日本で働く外国人労働者の数は増え続けている。しかし、国内の労働環境は外国人労働者にとって必ずしも十分とは言えない状況だ。
そうした中、三重県桑名市は、2024年5月に高度外国人材を確保するべく「外国人も働きやすく、住みやすいまちづくりの実現」に向けた包括連携協定を締結した。
このプロジェクトは、企業の外国人学生採用を支援する株式会社ASIA to JAPAN、外国人向けの不動産情報サイトを展開するwagaya Japan(株式会社日本エイジェント)と協力のもと推進されており、これまでに理系大卒の高度外国人材1名の採用につながっている。
桑名市が行っている取り組みの内容と現状、課題について、桑名市商工課・企業誘致課の担当者に話を聞いた。
包括連携協定の締結にいたったキッカケ
三重県桑名市の人口は2024年9月末時点で約13万8155人。生産年齢人口(15~64歳)に限れば8万3581人となっている。これは2017年の8万7144人から約3600人減となる数値だ(出典:三重県桑名市「地区別・年齢別・行政区別人口」)。桑名市の高度外国人材確保の取り組みは、このような人手不足に端を発したものであるという。
桑名市:「現在、桑名市では企業による大卒レベルの人材確保が課題になってきています。解決に向けて調査を開始したところ、外国人学生の採用を支援する『株式会社ASIA to JAPAN』の存在を知り、その後に同社から提案を受けたことが取り組みのキッカケとなりました。
また、ある外資系企業の方とお話しした際に『外国人というだけの理由で、入居が難しい』とのお声をいただきました。この点でも行政がサポートできないかと思い、(外国人向けの不動産情報サイトを展開するwagaya Japan(株式会社日本エイジェント)を含めた二社との)包括連携協定を結ぶことになったのです」
大卒の学生を確保したい狙いということだが、なぜ外国人なのか。
桑名市:「実際、奨学金への補助金支援で学生を呼び戻すことについても多くの議論がなされました。方向性としては良かったのですが、早急に人材を確保するという点で実現には至らず現在も議論を重ねているところで、実現には至りませんでした。その点、高度外国人材であれば、(卒業を間近に控えた学生に来てもらえる分)より早い人材確保が可能となります」
桑名市:「ちなみに日本人の学生については名古屋市の大企業が初任給を上げていることもあって、桑名市の中小企業にはなかなか来てもらえないのが現実です」
昨今は初任給アップのニュースも珍しくない。とある愛知県の企業は2026年春に入社する大学新卒の初任給を30万円にアップする。こうした有力企業による初任給の引き上げの影響は桑名市にも及んでいるという。
採用された高度外国人材の評価
だが、日本人の採用が難しいから外国人で手を打っているようにも聞こえなくはない。人手不足の解消を意識しすぎるあまりに、企業と就職を希望する外国人学生の間でミスマッチは起きていないのだろうか。桑名市:「今回のプロジェクトで採用された学生はインドの方で、製造業の会社に就職しました。インドのSRM理工科大学でコンピュータサイエンスを専攻していたそうです。情報系の部署に配属されて、その知見を活かした仕事をしています。採用企業からは日本語が堪能な点が評価されていますし、期待以上という声もうかがっています」
SRM理工科大学は南インドの港湾都市チェンナイ近郊にメインキャンパスを構える私立の名門校だ。採用企業からは好青年で接しやすい人柄も評価されているという。
だが、インド人であればヒンドゥー教やイスラム教の習慣が日本での暮らしの障壁になることもあるだろう。文化の違いによるトラブルは起きなかったのか。
桑名市:「今回採用された方に関してはそのようなことはありませんでした。ただ、やはり宗教や文化の違いは今後の課題となっています。
たとえば、桑名市にはムスリムの方向けのハラル弁当を出すお店があまりない状況です。また、就業中にお祈りの時間が必要な方に関しては施設上の課題も出てくるでしょう」
地域住民の受け入れはどうか
高度外国人材の確保という観点から見れば、企業や行政が各国の文化や習慣を理解し、それに寄り添っていく姿勢が大切だろう。では、彼らが働くことのメリットを直接感じにくい地域住民はどうか。コミュニケーションが難しく、ゴミ出しのルールや騒音をめぐるトラブルも懸念される外国人の受け入れに難色を示す日本人も少なくないかもしれない。
桑名市:「住宅に関して、当初は市内の事業者さんと連携して何かできないかと思っていました。しかし、外国人というだけで入居を断られてしまう現実に直面し、だんだんとオーナーさんの意識改革の必要性を感じるようになりました。
さらに、仮にオーナーさんが受け入れてくれたとしても、ゴミ出しのトラブルなどを心配した地域の方から反対されてしまうこともあるわけです。
これらの課題に関しては、協定を結んでいるwagaya Japan(株式会社日本エイジェント)さんに定期的にオーナーさん向けのセミナーを開催していただく予定です。
桑名市が外国人にとって住みやすい街になるためには、双方の理解と歩み寄りが重要になるだろう。だが、これは一朝一夕に実現できることではない。働きにくる高度外国人材と地域住民の一人一人に対して丁寧に向き合わないことには成り立たない事業だと言える。
桑名市では今後も第2、第3の高度外国人材が採用されるよう取り組みを進めていく予定だという。担当者の迷いのない口ぶりからは外国人労働者の確保に向けた強い意志が感じられた。