているのは、「運転操作不適」「漫然運転」「脇見運転」「動静不注視」「安全不確認」「安全速度」の合計であるため。2位以下には、16~19歳と20~24歳で順位の違いがありながらも、「信号無視」「一時不停止」「交差点安全進行」「優先通行妨害」といった、基本的な交通ルールを無視した行為がランクインしている。
ただし、これらの法令違反は他のどの年代でも多い傾向にあり、若年ゆえの特徴であると言うことはできないだろう。
ところが死亡事故に限ると、特に16~19歳では「信号無視」「最高速度」、安全運転義務のうち「運転操作不適」「漫然運転」の件数が「1.00」件以上となっており、警察庁の統計でも顕著に多い違反であるとして網かけで値が示されている(下図)。

警察庁「令和6年中における交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」より
「信号無視」や「最高速度」違反の多さからは、危険を認識する能力や状況に応じた適切な判断力の未熟さが伺える。
また「運転操作不適」や「漫然運転」は、運転中の注意散漫や安全意識の低さを示したもの。運転経験の浅さに起因する基本的な技術不足、運転中の集中力維持ができていないことなどが推察される。
同乗者が死亡…運転者、他の同乗者の責任は
たとえ運転免許証を取得したばかりであっても、ひとたびハンドルを握れば経験不足や未熟さは事故の言い訳にはならない。法令違反などずさんな運転によって事故を起こし、同乗者を死亡させたりケガを負わせたりした場合の責任について、交通事故事件の対応も多い伊藤雄亮弁護士は次のように説明する。「まず運転者は、過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪などに問われる可能性があります。同乗者についても、飲酒運転を知りながら同乗したり、スピードを出すようあおったりしていれば、同様に刑事責任を問われる可能性があると考えられます。
同乗者に過失があった場合にも運転者の刑事責任がなくなるわけではありませんが、量刑の判断において考慮される余地があります」
民事の観点からは、「運転者は同乗者全員に対して責任を負う可能性がある」(伊藤弁護士)とした上で、同乗者の責任についても言及する。
「たとえばスピードを出すことに同調するなど、同乗者にも過失があった場合には、その同乗者が死亡したり、ケガを負ったりしたとしても、過失相殺の対象になる可能性があります。
2月に茨城で発生した事故では、定員オーバーで乗車していたということで、誰かがシートベルトをしていなかったと考えられます。現在は後部座席を含めてシートベルトの着用は法律で義務化されているため、それが原因で死やケガに至った場合には過失相殺が認められる可能性が高いです」(同前)
遺族は誰に対して損害賠償請求する?
事故で亡くなった同乗者の遺族は、運転者や他の同乗者へ損害賠償を求めることができるのだろうか。伊藤弁護士は「基本的に運転者に対して損害賠償請求することになる」と言う。「自動車保険が適用されるような通常のケースを想定すると、一般的に民事訴訟の被告は運転者と車の保有者です。
また、同乗者の言動が事故を引き起こす一因になった場合であっても、特別な事情がない限り、運転者の責任がなくなるわけではないと考えられます。そして自動車保険は、無謀な運転をするようあおった同乗者に対しては必ずしも適用されるとは限らないため、損害賠償請求したとしても同乗者からは被害回収できない可能性があります」
伊藤弁護士自身も、同乗者が他の同乗者に対する責任を問われた事例について相談や依頼を受けた経験がないという。
事故が起きてしまえば、気まずさから、同乗していた仲間どうしがその後も変わらず付き合い続けることは難しくなるだろう。楽しいはずのドライブが一生のキズとならないよう、各自が責任を自覚した上で、出掛ける際にはくれぐれも羽目を外さないでほしい。