3月5日には、痴漢撲滅を掲げて活動していた元私人逮捕系YouTuberの今野蓮容疑者(31)と、共謀した大学生の男(20)が、恐喝の疑いで逮捕された。
新聞などの報道によると、今野容疑者らは2024年8月、東京都中野区内のホテルで、自身が経営するメンズエステ店を利用した30代男性に対し、女性従業員の体に触れたと因縁を付け、計50万円を脅し取ったという。また、警察の調べによれば、今野容疑者らが所属するグループでは、これまで約240人の被害者から、総額8000万円近くを巻き上げていたとされる。(佐藤隼秀)
グレーゾーンを悪用した手口
メンズエステとは、女性セラピストが男性客に対し、アロマオイルを使った全身マッサージを施術するリラクゼーションサロンだ。あくまでも風俗店ではないため、性的サービスの提供は摘発対象となり、利用客がセラピストの体に触れる行為等は禁止されている。ただ、店舗側が客を呼び込むため、過激な施術を提供しているのも事実だ。
通常料金に加え、鼠径部(脚の付け根)を刺激するように施術するディープリンパや、面積が極小のマイクロビキニをセラピストに着用させることなどを、追加料金が必要なオプションとして勧める店舗も多い。
こうしたオプションを重ねることで、際どい格好をしたセラピストから、肌を密着させたマッサージを受けられる。客の心をつかむためには、性的サービスを想起させる接客も厭(いと)わない…というメンズエステの実態がある。
こうしたグレーゾーンを悪用したのが、冒頭の美人局だ。
通常、メンズエステでは、マッサージを受ける前に、施術箇所や禁止行為が盛り込まれた利用規約にサインを求められる。
今野容疑者らも、利用規約に「体に触れるなど女の子が嫌がる行為をしたら罰金100万円を払います」という趣旨の内容を盛り込んだとされる。その一方で、セラピストには性的サービスを持ちかけるよう指示していた。
何も知らない利用客が誘惑に応じると、女性従業員は被害に遭った体(てい)で共謀者らに連絡を入れ、現場に駆けつけた共謀者らが、規約違反を口実に100万円を請求するという“システム”だ。
いわば利用者に性的サービスを禁止しておきながら、セラピストには誘惑して唆すよう指示する。下心につけ込んだ卑劣な犯行といえるだろう。
利用者が法的責任を問われるパターンとは
ただ、ここで気になるのは、“利用客が法的責任を負うリスク”だ。今野容疑者らの件に限らず、美人局を持ちかけた側の逮捕事例は報告されているものの、利用客の違法性は表向きになっていない。利用客からすれば、はめられた形とはいえ契約に違反し、または、刑罰法規に触れるなど、なんらかの法的責任を問われることはないのかーー。
性犯罪など、刑事弁護を多く担当する本庄卓磨弁護士は「利用者側が法的な責任を問われる可能性は高くないが、リスクはある」として、次のように解説する。
「まず、女性から同意を得ていない状態で性交等を行った場合、不同意性交等罪(刑法177条)に該当する恐れがあります。
次に、セラピストが未成年だった場合には、各都道府県の青少年保護育成条例(各都道府県により名称が異なる)に違反するとして、法的責任を負う可能性があります。
また、施術後にセラピスト本人から『客から性交等を強要された』などと主張され、トラブルに発展するリスクもあるでしょう」
職場や家族に利用がバレる可能性は?
では、メンズエステで美人局のトラブルに遭ってしまった場合、どう対応すればいいのか。利用者からすれば法的リスクを避けたいのと同様、メンズエステに通っていたことが家族や職場に漏れるのも避けたいはずだ。美人局がのさばるのも、こうした利用客の後ろめたさにつけ込み、泣き寝入りしやすい状況に追い込んでいるからだろう。
「刑事事件に発展しなければ、職場や家族には知られない可能性が高いです。また利用者が被害者だと判断されれば、周囲に漏れないよう警察が配慮してくれることもあります。
万が一、美人局の被害に遭い、不当な違約金を請求されたり、店舗側から脅迫されるなどトラブルになった場合、自ら事を収めようとするのではなく、直ちに警察に通報しましょう」(本庄弁護士)
メンズエステの美人局で経営者らが逮捕された事例では、風俗営業の許可を取得していたにもかかわらず、通常のメンズエステと見せかけたうえで、利用客を恐喝していたケースもある。
利用者が店舗の運営体系を判断できないことにつけ込み、その場で不安をあおる形で、現金をだまし取った悪例だ。
本庄弁護士は、こうしたメンズエステにまつわるトラブルを未然に防ぐための自衛策について、以下のように助言する。
「事前に、ネット上で被害を訴える口コミがないか確認しておきましょう。
また、契約書にサインする際には、事前に十分に内容を確認し、違反しないように心がける必要があります。
あるいは、組織ぐるみで美人局などの違法行為を仕掛けてくる店舗もあるので、そもそも利用しないというのも考え方のひとつです」
メンズエステでは、利用者は“足元”を見られやすい。しかし、これ以上被害を広げないためにも、怪しいと感じたり、トラブルに巻き込まれたりした場合は、自身の体面や後ろめたさを気にせず警察へ通報することが重要だ。