〈当館にて無料でお貸出しているベビーカーが2/4(日)と3/17(月)に2台が相次いで行方不明になりました〉
上記は、北海道小樽市にある「おたる水族館」が23日、Xに投稿したメッセージ。ネットニュースやテレビ番組にも取り上げられるなど大きな注目を集め、26日現在で1374.6万件の表示、11万いいね、2.8万リポストとなっている。

おたる水族館の担当者によれば、行方不明になったベビーカーには7万円と高額なものも含まれていた。これまでも貸出用のベビーカーがなくなったことはあるが、いずれも敷地内で発見されていたそうだ。
弁護士JPニュース編集部の取材に対して「盗難と確定したわけではないので、しばらく様子を見ます」と話したものの、ベビーカーは来館者が自由に借りられるようになっていたといい、報道では持ち去りの可能性も指摘されている。

ベビーカーレンタルサービスは需要拡大

小さな子どもを育てる人にとって、外出先の貸出用ベビーカーは大きな負担軽減になる。首都圏在住の30代女性は、次のように話す。
「電車移動の場合、車内が混んでいるとベビーカーを持ち込みづらいので、抱っこ紐で出掛けて外出先で借りられると安心です。自転車はもちろん、車で移動する場合も、外出先でベビーカーを借りられるのであればより身軽に移動できるので助かります。新幹線や飛行機を使った旅行の場合、預けるのが億劫なので、ベビーカーなしで行って現地で借りることも多いです」
旅行者の多いおたる水族館でも、休日には紛失前の9台すべてが出払うことも珍しくなかった。前出の女性のように身軽な旅行のため活用する人のほか、坂の多い館内に持ち込めない形状のベビーカーもあり、貸出用のベビーカーに乗り換える人もいたという。
ベビーカー貸出サービスの需要は全国で増加している。JR東日本グループが2021年4月に始めたベビーカーレンタルサービス「ベビカル」(有料)は当初、首都圏主要駅を中心とした18か所に設置されるのみだったが、今年3月13日までに全国246か所に拡大。現在はJR東日本の駅にとどまらず、全国の商業施設や他の鉄道会社でも導入されている。

ベビーカーの持ち去り「窃盗罪」ではない?

前述のように、現時点では、おたる水族館で2台のベビーカーが紛失した原因が盗難であると確定したわけではない。しかし、本当に何者かが意図的に持ち去っていたのだとすれば許されないことだ。

この場合の罪について「窃盗罪」(刑法235条)を思い浮かべる人も多いかもしれないが、刑事事件の対応も多い杉山大介弁護士は「今回は横領罪がもっともふさわしいと思います」と言う。
「たしかに、所有者の承諾なく自己の支配下に物を置くという意味では窃盗罪も浮かびますが、本件では貸出のために一度は占有(支配)の移転を認めています。よって、自分の支配下にある他人のものを自分のもののように使う横領罪がより適切ではないでしょうか。
ただ、最初から盗むために持ち出しているのであれば、その時点で所有者の意思に反した占有の移転となりますから、窃盗になり得ます」
横領罪(単純横領、刑法252条)に罰金刑はなく、有罪となれば「5年以下の懲役」が科せられる。また、窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」だ。
紛失に関する調査や被害届の提出などについて、おたる水族館は検討しているのか。弁護士JPニュース編集部が尋ねると、担当者は「現時点では未定」と回答した。
もっとも、横領罪も窃盗罪も被害者の告訴がなくても立件できる「非親告罪」だ。警察が街なかで不審に思ったベビーカーを調べたところ、おたる水族館から意図的に持ち出されたものだったと発覚すれば「刑事事件になる」(杉山弁護士)。

「盗難防止」とり得る対策は?

今後の対策について、おたる水族館の担当者は「まずは様子を見ながら検討していく」と明かした。
施設側がとり得る対策にはどのようなものがあるのか。杉山弁護士はこう提案する。

「ベビーカー本体に、敷地外への持ち出し時にセンサーで音が鳴るようなものや、位置情報を特定できるものを設置するなど、いくつかの方法はあるように思います。
性善説で回らない世の中は残念ですが、高価な備品で、台数もそう多くないのであれば、もう少し資源を投下して対策するのが現実的な手段ではないでしょうか」
なお、26日時点で、おたる水族館へベビーカーが返却されたり、目撃情報が寄せられたりするなどの動きはないという。


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