人質司法を巡り、3月24日、裁判中の被告人や、無罪が確定した男性ら4人が、勾留や保釈の根拠となる刑事訴訟法は違憲であるとして、計440万円の損害賠償を求める国家賠償請求訴訟を東京地裁に提訴した。
同日、原告の一部と弁護団が都内で会見。代理人の高野隆弁護士は「ここまで広範に、現行の刑事訴訟法の違憲性を問う訴訟はおそらく歴史上初めてではないか」と話した。
「裁判が始まるよりも前に事実上の処罰受ける」
弁護団によると、原告となった4人はそれぞれ、強制わいせつや覚せい剤取締法違反などの罪で逮捕されており、逮捕後、判決が確定するまでの間数か月から数年程度、勾留されたり、保釈が認められないなどの拘束を受けた、もしくは現在進行形で受けているという。中でも、詐欺被疑事件で勾留されているCさんは、2018年12月18日に拘束されて以降、裁判も進んでおらず、6年以上不当に身柄拘束され、現在も独房にいる。さらに、法的根拠が不明の接見禁止により、弁護人以外と会うことも制限されているという。
高野弁護士は「明らかに理不尽な状態が、この国では戦後80年間にわたって続けられている」として、今回の訴訟の意義について、次のように述べた。
「日本では、裁判が始まるよりも前に、被疑者、被告人となった人は身体を拘束され、事実上の処罰を受けます。そして、自分は無実であると主張した人は、なおさら拘束期間が延びてしまいます。
この理不尽さは、日本で刑事弁護に携わっているたくさんの弁護士が共有するものです。
単に捜査官側から疑いをかけられたというだけで逮捕され、逮捕の瞬間から、裁判なき刑の執行が行われる。このようなことが、近代的な民主主義国でまかり通ってしまっている状況をなんとかしなければいけません。そういう思いで、われわれは4人の犠牲者とともに戦います」(高野弁護士)
「恣意的な解釈を残す条文を修正し、より具体的な基準を」
訴状などによると、原告側は刑事訴訟法60条1項2号や81条、89条1号、同3号、同4号がこうした人質司法の元凶になっていると主張する。刑事訴訟法60条1項2号では「裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合」で、かつ「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときにはこれを勾留することができる」と規定。
同様に、刑事訴訟法89条も、保釈の請求があったときは、「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」(同条4号)など一定の場合を除いて、許さなければならないと定めている。
原告側はこれらの条文が、適正手続の保障について定めた憲法31条から導かれる「推定無罪の原則」や、「何人も、正当な理由がなければ、拘禁されない」とした憲法34条に反しており、無効だと訴えている。
「刑事訴訟法が作られた経緯を振り返ると、これらの条文は当時の司法省ではなく、戦後、憲法を制定した議会と同じ議会による議員立法で作られました。
当初の文言では『罪証隠滅の恐れがあるとき』が勾留理由や保釈請求却下の理由に含まれていましたが、当時の国会議員たちは『それでは否認した人が皆勾留され、保釈も認められない恐れがある』と司法省の政府委員に質問しています。
これに対し、政府委員は『否認した人全員に勾留の恐れがある、とはならない』『誰が見てもこの人は証拠を隠滅するに違いない、という人だけを勾留するための規定だ』と説明しています」(高野弁護士)
それでも、当時の国会議員は「相当な理由がある場合だけに限るべき」として、議員立法で「罪証隠滅の恐れ」を勾留理由・保釈請求却下の理由に含まない修正案を作成。この修正案が現行法として成立した。
「しかし、現実には、政府委員が説明したよりも、はるかに低いレベルで、つまり『口裏を合わせする恐れがある』『否認しているから、どういう弁解をするかわからない』といった抽象的な理由で、人々を勾留し、保釈請求を却下するという運用がなされてきました。
これらの恣意(しい)的な解釈を残す条文を修正し、より具体的な基準を出すべきです」(同前)
「人質司法の実情を広く知っていただきたい」
また、会見に参加した宮村啓太弁護士は次のように述べた。「刑事弁護に携わる弁護士として、個々の事件で依頼者の身体拘束を争うことは当然必要ですが、それだけで現在の実務を変えることはできません。
これまでにも人質司法の問題について情報発信をしてきたつもりですが、刑事弁護を受任すると、依頼者が『こんな制度なのか』『これでは刑罰じゃないのか』と驚くことがよくあります。
今回、4人の方が『今後、自分たちと同じような経験をする方が生まれないように』と決意しました。この裁判を通じて、ぜひ人質司法の実情を広く知っていただきたいです」