昨年11月、厚労省は令和5年(2023年)「国民健康・栄養調査」の結果を発表。
調査の結果、BMI(肥満度の判定に用いられる指数。
体重(kg)÷身長(m)の2乗)が25以上である肥満者の割合は、20歳以上の男性の31.5%、同年齢の女性では21.1%であったという。
肥満は糖尿病や脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群などさまざまな健康障害を発症しやすくなる病態であり、社会問題のひとつとして取り扱われてきた。
しかし、肥満についての基礎的、臨床的な研究を実施してきた日本肥満学会のワーキンググループ(WG)は17日、女性の低体重・低栄養にも健康障害のリスクがあるとして、新たな疾患の枠組みである「女性の低体重/低栄養症候群(FUS)」について会見を開き説明を行なった。

「学術的にも政策的にも軽視されてきた」

WGの委員長を務める小川渉教授は「肥満と同様、低体重にも健康被害のリスクがあるものの、その認知は不十分だ」と指摘する。
実際、40歳以上の男性16万人、女性19万人を対象に実施した、死亡リスクに関する調査では、BMI指数が上がれば上がるほど、リスクが上昇する一方、BMI指数が低い層でも、リスクの上昇が見られたという(いずれも死亡リスクのもっとも低い層に比べて)。
「これまで、高齢者医療においては、サルコペニア(加齢に伴う筋量や筋力の低下)やフレイル(心身の活力低下)予防のため、“痩せ”のリスクが認知されてきました。
しかし、医療制度や公衆衛生施策において重視されてきた肥満対策と比べ、高齢者以外の低体重・低栄養リスクは学術的にも政策的にも軽視されてきました」(小川教授)

「次世代に引き継がれる問題が生じる可能性も」

WGの田村好史(やすふみ)教授によると、女性の低体重・低栄養は、骨量の低下や骨粗しょう症など健康リスクや症状を引き起こす可能性があるという。
「鉄分不足による貧血や、月経周期異常、不妊などの問題のほかに、低体重の母親から、将来肥満や糖尿病になりやすい低出生体重児が生まれるといった、次世代に引き継がれる問題が生じる可能性もあります。
加えて、医療の世界では、低体重の人は、糖尿病になりやすいことも知られていて、最近の調査では、食後に血糖値が高くなる20代の女性がかなりの数いることがわかってきました。
また同様に、低体重の人の中には、若くとも本来は高齢者がなりやすいサルコペニア状態になり、ペットボトルの蓋がうまく開けられないという人もいます。
さらに、痩せるために始めたダイエットが原因で、摂食障害を患う人がいます。摂食障害を患うと、極めて重篤な状態になる可能性もあり、精神疾患の中でも死亡率が高いことで知られています」
ほかにも、女性が抱えがちな、倦怠(けんたい)感や冷え性、肌や髪質の低下と、低体重・低栄養の関連を示すデータもあるという。

「貧血や月経周期異常は“氷山の一角”」

こうした研究やデータから、WGではまず、メタボリックシンドローム、いわゆるメタボを参考に、女性の低体重/低栄養症候群(FUS)の疾患概念の枠組みを提示することとした。
メタボリックシンドロームでは、その定義がなされる以前から、さまざまな言葉で言い表されていたという。その後、多くのエビデンスが集まり、血圧や血糖値の上昇、脂質異常といった個々の症状は、その背景にある内臓肥満が根本的な原因であると判明した経緯を持つ。

「FUSの場合も、まだ明確なエビデンスのないものも含まれますが、貧血や月経周期異常といった複数の症状は“氷山の一角”であり、低体重・低栄養が影響している疾患はまだあるのではないか、というのが疾患概念であり、その大本の部分に対してアプローチすることが、病態の改善につながるのではないかと考えています」(田村教授)
また、WGは現時点でFUSに関する留意点として以下の3点を挙げる。
「現時点ではエビデンスが不足しており、まだ明確な診断基準はありません。
また、たとえばがんを患っているなど、原因疾患を持つ患者に対してはFUSとして捉えるのではなく、原因疾患の治療を優先すべきと考えます。
加えて、現時点ではホルモン環境や加齢の影響が考えられるため、閉経後の女性はFUSの概念に含めていません。女性の方がより有病率や影響の大きさが顕著なことから、男性も対象外としました」(同前)

「SNSやメディア、貧困など原因」

WGではFUSになる原因については、個人の身体的特性や社会的要因、心理的要因が複雑に絡み合って生じるとしつつ、3つの視点から整理している。
「第一の原因は“体質性痩せ”です。『痩せている人はみんなダイエットをしているだろう』と思う人も居るかもしれませんが、実は痩せている人の約4割はダイエット経験がないという報告があります。
第二の原因と考えられるのが、SNSやメディアの影響による“痩せ志向”です。
第三は、近年、貧困により十分な栄養が取れていないケースがあることです。この場合、個人の努力だけでは解決が困難で、社会構造的・政策的な支援が不可欠となります」(田村教授)
このうち、痩せ志向については、内閣府の調査の結果、小学1年生の段階で女児の約3分の1が「痩せたいと思う」と回答し、6年生の場合は半数を上回ったという。
田村教授はこの背景に「“痩せ”に対する価値観の偏り」があると指摘する。
「まだ仮説の段階ですが、『そんなお菓子ばっかり食べてると太っちゃうよ』や、『痩せて良かったね』といった、家庭内での声かけが原因となっている可能性があります。

中学、高校と年齢が上がっていくと、友達同士あるいはSNSなどでも、こうした考えがより強化されていくのではないでしょうか。
教育の現場で、適正なボディイメージの形成やメディアリテラシーの育成を図ったり、保健体育や食育でも、“痩せ志向”の問題点について正しく周知する必要があると考えます」
その上で、実際にFUSの症状に当てはまる場合の対処法について、田村教授は次のように説明した。
「小学校で習うような、しっかり食べて適切な運動をし、しっかり眠るという、当たり前のことを当たり前にやっていただき、それによって自覚症状がどのように変わっていくかを、自身で観察することが、まずは改善への第一歩になると思います」


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