おいしい話を持ち掛け、お金は預かるが、モノは渡さないーー明らかに怪しさが充満する取引だが、まんまと騙されてしまう人が後を絶たない。
形を変えても、半世紀近くベースは同類の詐欺手口がいまだまん延している。
詐欺事件に詳しいルポライターの多田文明氏がこれまでの巨額詐欺事件の手口を紹介しながら、被害者から大金をせしめる「ワナ」を解説する。
※ この記事は悪質商法コラムニスト・多田文明氏の書籍『最新の手口から紐解く 詐欺師の「罠」の見抜き方 悪党に騙されない40の心得』(CLAP)より一部抜粋・再構成しています。

巨額のお金をだまし取った「ペーパー商法」

1980年代前半に発生した豊田商事事件は「ペーパー商法」といわれ、多額の預金を持つ高齢者が狙われた。
顧客はまず金の購入契約をするが、金自体は会社が預かって運用する。会社はその利益を還元すると言って、商品は顧客に渡さず、契約の証券だけを渡していた。
被害総額は2000億円に上ると言われている。当時、詐欺事件として最大の被害額だった。
こうした、物を相手に渡さず契約書だけを顧客に渡す手法はその後もさまざまな投資商法に受け継がれている。
フィリピンでのエビ養殖事業に投資すれば、高配当を出すと謳い、850億円ほどを集金したワールドオーシャンファーム事件。
沈没船の財宝引き上げや不動産などの事業に投資すれば、多額の利益が手に入ると謳い、約500億円を集めたリッチランド事件。
和牛の飼育・繁殖に出資すれば配当が得られるといって多額の金を集めて破綻した和牛預託商法など、その後に起きたさまざまな投資事件に見られる傾向だ。
その傾向は年々強くなっている。

悪質性が際立つ「レンタルオーナー商法」とは

健康器具などを販売していたジャパンライフは、1年間に4度も業務停止命令などの処分を受けた。
その手口は、顧客に磁石の入ったネックレス(磁気治療器)を、100万~600万円で販売するが、その商品は顧客には渡さず、商品自体を会社で預かり、それを別の顧客に貸し出して、その時に得たレンタル料金(年6%)を購入顧客に払うシステムになっている。

しかしながら、消費者庁の調査では、預けた商品の1割ほどしかレンタルしておらず、しかも、商品の在庫もほとんどなかったことが判明している。
中には、友人から誘われ、ジャパンライフの代理店に連れて行かれて「腰がよくなる」という磁気商品の体験をさせられた。その後、「商品を購入して、レンタルすると儲かる」との勧誘を受け続け、30回以上もの契約を繰り返し、総額が1億円を超えてしまった女性もいる。
この手のレンタルオーナー商法の被害は多数発生している。
ある男性は、業者から「パチスロ機を購入して、それをパチンコ屋に貸し出せば、レンタル料などが振り込まれて、儲かる」と説明され、40万円で契約した。
翌月には、説明通りの額が振り込まれたので、さらに追加の出資もしたが、その後、業者は破産してしまった。
この業者による被害総額は50億円にも上るという。

時事とからめて丸め込む

もっと手の込んだものになると、コンテナのレンタルオーナー商法もある。
「コンテナの所有権を一口50万円で買えば、それを会社で預かり、レンタルでの運用をするので、月々の収益金が得られる」と勧誘していたが、その後、配当は途絶えた。
この手法で、業者は30億7000万円ほど集めている。
これだけ被害が広がったのには理由がある。
東日本大震災だ。
業者の勧誘文句は、「震災の影響で、これからコンテナを使った仮設住宅が造られるので、かなりの需要が見込まれる。
黙っていてもレンタル料が入ってくる。さらに、人助けにもなる」というものだった。
この業者は、2013年に、所有権を持っていないにも関わらず、コンテナを販売し、勧誘を断った相手に大声で威嚇し契約を迫ったとして、香川県から特定商取引法に基づく業務停止命令を受けている。
その後、破綻した。

詐欺の失敗を詐欺で取り返す狡猾さ

ところが、被害はこれで終わらない。今度は、損失を出した被害者のもとに、別会社から電話がかかってくる。
「コンテナの会社は倒産しました。担当者はクビになり、大勢の顧客とトラブルになっています。当社が業務を引き継ぐことになったので、話を聞いてください」
そして、こう続ける。
「2013年に生まれた、英国のウィリアム王子とキャサリン妃の子であるジョージ王子の誕生記念コインが発行されます。この『英国ロイヤルベビー記念コイン』を購入して頂いたら、コンテナの所有権を元値の何割かで買い取りますよ。そうすれば、コンテナレンタル事業への投資で生じた損害を埋められますよ」と話を持ち掛けていた。

だが、実際にコインが発行されることはなく、2018年に入り、60代男性ら3人から計約600万円を騙し取ったとして、詐欺容疑で、貴金属販売会社の元役員ら男ら5人が警視庁に逮捕されている。
この事件では、総額40億円以上の被害が出ている。
これは、レンタル商法をきっかけに、金貨の販売にまでつなげていた悪質な業者であった。
いずれにしても、嘘の運用話を持ち掛けて、現物は相手に渡さず、契約書だけを渡すという、詐欺のスキームは延々と続いている。
怪しさを疑う健全な本能が、不労所得を得られるかもしれないという欲望に埋もれてしまう。その先には詐欺被害という悲惨な末路が待っている。


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