N国党・立花孝志氏が立憲・小西議員への「名誉毀損訴訟」を請求放棄…背景にある兵庫県知事選「二馬力選挙」の“実態”とは
NHKから国民を守る党(以下、「N国党」)代表の立花孝志氏が、小西洋之参議院議員(立憲民主党)を「名誉毀損」等で訴えていた訴訟で16日、立花氏が請求を放棄し、訴訟が終了した。
請求放棄は、「原告が自身の請求に理由がないことを認めて争わない旨の陳述」であり、「請求棄却」、つまり原告敗訴の確定判決と同じ効力をもつ(民事訴訟法266条1項、267条、114条1項参照)。

立花氏は、前日に兵庫県議会の奥谷謙一県議を被告として「名誉毀損」等で提訴していた訴訟についても、「請求放棄」を行ったばかりだった。
17日、被告であった小西議員と代理人の石森雄一郎弁護士が都内で記者会見を開き、「立花氏は、(昨年11月の兵庫県知事選挙において)立花陣営と斎藤(元彦・現知事)陣営が意思を通じて公選法違反を犯したことを認めたことになる。単なる請求棄却判決より大きな意義がある」と述べた。

兵庫県知事への「二馬力選挙」批判のX投稿を「名誉毀損」と主張

訴状・原告準備書面の記載によれば、立花氏が「名誉毀損」として訴えていた対象は、小西議員が昨年12月18日にX(旧Twitter)上で、斎藤元彦兵庫県知事の投稿を引用して行った以下の投稿である。
どういう神経をしているのか。。
公益通報法に違反し元局長を自死に追い込み、その虚偽の誹謗中傷などを拡散し後にそれを認めた立花氏と公選法違反の二馬力選挙を行い、更には、SNS選挙の買収罪の疑惑説明からも逃げ回っている。

決して政治家、首長として市民と結び合ってはならない人物だろう。 https://t.co/5T215KSW1w
小西ひろゆき (参議院議員) (@konishihiroyuki) December 18, 2024
立花氏は、このうち「虚偽の誹謗中傷を拡散し後にこれを認めた立花氏」「斎藤氏が立花氏と公選法違反の二馬力選挙を行い」の2点について、真実ではなく、「原告(立花氏)が社会から受ける客観的評価を低下させる内容」であり、「名誉や信用に対して社会的評価を著しく傷つけられた」と主張した。
そして、小西議員に対し、精神的苦痛への慰謝料として160万円の損害賠償を求めていた。
これに対し、被告・小西氏側は「虚偽の誹謗中傷を拡散し後にこれを認めた立花氏」「斎藤氏が立花氏と公選法違反の二馬力選挙を行ったこと」はいずれも真実、または真実相当性がある(※)と主張し、その立証を行った。
※その事実が真実であると信じるにつき相当の理由があること

「虚偽の誹謗中傷の拡散」は動画から明らか

小西氏側はまず、「虚偽の誹謗中傷を拡散し後にそれを認めた」については、立花氏が兵庫県の元西播磨県民局長について「10年間で10人の女性と不倫をしていた」「不同意性交等罪に該当する行為に及んでいた」という虚偽の事実を根拠なく創作し、これを既成事実であるかのように流布したことをさすとした。
石森弁護士は、小西議員の発言内容について「立花氏自身がYouTube動画等で行った複数の発言から、明らかな真実であり、何ら問題はない」と説明し、準備書面等で提出した証拠の中から例を複数挙げた。
  • 選挙期間中の昨年11月15日、自分の街頭演説が終わった後に、聴衆の前で『自分がしゃべってることは根拠が薄い』と述べた。
  • 12月1日までに『10年間で10人と不倫していた』という話を変遷させ『7人』とした。
  • 選挙終了後の12月1日に、元県民局長のパソコン内のデータを見てきたと報告する中で『不同意ではないということは確認しました』と発言した。
  • 12月1日に、上記『7人』のうち6人については『情報がまだ取れてません。あえて6人の分については、何も出さないことで、ご容赦いただきたいと思います』と述べた(少なくとも9人については根拠がないと自認している)。
  • 12月8日の街頭演説のなかで『尾びれ背びれ付けたって言ってるやんか』『今流行りの盛っただけ』と発言した。
石森弁護士:「これらはいずれも公開された動画から明らかであり、小西議員だけでなく誰もが知ることができたこと。
立花氏が『虚偽の誹謗中傷を拡散し後にそれを認めた』という発信はなんら問題がない真実だ」

「二馬力選挙」は公選法違反の犯罪という閣議決定

次に、「斎藤氏が立花氏と公選法違反の二馬力選挙を行ったこと」について。
公選法では公平を期すべく、街頭演説の旗、ビラの枚数、ハガキの枚数、選挙カーの台数、選挙掲示板に掲示できるポスターの枚数、政見放送の回数等、あらゆるツールについて数量制限が設けられている。
そして、立花氏が斎藤氏の当選を目的として選挙運動を行ったことは、これらの数量制限に違反していたと指摘されている。これが「二馬力選挙」の問題である。
小西議員は、このような公選法の数量制限違反が犯罪を構成すること。また、両陣営が意思を通じて行っていた場合は共犯となり、有罪となれば公民権停止の制裁もあることを指摘する。
小西議員:「私は、兵庫県知事選における立花氏の行動が、公選法違反の『二馬力』選挙にあたるのではないかということを誰よりも早く追及していた。

