東京都公安委員会は3月14日、当該店舗が無許可で路上にテーブルや椅子を並べ営業したとして、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)に基づく営業停止命令を発出。
4月1日に同店を訪れると、入り口には「ニュース・ネットで話題の店」「只今、反省中!」という文字とともに、4月10日まで臨時休業するとのお知らせが掲示されていた。
地元住民から多数の苦情
同店をめぐっては昨年12月、運営会社と女性従業員が、道路使用許可(道路交通法(道交法)77条1項)を得ずに店の前の路上にテーブルや椅子を並べ、通行の妨害となる行為をしたとして書類送検されている。警視庁は店側に対して路上営業をやめるよう繰り返し求めていた。報道によれば、一昨年4月から昨年10月までの間に指導や警告を60回以上していたが、それでも状況が改善されなかったという。
道交法に違反した店が、風営法に基づく営業停止処分を受けるのは全国で初めてとのこと。新橋には他にも路上営業を常習的に行っている店が複数あり、地元住民から道路がふさがることなどについて苦情が多く寄せられていたそうだが、なぜこれまで同様の処分がなされてこなかったのだろうか。
行政法に詳しい渡邊賢一弁護士は、風営法が規定する業務停止の要件について、次のように説明する。
「風営法において営業停止命令の根拠となる34条2項は、処分に際して単なる法令違反だけでなく、『著しく善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害し、又は少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがあると認めるとき』に、営業停止命令ができるものとしています。
しかし、道交法違反である路上営業は、交通の妨害にはなるものの、直接的に善良の風俗等を害するとまでは言いにくい側面があります。そのため、過去には道交法違反を理由とした風営法に基づく営業停止命令は行われてこなかったと考えられます」
では、当該の居酒屋はなぜ、処分されることになったのだろうか。
「今回のケースでは、度重なる道交法違反と地元住民からの苦情という状況から、東京都公安委員会が『もはや見過ごすことはできない』と判断し、営業停止命令に至ったと推察されます。
ただし、営業停止命令は事業者への影響が大きく、安易な処分は裁量権の逸脱・濫用(行政事件訴訟法30条)とされる可能性も否定できません。
今回の処分が全国で初めてということは、それまで、国内には道交法違反について『善良の風俗等を害するおそれ』ありとして処分した先例がないということですし、おそらく公安委員会は、処分が果たして適法といえるのか、事業者側から争われたときに違法とされないかなど、かなり慎重な判断を重ねたのではないでしょうか」
なぜ「道路使用許可」が必要か
本件では、道交法上の道路使用許可(77条1項)を受けずに路上営業したことが問題となっている。許可制度が設けられている理由について、渡邊弁護士はこう話す。「道交法77条1項は、無秩序な道路の目的外使用によって、交通の妨害や交通に対する著しい影響が発生するのを防ぎ、道路の本来の機能を維持するために定められています。つまり、道路使用許可は、道路を安全かつ円滑に利用するための制度と言えます。
新橋などの繁華街では、多くの飲食店が路上にテーブルや椅子を設置したり、屋台を出したりして営業を行うことがあります。これらの行為は、道路の本来の目的である『通行』を妨げる可能性があり、安全な交通を確保するために警察署長の許可が必要となります」
なお同条2項は、道路使用許可の申請があった場合、以下のいずれかに該当すれば警察署長は許可を「しなければならない」と定めている。
- 申請された行為が交通の妨害になるおそれがないと認められるとき
- 許可に条件を付けることで交通の妨害になるおそれがなくなると認められるとき
- 交通の妨害になるおそれはあるが、公益上または社会の慣習上やむを得ないと認められるとき
つまり、法律上は、道路使用許可は比較的通りやすいものであると考えられます。ただし、実際の運用や個別の事案によって判断は異なる場合があります」(渡邊弁護士)
前述のように、新橋には他にも路上営業を常習的に行っている店が複数あり、近隣住民からの苦情も相次いでいる。新橋がある港区では対策として、昨年度から警察OBらを巡回指導員として採用し、パトロールと指導を実施。繁華街ゆえに火災や避難救援への影響も懸念されることから、申請すれば路上営業がOKになるという単純な話でもなさそうだ。
港区の清家愛区長も、当該店舗の営業停止処分を受けて次のコメントを発表している。
「新橋駅周辺の繁華街で、道路を不正に使用し、テーブルや椅子を設置して路上営業をしていた店舗の運営会社に対して、東京都公安委員会から営業停止処分が命じられたとの報道がありました。
このような違法行為は、発災時の避難救援等の支障となるなど、地域の皆さんから問題視する声が区にも多く寄せられていました。
常習的に違法行為を繰り返す店舗に対する警視庁の毅然とした対応をはじめ、これまで新橋駅周辺の繁華街対策に関わってこられた多くの方々に深く感謝いたします。区も引き続き、地域の皆さんや警視庁と協力して、港区・新橋の安全・安心を守ってまいります」(港区ホームページより)
新橋における飲食店の路上営業はコロナ禍をきっかけに増加し、その後も客のニーズによって続けられてきた側面もあるという。長年地域に根付き、ルールを守りながら営業を続けている店が割を食うことがないよう、地域全体で街のあり方を検討していくことが求められるだろう。