わいせつ教員対策新法“施行3年”も「性暴力等による懲戒処分」増加…なぜ? “元小学校教員”国会議員に聞く
教員らによる児童・生徒への性暴力を防止するために制定された「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」(通称:わいせつ教員対策新法)の施行から、4月1日で3年がたった。
ところが、文部科学省が昨年12月に公表した「公立学校教職員の人事行政状況調査」によれば、2023年度に性犯罪・性暴力およびセクハラで懲戒処分などを受けた教職員は320人(前年比+79人)で過去最多。
そのうち157人(前年比+38人)が、児童や生徒に対する行為が原因だったという。
今年に入ってからも、複数の男子生徒にわいせつな動画を送信、体を触るなどした千葉県内の公立高校の20代男性教諭や、自身が顧問だった部活の女子生徒を抱きしめたり、密着して覆(おお)いかぶさったりした三重県の高校の32歳男性教師が懲戒免職になったとの報道が相次いでいる。

「わいせつ教員」なぜ増加?

わいせつ行為などで処分される教員の数は、以前から高止まりが続いていた。2013年度以降は毎年200人を超え、教師という立場を悪用した悪質な事例も発生するなど教育現場への信頼低下も懸念されていたことから、法的枠組みを強化するために「わいせつ教員対策新法」が制定。2021年6月4日に公布、翌年4月1日に施行された。
新法の施行後も、わいせつ行為などによって懲戒処分を受ける教員が増加している背景には、何があるのだろうか。
元小学校教員という経験から教育政策に力を入れ、新法制定当時に立憲民主党の文科部会長を務めた斎藤嘉隆参議院議員は「原因は一つではなく、正確に分析することは難しい」と前置きした上で、新法による“顕在化”の可能性を指摘する。
「一因として、わいせつ行為などへ厳格に対応する法が制定され、その理解が進んできたことが影響しているのではないでしょうか」
それに加えて、新法制定以前から共通する要因として「SNSなどのやり取りから性暴力に発展するケースも考えられ、そうしたサービスの進展が影響している面もあると思われる」(同前)という。
新法は「児童生徒性暴力等」がどのようなものであるかを明確に定義(2条3項)・禁止(3条)した上で、教員らによる児童・生徒に対する性暴力を防止・早期発見・対処するための具体的な運用について規定している。
また、児童・生徒への性暴力などによって教員免許が失効した者が再び教壇に立つことを防ぐため、少なくとも過去40年間分の記録を蓄積するデータベースの活用についても義務付けた。さらには、従来は免許失効後3年が経過すれば所定の手続きによって自動的に再授与されていた運用も見直され、厳格な審査を設けるなど、免許再取得のハードルを極めて高くしている。
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「わいせつ教員対策新法」が禁じる行為(文科省資料をもとに弁護士JPニュース編集部作成)

わいせつ行為で“教員免許はく奪”された人の「再授与審査」1日から申請可能に

文科省は、新法下における教員免許の再授与審査の基本的な趣旨について「児童生徒性暴力等を行ったことにより懲戒免職等となった教員が、教壇に戻ってくるという事態はあってはならない」としている。
再授与は、申請者が再犯の可能性が極めて低いことを、客観的かつ具体的に証明した場合に限り認められる。審査では、加害行為の重大性、本人の更生状況、被害者の心情などが詳細に検討され、専門家による審査会が全会一致で判断を下す。

申請者は、自らの責任において必要な書類を準備し、再授与の適切性を証明しなければならない。審査会は、医療、心理、法律などの専門家で構成され、公平性を確保するため、事案の関係者は排除される。
懲戒免職の場合、教員免許の欠格期間は3年(教育職員免許法5条1項5号)のため、再授与審査の申請は新法施行3年となる1日から可能になった。斎藤参議院議員は「法の趣旨にのっとった運用が望まれる」と言う。
「どれくらいの人が申請してくるのかは予測できませんが、そう多くはないのではと思います。申請する側の理由については、経済的なものであったり、やはり教育に対する情熱であったり、さまざまなものがあるでしょう」(同前)
審査会を経て、最終的な判断は教員免許の授与権者である都道府県教育委員会にゆだねられる。
「法律上も定められていますが、懲戒免職の原因となった行為がどのようなもので、それが改善したのか、再びそういったことを起こす恐れがないかなどの確証がない限り、再授与されることはありません。
法制定時に大臣による基本指針に示されているとおり、『再び免許状を授与するのが適当であると認められる場合に限り』再授与されるのであって、その点において各教育委員会には厳しい運用が求められます」(斎藤参議院議員)

今後「法の見直し」が行われる

新法附則では「法の施行後3年を目途として、法の施行の状況に関する検討及び所要の措置の実施」をすることとされている。1日で施行3年を迎えたが、今後どのような動きがあるのか、斎藤参議院議員に尋ねた。
「文科省内では現在、法の見直しに向けて、どのような体制で、どれ程の期間をかけて行っていくのかなどの検討が始められていると聞きます。具体的なスケジュールはまだ決まっていませんが、私たちも、次の見直しに向けて情報収集をしているところです」
新法の効果が真に発揮されるまでには、まだ時間がかかるのかもしれない。今後、議論が進むことによって、子どもたちが安心して教育を受けられる環境が整備されることが望まれる。



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