今年1月、ハンガリーで日本人の女性Aさんが死亡し、アイルランド人の元夫が殺人の疑いで逮捕された。
事件以前からAさんは元夫によるモラルハラスメント(モラハラ)を含むDVを受けていたことが報道等で明らかになっている。

その内容は、首を絞めるといった直接的な暴力のほか、元夫が子どもたちやAさんの友人に対し「お前の母親はクズだ」「彼女はひどい母親だ」などとAさんの人格を否定する発言もしていたというもの。さらに、昨年11月には「痛みとともにゆっくりと死ねるだろう」と殺害を匂わせるようなメールも送られていたとされる。
こうしたDV被害について、Aさんは警察や大使館に再三相談。しかし、いずれもAさんが望む対応は得られなかったようだ。
岩屋毅外務大臣は「日本大使館は、ハンガリー国内で公権力を行使できないので、もしDVの被害があるようであれば、現地の警察に相談するよう女性にアドバイスした。対応は不適切ではなかった」と発言(2月14日、衆議院予算委員会内)。
一方、現地の警察はHPで「対応は不適切だった」と謝罪し、幹部ら6人を懲戒処分にした。
離婚・男女問題に多く対応する佐久間一樹弁護士(ベリーベスト法律事務所)は、報道だけでは詳細な事実関係についてはわからない部分もあるとしつつ、「モラハラやDV被害の事件に関わる弁護士として、非常に心を痛めています」と話す。
「現地の警察や大使館の対応などが直ちに改善され、二度とこのような事件に発展しないことを願います」(同前)

海外での事件は「対岸の火事」ではない…日本でも深刻なDV被害

今回の事件は海外で起きたケースだが、佐久間弁護士は「男女関係のトラブルが暴力事件に発展することは、日本でも多くある」と話す。
2023年度の国内でのDV被害相談は12万6000件に上り、うち約1万7000件が元配偶者からの被害相談だった(内閣府男女共同参画局「配偶者暴力相談支援センターにおける相談件数等(令和5年度分)」より)。
では、“元”も含めた配偶者や交際相手からDV被害を受けた際、被害者はどのような対抗手段があるのだろうか。
DV被害の相談先として、多くの人が真っ先に思い浮かべるのは「警察」だろう。
もちろん警察や被害者支援団体に相談することも有効だが、相談先の選択肢のひとつとして思い浮かぶ弁護士はどのような役割を担っているのか。

「モラハラやDV被害の解決に向けては、離婚や生活費、お子さんの問題などが複雑にからむことも多く、弁護士はそうした問題にも対応しています。離婚調停など裁判所への各種手続きの申し立てをスムーズに行うことができるのも、弁護士に相談するメリットです」
相談者の抱える状況によっては、弁護士以外の相談先を紹介することもあるという。
「警察や配偶者暴力支援センター等への相談がもっとも適切と考えられる場合には、そちらを案内することもあります。一度弁護士と相談することで、『大げさなのではないか』といった不安も軽減されるのではないでしょうか。警察への被害届提出に弁護士が同行することもありますよ」

被害者も気づきにくいモラハラ「信頼できる人に相談して」

一方で、佐久間弁護士はモラハラやDV被害を「被害者本人が気づいていない」ケースも多いと指摘する。
「特に暴力を伴わないモラハラは、被害者自身も自覚しづらく、第三者に注意されるまで認識できていないことも多いです。国内の相談でもそういうケースがあるので、海外在住の方は余計に、『文化の違いかも』と悩んだり、心細く感じることも多いのではと想像します。
国内外問わず、パートナーの言動がちょっとおかしい…と違和感を覚えた時には、弁護士でなくても構いません。“すぐに”信頼できる方に相談してみてください」
警察や弁護士などに相談することを決めた場合、ここでもまた“すぐに”を意識してほしいと佐久間弁護士は続ける。
「警察や弁護士への相談というと、『証拠を集めてから』など準備をしなければいけないように感じる方もいらっしゃいますが、少なくとも弁護士は、証拠がないからといって相談を断ることはほとんどありません。
モラハラやDVの多くは“家庭内”で行われるため、証拠が少ないことは当たり前。それよりもご自身の身体や気持ちがまずは大事だと私は思いますので、証拠のことを心配するよりも“すぐに”相談いただきたいです」

証拠は重要だが…“取り扱い注意”なケースも

その上で、有力な証拠について佐久間弁護士は以下のように説明する。
「暴言や暴力を受けているときの録音・録画、暴力を受けた際の怪我の写真や診断書、警察等への相談記録などが考えられます。

また、相手とのLINEやメッセージのやりとり、家族や友人へ相談しているやりとりも証拠になります。他にも、日記が有力な証拠として扱われることもあります。
もしも相手との離婚を考えているなら、弁護士との相談時には、相手の財産関係の証拠(預金通帳、不動産の権利書、証券会社の口座の有無等)の写真やコピーなどをお持ちいただくと、ご相談やその後の協議に役立つと思います」
ただし、証拠がそろっている人ほど、気をつけなければならない点もあるという。
「日本の裁判所に限って言えば、動画や録音といった証拠を採用しない例は少ないです。ただ、国によっては無断の録音が禁止されていることもあります。この点は、特に海外在住の方には留意していただければと思います」(佐久間弁護士)


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