『候補者Aを候補者Bが応援することが公選法上の犯罪になるということについては、まず総務省に確認して公表した。
また、最終的に、質問主意書を提出し、内閣から『公選法上の犯罪行為であると同時に、共謀関係にあれば共犯が成立して公民権停止までいく』という(具体的な根拠条文まで挙げた)詳細かつ明確な答弁書を引き出した」
N国党・立花孝志氏が立憲・小西議員への「名誉毀損訴訟」を請求...の画像はこちら >>

質問主意書と内閣の答弁書を掲げる小西議員(17日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)

「二馬力選挙」両陣営の共謀の「証拠」とは

特に問題となるのは、小西議員の投稿のうち「斎藤氏が立花氏と行った」の点、つまり両陣営が意を通じていたという事実の真実性ないし真実相当性である。
この点について、小西議員側は、両陣営が意思を通じていたことの証拠について、3つの報告書を作成し、裁判所に準備書面とともに提出している。
石森弁護士:「報告書は、第三者が『斎藤氏の演説終了』から、『同じ場所で続けて立花氏が演説を始めるまで』を撮影したYouTubeの動画の画面を、キャプチャーして説明を加え、まとめたものだ。
たとえば、昨年11月9日の六甲堂公園での街頭演説では、西宮市の森健人市議(斎藤陣営)らが歩いて出てきて、立花陣営の選挙カーを迎え入れている。
森市議は右手を挙げて会釈をして合図をし、聴衆を整理しながら、立花陣営の選挙カーを斎藤陣営の選挙カーが停まっていた場所まで誘導する姿がはっきりと映っている(【画像1】参照)。
また、11月12日の西宮市役所前での街頭演説でも、斎藤陣営のスタッフ(白いジャンパー)が立花陣営の選挙カーが進行してくるのを手を挙げて呼び込む様子、路肩に停車した車両に移動するよう指示している様子が映っている(【画像2】)」
N国党・立花孝志氏が立憲・小西議員への「名誉毀損訴訟」を請求放棄…背景にある兵庫県知事選「二馬力選挙」の“実態”とは

【画像1】11月9日の動画のキャプチャーの一部(被告側報告書より)

N国党・立花孝志氏が立憲・小西議員への「名誉毀損訴訟」を請求放棄…背景にある兵庫県知事選「二馬力選挙」の“実態”とは

【画像2】11月12日の動画のキャプチャーの一部(被告側報告書より)

石森弁護士は、これらの行動の不自然さを指摘し、「斎藤陣営と立花陣営が意思を通じていた証拠だ」と説明する。
石森弁護士:「県知事選挙では、当選者は1人しかいない。自分で集めた聴衆を他陣営に引き継ぐことは、通常はあり得ず、不自然だ。
立花氏は、自分たちが一方的に斎藤陣営を応援しているという態度を示していた。しかし、動画には、斎藤陣営が立花陣営を呼び込んでいる姿がはっきりと映っている」
N国党・立花孝志氏が立憲・小西議員への「名誉毀損訴訟」を請求放棄…背景にある兵庫県知事選「二馬力選挙」の“実態”とは

報告書を手に説明する石森弁護士(17日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)

裁判所が「一通りの立証がなされた」との心証を開示した矢先の「請求放棄」

以上の主張・立証に対し、裁判所は3月の弁論準備手続きの際、小西議員側が「一通りの立証がなされた」との心証を開示するとともに、立花氏に対し、これに対する反論と証拠の提出を促したという。
石森弁護士:「それを受けて、われわれは、立花陣営と意思を通じていたと疑われる行動をとっていた森健人市議の証人尋問を請求するつもりだった。
しかし、その矢先に、立花氏は請求放棄を行ってきた。

本訴訟では実質的に、斎藤元彦陣営の公職選挙違反も争点になっていて、高いレベルで立証ができた中で、立花氏から請求放棄がなされたことは極めて重要な意義があると考えている。
請求放棄は、原告が自身の請求に理由がないと認めること。つまり、事実上、斎藤陣営と意思を通じての二馬力選挙を認めたということだ」
小西議員は本件訴訟について「スラップ訴訟であり、裁判を受ける権利(憲法82条)の濫用だ」と断じたうえで、司法官憲に対し注文をつけた。
小西議員:「法廷の場で堂々と『二馬力選挙だ』と論戦するつもりだったが、向こうから請求放棄をしてきたので、驚いている。
この裁判は日本社会で人権、法の支配、民主主義を守るために絶対に負けられない裁判だと思ってやってきた。
私は国会議員で、多くの方の寄付と優秀な弁護士のサポートを受けられたから戦うことができたが、一般市民の方がSNSで事実無根の誹謗中傷を受け、スラップ訴訟を起こされるのは耐え難いことだと思う。
厳しい目を向けなければならないし、スラップ訴訟についても、刑事当局は法と証拠に基づいて、公選法違反の共犯の立件に向けて動いてほしい。
もし、刑事当局が動けない原因があるのであれば、立法府としての取り組みをしなければならないと考えている」


編集部おすすめ