「ほとんどの手口は過去の騙しの手口がベースになっているんです」。こう明かすのは詐欺に詳しいルポライターの多田文明氏だ。自らも騙されかけた経験を交え、詐欺手口量産のカラクリを解析する。
※ この記事は悪質商法コラムニスト・多田文明氏の書籍『最新の手口から紐解く 詐欺師の「罠」の見抜き方 悪党に騙されない40の心得』(CLAP)より一部抜粋・再構成しています。
新しい詐欺手口はどのように編み出されるのか
「よく詐欺師は、よく新しい手口を次々に考え出す」。そう思っている人も少なくないだろう。「騙すための知恵を、まっとうな世界で使えば、間違いなく成功しているだろうに。もったいない…」という声を聞くほどだ。それほどに絶え間なく、巧妙な手口が考案されている。
ここで知っておいてほしいのは、「新しい手口」と言われるものは、突然変異のようにポンポンと飛び出してくるものではなく、なにかしらの発想の流れがあって生まれてくるものだということだ。
つまり、ほとんどの手口は過去の騙しの手口がベースになっている。従って、その手口がどのように発生してきたかを読み解けば、新しい手口が出てきても「この先には〇〇という結果が待っているな」と先読みして、ダマされないための対処が充分にできることになる。
騙しの手口は、常に変転している。
過去に多くの被害者を生み出した霊感商法や豊田商事事件。それらから、現代の振り込め詐欺における組織的詐欺まで一貫しているのは、手口を横へスライドさせるようにして、私たちを騙していく手法だ。実は、近年の新手口といわれているものをよくみると、案外、過去の手口を土台にして、やり口をスライドさせているものが多いことがわかる。
考えてみればこれは当然の帰結ともいえるかもしれない。なぜなら、これまでお金をだまし取るのにうまくいっていた方法は、ある意味、彼らにとっての成功法則だからだ。
もちろん、悪事が知れ渡り、そこに何らかの対策がうたれると、その手法は機能しなくなる。そこで、彼らは次の手に打って出てくるわけだ。その時、やり方自体をすべて変えてしまうのではなく、これまでの成功法則の土台はそのままに、アプローチ法などを少し横にずらした形で私たちの目をくらまそうとする。
霊感商法から開運商法へ
1980年代、霊感商法が巷で流行り、多くの被害者が出た。街頭で、「占いを見ています」「生活意識調査アンケートをしています」と声をかけ、勧誘場所へと誘い込む。あるいは訪問販売で、誘いをかける。そして、「占いをします」「家系図をとります」という名目で、相手の個人情報や悩みを聞き出す。
その上で、「あなたは、悪い因縁を背負っているので、不幸になっている。
私も街頭で「占いをしないか?」と声をかけられ、ついていった先で、自称占い師から、「あなたには、体を切る線が出ているので、このままでは、手術をすることになる。それは悪因縁によるものだ」と言われ、それを回避するための方法として、印鑑を買うようすすめられた。
この印鑑には、「邪気を払う力がある」というのだ。私は買わなかった。ちなみに、これまで私は手術をすることなど、一度もなかった。
20数年たったいまだから、偽占い師にはっきり言っておく。「あなたの悪霊による因縁話は、すべて、ハッタリだった!!」
こうした霊の恐怖を植え付けて騙す霊感商法自体、いまは少なくなっていると思っている人もいるかもしれない。だが、その後もこの商法は、脈々と進行している。形を変えて。
開運商法という手口をご存じだろうか。
この手口では、まず雑誌やネットなどの広告を通じ、数千円~1万円という安い値段でブレスレットや財布などの開運グッズを購入させることから始める。当然、業者は商品発送にあたって、相手の電話番号や住所などの個人情報を知ることができる。購入者はなにかしらの事情があって「運をよくしたい」と思い、買っていることが多い。
悪質業者はそこに目をつけ、その悩みやトラブルを聞き出すために「開運グッズの使用方法を聞くために、連絡してください」という手紙を添える。それに対して、まじめに連絡を取ってきた人に、「もっと運をよくするために、霊能師にみてもらいませんか?」との誘いをかけ、先の霊感商法の手口にもっていくのだ。
また、購入後に「開運の効果はありましたでしょうか?」と、グッズの効用を尋ねてくることもある。そもそも運など開けないようなまがい物を売っているので、なかには「効果がぜんぜんなかったです」とクレームをあげて、返品依頼をする人もいるだろう。
だが、この言動をしてもらうことこそが、彼らの狙いのひとつなのだ。
業者は次のように答える。「それはおかしいですね。この開運グッズは、購入者のみなさんから効果があると言って頂いています。
「なんですか」
「あなたの因縁が深すぎて、この開運グッズだけでは効果がでないということではないでしょうか。知り合いに、運勢を観てくれる有名な霊能師がいますので、ぜひとも、鑑定してもらった方がよいですよ。このままでは、どんどん不幸になってしまいます」
購入者が霊能師に電話をかけて鑑定を依頼すると、「あなたは、悪因縁に支配されている。このままでは、人生が大変なことになってしまう。先祖の霊を、寺で供養する必要があります」と言われて、供養や祈祷料金の名目で、数百万円の金を振り込ませされてしまうのだ。
これらはすべて電話だけのやりとりで行う。
なかには、祈祷代金を払うと、水晶玉や、寺などで祈祷した証拠の写真などを送ってくることもある。
このことからわかるのは、霊感商法への警戒が広がり、人々が騙されなくなると、誘い方を変更。「占いをします」という直接的なアプローチから少しスライドさせ、「開運グッズを買いませんか?」に目先をスイッチしている。
つまり、騙す側のプッシュ型から、悩みを持っている人が自発的にやってくるのを待つプル型をとるようになったのだ。だが、あくまで導入部分だけで、その後に行われる騙しの手口は、過去となんら変わりのない霊感商法そのものなのである。