
仕事への影響から経済的な困窮に陥る人もいれば、家族関係の変化に苦しむ人もいるというが、これまであまり大きな社会問題として認識されてこなかった。しかし、高齢化、晩婚・晩産化に伴い、“ダブルケア”当事者のさらなる増加が見込まれている。
そんな「ダブルケア」をめぐる連載の第3回は、当事者が抱える“負担”と、当事者を支えるべき社会の“実態”を解説する。(連載第1回はこちら/全5回)
※ この記事は相馬 直子/山下 順子両氏の書籍『ひとりでやらない 育児・介護のダブルケア』(ポプラ社)より一部抜粋・再構成しています。
40歳以上の約半数にとって「身近な問題」
ダブルケアを経験していなくても、ダブルケアは多くの人にとって身近な問題となっているようです。40歳以上の男女を対象に、ダブルケアが「身近な問題」かをたずねた厚生労働省の委託調査によれば、45・4%と約半数の人が「身近な問題」としてとらえていることがあきらかになっています。「わからない」と答えた人も約2割いることがわかります(図4)。
私たちが研究をはじめる2012年以前は、「ダブルケア」という言葉が使われていなかったことを考えると、概念の認知度もだいぶ上がってきました。ダブルケアの経験者の4割が「ダブルケア」という言葉を聞いたことがあると回答しています(図5)。一方で、ダブルケア未経験者でこの言葉を知っている人は、まだ1割未満で、認知度にギャップがあることがわかります。

厳しいワークライフバランス
では、どのような人がダブルケアラーなのか、私たちが実施してきた調査データから、くわしく見てみましょう。ダブルケアに直面している人の平均年齢は41・1歳です。第1子の平均年齢が7・7歳であることから、30代半ばで出産したあと、ダブルケアがはじまった人が多いことを示しています。
また過去にダブルケアをしたという人の平均年齢は42・75歳、第1子の平均年齢が10・36歳となっています。
ダブルケアをしている人たちは、仕事はどうしているのでしょうか。これについても、内訳を見ていきたいと思います。
私たちの最新の調査では、ダブルケアに「現在直面中」の女性の就業状況を見ると、正社員は25・6%、パート・アルバイトは28・6%、専業主婦が37・8%と、約6割の人が仕事もしています(図6)。

「ダブルケアと仕事の両立」日本社会の大きな課題
2016年内閣府のダブルケア実態調査によれば、ダブルケアが理由で業務量や労働時間を減らした人は、女性が21・2%、男性が16・1%に上ります。また、ダブルケアに直面中で「無業」の人のうち、6割は就職を希望しています。そして、「第7ステージダブルケア実態調査─ソニー生命連携調査─(2017)」でも、介護や育児を理由に仕事を辞めたことがあるかをたずねたところ、ダブルケア経験者の男性の約25%、女性の約38%が、介護や育児を理由に仕事を辞めていることがわかりました。
では、仕事とダブルケア、いったい何を優先すべきかという問題についてはどうでしょうか。
図7からは、子育て・介護・仕事をバランスよく生活したいと考える人が全体の4割と、もっとも高いことがわかります。また、ダブルケアのなかでも、とくに子育てを優先したいと考える人が多いことがわかりました。

このような状況を考えると、ダブルケアと仕事の「両立層」は、今後さらに増加することが予測できます。ダブルケアをしながら就業する人たちをどう支えるかは、日本社会の大きな課題といえます。
負担背負うダブルケアラーを“支える人”は誰?
次に、ダブルケアラーの負担が具体的にはどういったものなのか、くわしく見てみましょう。図8にあるように、ダブルケア経験者は、ダブルケアに負担を感じています。

体力、気力に加えて、経済的な負担も女性では38・2%、男性では34・9%が負担と感じています。そして、子育てあるいは介護が十分にできないこと、「仕事との両立」、「遠距離の世話」があげられています。
このように、「負担」と一口にいっても、複合的な負担を同時にいくつも感じていることがわかります。
では、複合的な負担を抱えるダブルケアラーを支える人はいるのでしょうか?
「ダブルケアで大変なときに支えてくれた人は誰ですか」という質問で、ダブルケア直面中の方は「配偶者」が男性74・7%、女性54・6%でトップ、次に「子ども」が女性36・6%、男性26・7%、「親・義理の親」が男女の差がほとんどなく17%と、家族関係がまず続きます(図9)。

支えてくれたのは「子ども」と回答している人も、子どもが介護を手伝ってくれるというよりは(そのようなケースもありますが)、「子どもの存在が精神的な支えになる」ということが含まれています。
介護や育児の専門家のなかでは、ケアマネジャー、ヘルパー、介護施設職員と、介護分野の専門家の割合が高くなります。
とくに、「ケアマネジャーに話をしてはじめて、自分が困っていることに気づいた」「ケアマネジャーに勧められて、地域包括支援センターに相談に行った」など、ケアマネジャーに支えてもらったと感じている人が多くいます。
これは、ケアマネジャーが家庭を訪問して、支援の対象である高齢者にどのようなサービスが必要かを、家族の状況も見ながら探っていくため、家族のなかにある他のニーズも「あきらかにする」役割を果たしているためでしょう。
家族が必要としている支援を判断したり、調整したりするのは、以前はケアマネジャーの職務ではありませんでしたが、近年では家族介護者支援も、地域包括支援センターの重要な課題となってきました。しかし、常に多くのケースを抱えている個々のケアマネジャーの力量と善意に頼りすぎるのは無理があります。そういった面からも、ダブルケアを支えるには、制度的な改革が必要だといえます。
また、「支えてくれた人はいない(いなかった)」と答えた人が女性では21・0%、男性では14・2%存在することも、忘れてはならないでしょう。