
公用車の購入ルールはどうなっているのか。また、本件にはどのような問題があるのか。元総務省自治行政局行政課長・弁護士で、自治体の調達事務に詳しい神奈川大学法学部の幸田雅治教授(地方自治法)に聞いた。
執行権の範囲内で「問題なし」
本件車両の購入に際しては、法令の定めに従って指名競争入札の手続きがとられており(地方自治法234条項、同施行令167条1項参照)、この点に問題はない。では、その手続きに入る前段階の、車種やグレードの決定等について、なんらかの規律があるのか。また、行政の裁量・権限はどこまで認められるのか。
幸田教授:「地方自治法96条1項8号に基づき制定された仙台市財産条例2条により、8000万円以上の物品の購入が議会の議決事項とされています。
今回の場合は、これに該当しませんので、議会の議決は必要ではありません。したがって、基本的に、行政の執行権の範囲内です。
また、仙台市の令和6年(2024年)度予算説明書をみると、『市有車両の維持管理に要する経費』として6052万5000円が計上されており、この範囲内で公用車の購入費用を支出することは問題ないといえます」
ただし、執行権の範囲であっても、権限の濫用にあたらないかは問題となる。
幸田教授:「本件についてみると、車内で業務を行う、皇族の方を乗せる、など想定される使用の態様を踏まえ、他の自治体の事例を調査したうえで検討したと説明されています。また、類似の事例と比較しても、特別に高額なものとはいえません。
地方公共団体の公用車は、昔は2000万円もするトヨタ・センチュリーや高級な外車が多く使用されていましたが、問題があるということで、近年はアルファード等のミニバンが主流になっています。
「マッサージ機能付き」も「問題なし」
本件公用車に関する質疑を行った伊藤優太市議は、「マッサージ機能」が付いている最高グレードの「エグゼクティブラウンジ」を選んだことは、市民の家計が苦しいこと等に鑑みて不適切などと指摘している。この点についてはどう考えるべきか。
幸田教授は、「適切かどうかを市議会がチェックすることは大切な役割」としたうえで、本件のグレードの選択等については問題がないと説明する。
神奈川大学法学部 幸田雅治教授(本人提供)
幸田教授:「最高グレードの車両がいけないということはありません。
市長が車内で業務を行うことの便宜、皇族の方々をお迎えするのに使える、といったことを考慮して、最高グレードを選ぶことが合理的であれば、問題はありません。
アルファード(ハイブリッド)のグレードは3種類あります。標準装備比較表で確認すると、最高グレードの『エグゼクティブラウンジ』は下位のグレードと比べて、ドアや窓に高遮音性のガラスを使用し、リアシート(2列目)の快適性を高めていて読書灯、脚置き等といった設備が充実しています。
市長が車内で業務を行うことや、皇室の方が利用する可能性があることを想定すると、遮音性が高くリアシートの設備が充実した車両を選ぶことは合理的といえます。『マッサージ機能があるから』という意図で選んだとも考えにくいです。
したがって、『権限の濫用』や『裁量権の逸脱』はないと考えます。
なお、議会の質疑で伊藤市議が指摘したような『市民の家計が大変だから』などということは問題になりません。あくまでも、公用車が業務での使用に適するかという観点から選ぶべきものだからです」
他にも、公用車を購入する必要はなくリースで足りるとの指摘も行われているが。
幸田教授:「購入という形をとるよりもリースのほうがコストが低い、メリットが大きいとは一概にはいえないので、不適切とは言い難いでしょう」
議会・住民による「事後的なチェック」は重要
ただし、幸田教授は、本件での公用車の購入が執行権の範囲内だとしても、市側が議会や市民に対しての説明責任を果たすこと、議会や住民が公用車の使用のあり方等を事後的にチェックすることは大切だと付言する。幸田教授:「市議会議員や市民からの疑問の声があれば、それに対して、市側が丁寧な説明をして、理解を得るよう努めることは当然です。
また、憲法が定める長と議会の二元代表制(憲法93条参照)から、議会には行政の監視機能を果たすという重要な役割が課されています。したがって、使用目的など購入時の説明に沿った運用となっているかなどについて、事後的にチェックすることは重要です。本件でも、説明と異なる使い方をされていたとなれば問題となり得ます。
その場合、議会の場で議員が説明を求めるなど、監視機能を果たすことが重要となります。
本件でも、公用車の購入に関する質疑の後、同じ伊藤市議が、市長が公用車を公務ではなく政治活動に使用していたのではないか、という問題についての指摘を行いました。
政治活動に公用車を使用するのは不適切なので、議会がこのようなチェック機能を働かせることはきわめて大切です。
あるいは、住民の立場からも、公用車の違法・不当な使用に要した経費の返還等を求める住民監査請求(地方自治法242条)や住民訴訟(同242条の2)を提起することが考えられます。
そこで個別に事実認定が行われ、公用車の使用が不適切と判断されれば、市長が経費の返還等を命じられる可能性もあります」