「結婚式といえばアルカディア」
福岡や佐賀に住む人なら、一度は耳にしたことがある名前ではないだろうか。2月26日、結婚式場運営会社の「アルカディア」(本社:福岡県久留米市)が突然の事業停止を発表し、福岡地裁久留米支部へ破産申請を開始した。

長年、地元のカップルに愛され、テレビCMでもおなじみだった結婚式場の破産ニュース。式場を予約していたカップルはもちろん、これから結婚式を考えている人たちも「もし自分たちの式場も突然倒産したら……」と不安を抱いたことだろう。
予告のない破産申請で、結婚式が中止に追い込まれた被害者カップルたちは、結婚式場に対し、あらかじめ支払ったお金の返還請求や損害賠償請求をすることができるのか。そして今後挙式を考えるカップルは、予想できない“突然の破産”にどう備えればいいのか?
結婚式のトラブルへの備えと対処法について、消費者被害に多く対応する北島菜月弁護士に聞いた。(倉本菜生)

突然式場が破産…支払ったお金は戻ってくる?

今回の破産は、アルカディアの元社長と取締役が、新型コロナ対策の「雇用調整助成金」を不正に受給していた問題が発端となっている。
前社長を含む経営陣8人が詐欺と不正受給の疑いで逮捕され、福岡労働局は先月21日、アルカディアに対し、助成金と違約金など約12億円の返還命令を出した。
業績不振が続いていたこともあり、資金繰りが悪化。予約していたカップルに十分な説明がないまま、挙式が実施できなくなる事態となった。
カップルたちがアルカディアに支払っていた予約金や保証金は、戻ってくるのだろうか。
まず理解しておくべきなのは、「破産」と「倒産」の違いだ。北島弁護士は、次のように解説する。
「破産とは、会社の事業を終わらせて清算をするための債務整理の手段のひとつです。債務超過や支払い不能により、経営が困難となった会社が裁判所に申し立てを行うことで、手続きが進みます。

一方、倒産には法的な定義はありません。一般的には、『業績不振によって債務の返済ができず、事業を継続できない状態』を指して使われることが多いです。
倒産という大きな枠組みの中に、破産という法的な手続きが含まれているとイメージすれば、分かりやすいかもしれません」
つまり、倒産は広い意味での「経営破綻」を指し、会社が経営を続けられなくなる状態を表している。事業を終わらせて清算する場合は「破産」、事業の継続を目指して立て直しを図る場合は「民事再生」の手続きが必要となる。
その上で北島弁護士は、破産申請を行ったアルカディアに対しては「式を予定していたカップルたちが返金を求めたとしても、すでに支払いが完了している分は返金されません」と説明する。
「破産手続きでは、破産管財人が会社の資産を換価・現金化し、組み込まれた『破産財団』から、債権者へ公平に分配されます。
被害者カップルが債権者となる場合であったとしても、返金が優先されるのは金融機関への借入金や従業員の未払い給与であるため、一般の顧客であるカップルに配当される可能性は極めて低いと考えられます」
同様の理由から、会社を相手にした損害賠償請求を行っても、実際に履行させるのは難しいという。

経営者「個人」への損害賠償請求は可能?

では、被害を受けたカップルたちが、すでに支払った費用や、別の式場への変更による追加負担について、会社ではなく“経営陣”に請求することはできるのだろうか。
北島弁護士はこれについても「難しい」と続ける。
「法人と経営者は法律上、別人格として扱われます。そのため、原則として元社長や経営陣に対し、個別に賠償責任を問うことはできないのです」
ただし、経営者が会社の資金を私的に流用していた場合や、意図的に顧客を欺くような行為をしていた場合には、取締役個人の責任を問える可能性も考えられる(会社法429条1項、民法709条参照)。
今回のアルカディアの破産にあたっては、複数の自治体や結婚式場運営会社が、被害にあったカップルの救済に乗り出している。
北九州市では、結婚式がキャンセルとなったカップルを対象に、市内の施設や観光地を活用し、無料で結婚式やフォトウェディングを提供する支援策を発表。
佐賀県でも、県の施設を式場として提供すると発表した。
また、福岡市のホテルニューオータニ博多は、すでに契約していた司会や衣装、花などの持ち込み料を免除し、新しく作り直す案内状の費用を負担するなどの支援を行っている。
しかし、こうした支援を利用する場合でも、すべての費用が補填(ほてん)されるわけではない。
「アルカディアでの契約内容がすべて、そのまま引き継がれるわけではないので、どうしても、何かしらの別途費用は発生してしまうかと思います」(北島弁護士)

カップルができる「備え」とは?

幸せに包まれていた多くのカップルを絶望へと突き落としたアルカディアの破産。
今後、同様のリスクを回避するために、挙式を予定しているカップルが結婚式場との契約時にチェックしておくべきポイントを北島弁護士は次のように伝える。
「返金の有無など、キャンセル時の式場の対応を事前に確認しておきましょう。また、結婚式の費用については、当日払いや後払いができるかなど、支払い方法とタイミングも確認しておくとよいと思います」
結婚式は多くの人にとって、人生の節目となる大切なイベントだ。しかし、今後、同様のケースが起こらないとは限らない。突然のトラブルに巻き込まれないためにも、結婚式場の契約に関しては、十分に備えておく必要があるだろう。
■倉本菜生
1991年福岡生まれ、京都在住。龍谷大学大学院にて修士号(文学)を取得。専門は日本法制史。
フリーライターとして社会問題を追いながら、近代日本の精神医学や監獄に関する法制度について研究を続ける。主な執筆媒体は『日刊SPA!』『現代ビジネス』など。精神疾患や虐待、不登校、孤独死などの問題に関心が高い。


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