神改正? “自己都合退職”でも7日間で「失業給付」受け取り可能に…受給の条件とは
スキルを磨き直し、違う業界へ転職したい。産業構造が大きく変質するなか、そうした考えで、職場を変える検討をしている人には追い風になりそうな、失業給付等の制度に関する雇用保険法の改正が1日から施行された。
改正のポイントを社労士の雲雀田孝志氏に聞いた。

受給条件の「職業訓練」約1万6000講座数から選べる

キャリアを積み重ねるなかで今後、より成長の見込まれる、これまでとは畑違いの業界に転職を考えている会社員も少なくないだろう。一方で、「異業種となると経験も知識も乏しい状態ではどこも雇ってくれそうにない」と不安も募る。
改正法は、そうした転職検討者の不安を緩和し、背中を押すような内容となっている。
具体的には、自己都合退職者の場合、これまでは失業保険を受給するには、7日間の待機期間にプラスして、2か月の給付制限があり、その期間は失業保険の対象外として、受給ができなかった。それが改正法では給付制限が1か月に短縮された。
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給付制限のイメージ(厚労省HPより)

さらに、離職日前1年以内に厚労省が定める教育訓練を受講していた場合、または離職後に受講する場合、給付制限期間が撤廃され、待機期間7日間を経ればすぐに失業給付を受けられるようになった。
「AI等の新しい技術革新が急速に進んでいる中、労働者もこうした産業へ対応できるようにしていくことが社会として求められています。この一環で、負担が少なく労働者が学びやすい環境を提供していく流れになっています。また、それとともに、新たな成長産業への転職ハードルを下げるため、自己都合退職者の失業給付の給付制限も1か月に短縮されています」
雇用保険制度改正のポイントを雲雀田氏はこう解説する。
対象となる教育訓練は、 ITやWeb関連、中小企業診断士、社労士など、領域は幅広く、講座数も約1万6000と充実している。
これまでもハローワーク指示による職業訓練受講で給付制限が解除されたが、「改正法では自主的な教育訓練でも同様の効果が得られるようになったことも大きな変更点です」(雲雀田氏)
つまり、自ら転職のための準備を進めている場合でもその対象となり、より現実に即した改正といえる。

受給条件は?

もちろん、失業保険の受給条件はある。自己都合退職者の場合、原則、離職前2年間に被保険者期間が12か月以上あることだ。

このように、畑違いの業界への転職を検討している会社員にとっては、改正法はこれまで躊躇の要因となりがちだった障壁を取り除いた内容となっており、神改正と評する人もいる。
モデルケースとしては、たとえば営業畑で実績を積み重ねた会社員が、制度を活用し、在職中に指定の教育訓練で中小企業診断士を受講。合格後、離職し、待機期間7日で失業給付を受給しながら、転職活動をスタートさせるといったことも可能になる。

10月からはさらなる改正で休みながらの学び直しも可能に

10月からはさらに、使い勝手にすぐれた転職検討の選択肢となり得る改正もスタートする。教育訓練休暇給付金だ。雲雀田氏が説明する。
「詳細は決まってはいませんが、こちらは雇用保険の被保険者が職業に関する教育訓練を受けるために休暇を取得する際に給付金を受け取れる制度です。対象者は、雇用保険の被保険者でも被保険者期間が5年以上、かつ休暇開始前2年間にみなし被保険者期間が12か月以上ある方になります。
現段階では教育訓練の範囲は被保険者が自発的に取得を申し出て、事業主が承認したものを対象にするとなっています。給付額は離職時に支給される基本手当(失業手当)に相当する金額です。受給期間は原則教育訓練休暇の開始日から1年以内の期間に取得した休暇が対象となっています」
こちらは受給条件こそ厳しくなっているものの、会社を休みながら新たなスキルを身に付けることができる上、給付金の受給も可能。離職リスクを抑え、異業種への道を模索できる、転職に伴う不安を最小化する手段として有効に活用できそうだ。
特に異業種への転職検討者に十分に配慮したこれら法改正には政府の本気度がにじむが、背景には切実な労働者不足がある。

デジタル化の浸透で、産業構造が大きく変わりつつあるが、加速する少子高齢化で、成長産業ほど労働力不足が深刻になっている。この人材の歪み解消に、労働者にリスキリングを促し、人材を流動化させることで国力向上につなげる――。その起爆剤のひとつが、労働者の負担を最小限にしながら新たなスキルを習得し、転職リスクを緩和するこの改正法となっている。

いいことづくめにみえるが注意点はないのか

これまでは離職に足がすくみ、一歩を踏み出せなかった人でもスイッチが入りそうだが、注意点はないのか。雲雀田氏が助言する。
「政府でもAIなどの新しい技術の取得が喫緊に必要であると認識しており、労働者レベルでも、取得を促進する制度ができたのは、とても評価すべきかと思います。ただ、具体的にどこまで実用的なものになっていくかは、注視していく必要があります。
また、この制度があるから積極的に利用して転職する必要はもちろんありません。判断は個人の仕事に対する考え方や年齢によるでしょう。
さらに、企業における助成金等で、これらを支援する制度もあります。まず、ご自身が制度を利用して、(資格等を)取得をしなければいけない状況にあるのかどうか、じっくり考え、特に転職などせずとも習得できる制度から利用していくことが望ましいと思います」
転職しやすい状況にはなったものの、退職はあくまで最終手段。先行きの不透明感は続いており、どう決断するにしても、そのことはかみしめておいた方がよさそうだ。



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