介護と育児の“ダブルケア”経験者の2割弱が「支えてくれた人はいなかった」 厳しい“ワークライフバランス”に挑む当事者の実態
国内に推計25万人の当事者がいるとされる「ダブルケアラー」。介護と育児を同時期に担う人のことで、うち8割が働き盛りの30~40代と言われている。

仕事への影響から経済的な困窮に陥る人もいれば、家族関係の変化に苦しむ人もいるというが、これまであまり大きな社会問題として認識されてこなかった。しかし、高齢化、晩婚・晩産化に伴い、“ダブルケア”当事者のさらなる増加が見込まれている。
そんな「ダブルケア」をめぐる連載の第3回は、当事者が抱える“負担”と、当事者を支えるべき社会の“実態”を解説する。(連載第1回はこちら/全5回)
※ この記事は相馬 直子/山下 順子両氏の書籍『ひとりでやらない 育児・介護のダブルケア』(ポプラ社)より一部抜粋・再構成しています。

40歳以上の約半数にとって「身近な問題」

ダブルケアを経験していなくても、ダブルケアは多くの人にとって身近な問題となっているようです。
40歳以上の男女を対象に、ダブルケアが「身近な問題」かをたずねた厚生労働省の委託調査によれば、45・4%と約半数の人が「身近な問題」としてとらえていることがあきらかになっています。「わからない」と答えた人も約2割いることがわかります(図4)。
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私たちが研究をはじめる2012年以前は、「ダブルケア」という言葉が使われていなかったことを考えると、概念の認知度もだいぶ上がってきました。ダブルケアの経験者の4割が「ダブルケア」という言葉を聞いたことがあると回答しています(図5)。一方で、ダブルケア未経験者でこの言葉を知っている人は、まだ1割未満で、認知度にギャップがあることがわかります。
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厳しいワークライフバランス

では、どのような人がダブルケアラーなのか、私たちが実施してきた調査データから、くわしく見てみましょう。
ダブルケアに直面している人の平均年齢は41・1歳です。第1子の平均年齢が7・7歳であることから、30代半ばで出産したあと、ダブルケアがはじまった人が多いことを示しています。
また過去にダブルケアをしたという人の平均年齢は42・75歳、第1子の平均年齢が10・36歳となっています。
これは、子どもが小学校高学年になる前に、つまり子どもが幼少期で、本人が30代であった時期にダブルケアをすでに経験しているということになります(第1ステージダブルケア実態調査〈2012〉および第7ステージダブルケア実態調査─ソニー生命連携調査─〈2017〉より)。
ダブルケアをしている人たちは、仕事はどうしているのでしょうか。これについても、内訳を見ていきたいと思います。
私たちの最新の調査では、ダブルケアに「現在直面中」の女性の就業状況を見ると、正社員は25・6%、パート・アルバイトは28・6%、専業主婦が37・8%と、約6割の人が仕事もしています(図6)。
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昨今、仕事と家庭の両立をうたった「ワークライフバランス」が政策上の重要課題にもなっていますが、ダブルケアラーたちは、ダブルケアと仕事という、より厳しいワークライフバランスに挑んでいることがわかります。

「ダブルケアと仕事の両立」日本社会の大きな課題

2016年内閣府のダブルケア実態調査によれば、ダブルケアが理由で業務量や労働時間を減らした人は、女性が21・2%、男性が16・1%に上ります。また、ダブルケアに直面中で「無業」の人のうち、6割は就職を希望しています。
そして、「第7ステージダブルケア実態調査─ソニー生命連携調査─(2017)」でも、介護や育児を理由に仕事を辞めたことがあるかをたずねたところ、ダブルケア経験者の男性の約25%、女性の約38%が、介護や育児を理由に仕事を辞めていることがわかりました。
では、仕事とダブルケア、いったい何を優先すべきかという問題についてはどうでしょうか。
図7からは、子育て・介護・仕事をバランスよく生活したいと考える人が全体の4割と、もっとも高いことがわかります。また、ダブルケアのなかでも、とくに子育てを優先したいと考える人が多いことがわかりました。
介護と育児の“ダブルケア”経験者の2割弱が「支えてくれた人はいなかった」 厳しい“ワークライフバランス”に挑む当事者の実態
日本では実質所得の減少傾向が続いていることから、経済的な理由から共働き家庭が増えていると考えられます。また、日本の社会ではひとり親世帯向けの福祉が不足しているので、ひとり親家庭では就業しても生活が苦しいのが現状です。

このような状況を考えると、ダブルケアと仕事の「両立層」は、今後さらに増加することが予測できます。ダブルケアをしながら就業する人たちをどう支えるかは、日本社会の大きな課題といえます。

負担背負うダブルケアラーを“支える人”は誰?

次に、ダブルケアラーの負担が具体的にはどういったものなのか、くわしく見てみましょう。
図8にあるように、ダブルケア経験者は、ダブルケアに負担を感じています。
介護と育児の“ダブルケア”経験者の2割弱が「支えてくれた人はいなかった」 厳しい“ワークライフバランス”に挑む当事者の実態
その内容として、当てはまるものすべてを選んでもらった結果、「精神的にしんどい」が女性では53・1%、男性では42・0%、「体力的にしんどい」が女性では44・7%、男性では38・1%が回答しています。
体力、気力に加えて、経済的な負担も女性では38・2%、男性では34・9%が負担と感じています。そして、子育てあるいは介護が十分にできないこと、「仕事との両立」、「遠距離の世話」があげられています。
このように、「負担」と一口にいっても、複合的な負担を同時にいくつも感じていることがわかります。
では、複合的な負担を抱えるダブルケアラーを支える人はいるのでしょうか?
「ダブルケアで大変なときに支えてくれた人は誰ですか」という質問で、ダブルケア直面中の方は「配偶者」が男性74・7%、女性54・6%でトップ、次に「子ども」が女性36・6%、男性26・7%、「親・義理の親」が男女の差がほとんどなく17%と、家族関係がまず続きます(図9)。
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さらにインタビュー調査からは、「夫」の支えの内容は「話を聞いてくれる」「自分の親を介護しているのを認めてくれる」といったことで、物理的に介護や子育てを分担する、手伝うということを必ずしも意味しないことがわかりました。
支えてくれたのは「子ども」と回答している人も、子どもが介護を手伝ってくれるというよりは(そのようなケースもありますが)、「子どもの存在が精神的な支えになる」ということが含まれています。
介護や育児の専門家のなかでは、ケアマネジャー、ヘルパー、介護施設職員と、介護分野の専門家の割合が高くなります。
子育て系の支援者よりも、介護系の支援者が支えになっていることがわかります。
とくに、「ケアマネジャーに話をしてはじめて、自分が困っていることに気づいた」「ケアマネジャーに勧められて、地域包括支援センターに相談に行った」など、ケアマネジャーに支えてもらったと感じている人が多くいます。
これは、ケアマネジャーが家庭を訪問して、支援の対象である高齢者にどのようなサービスが必要かを、家族の状況も見ながら探っていくため、家族のなかにある他のニーズも「あきらかにする」役割を果たしているためでしょう。
家族が必要としている支援を判断したり、調整したりするのは、以前はケアマネジャーの職務ではありませんでしたが、近年では家族介護者支援も、地域包括支援センターの重要な課題となってきました。しかし、常に多くのケースを抱えている個々のケアマネジャーの力量と善意に頼りすぎるのは無理があります。そういった面からも、ダブルケアを支えるには、制度的な改革が必要だといえます。
また、「支えてくれた人はいない(いなかった)」と答えた人が女性では21・0%、男性では14・2%存在することも、忘れてはならないでしょう。


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