3月末に公表された第三者委員会の調査報告書は、中居氏の行為を「性暴力」と断定し、同時にそれを隠蔽(いんぺい)しようとしたフジテレビの対応の不適切さ、局内のガバナンス不全、そして組織風土の問題点までを指摘した。
そして今回、フジテレビの親会社であるフジ・メディア・ホールディングス(フジHD)の大株主である米投資ファンド、“物言う株主”ダルトン・インベストメンツ社(ダルトン)は、社外取締役12人を提案した書面をフジテレビ側に送付。6月開催予定の株主総会で、株主提案する予定であることを発表した。(中原慶一)
フジテレビ赤字転落は確実視も責任の所在は?
予断の許されない状況が続く中、4月17日には、ダルトンによって社外取締役に指名されたSBIホールディングスの北尾吉孝会長が記者会見し、「自分が取締役会長に就くことは可能だ」と就任に意欲を示し、「清水(賢治=現社長)さんは残したほうがいいと思っている」とも話した。スポーツ紙放送担当記者はこう話す。「フジテレビは、80社以上のスポンサーが離れ、いまだにごく一部を除いてはスポンサーが戻っていない状態です。一連の騒動で、フジの広告収入は従来予想から233億円減少し、赤字転落は確実視されています。これを受け、フジHDも売上高は従来予想から501億円減収し、最終利益も192億円減の98億円へと落ち込む見通しです。
一方で、3月24日には、フジHDの株主の男性が金光修社長ら旧経営陣15人に対して、同社に損害を与えたとして、233億円の賠償を求める株主代表訴訟を起こしました」
ここで疑問が湧くのは、こうした株主は、フジテレビやフジHDだけでなく、フジが大損害を被るきっかけを作った中居氏や、それに関係していた社員を訴えることはできるのかという点だ。企業法務を担当することも多い杉山大介弁護士はこう話す。
「そもそも株主が、取締役に損害賠償請求をしているのは、会社の損害について取締役が会社に賠償して、ひいては価値が減ったフジテレビの株の価値を回復しろと言う話です。
取締役は、会社の持ち主である株主から委任されて、会社を経営する任務を担っているため、その失敗に対して責任を取らなければいけないというのが背景にある前提です。中居氏やただの従業員である人たちに、株主が何かを請求することはできません。
一方、フジテレビが何かを中居氏に請求できるかと言えば、何かは請求できるかもしれません。
今問題になっているスポンサー離れといった損害の大半は、フジテレビの一部経営陣と中居氏が共同して行った事件処理のまずさ、フジテレビ自らの事後的な対応の悪さによって生じました。中居氏が勝手に何かをしたのではなく、自ら行った結果であって、中居氏が責任を負うという話にならないと思います」
つまり、今起きている事象は中居氏個人の問題ではなく、フジテレビ全体の問題なので、中居氏に〝トカゲの尻尾切り〟のように責任を押し付けてそれで終わりというような問題ではないという訳だ。
「大半の損害は当時の経営陣が了承している行為によって生じている」
一部のメディアでは、もし、フジテレビが中居氏へ損害賠償請求などを起こした場合、「中居氏への損害賠償額は100億円超もありえる」「過失相殺があるから減額して請求する可能性がある」などと報じられているが、杉山氏は「『過失相殺』などという玉虫色の話ではなく、ほとんどの損害に対して、フジテレビに請求権があるかがまず疑問ですね」と断言する。さらに中居氏と女性アナウンサーとのトラブルを引き起こした当時編成幹部だったフジ社員「B氏」(報告書記載の表記)についても同様だ。
「大半の損害は、当時の経営陣が了承している行為によって生じているので、『従業員が勝手にやって会社に損害を与えた』と評価できる部分がかなり限定的になると思います。
一般論としても、会社による従業員への損害賠償請求は、信義則による制限が加わるのですが、本件はそれ以前の、そもそも請求権に関する基本的な法律要件が満たされないのではと思います」
スポンサーが損害賠償請求することは「法律的には可能」だが…
前出のスポーツ紙芸能担当記者もこう続ける。「調査報告書では、B氏がさらに同局の女性局員との会食で《有力な番組出演者》が下半身を露出した類似事案にも絡んでいたことや、自らのセクハラやパワハラも認定されています。
清水賢治社長は、会見でB氏について『非常に問題が多かった』との認識を示しており、懲戒免職などの厳しい処分が下される可能性はありますが、この背景には、フジの社風や伝統があった上での行為と調査報告書でも断罪されているので、確かに損害賠償うんぬんの話にはならないでしょうね」
一応、杉山弁護士は、局と中居氏の話とは別に、中居氏が出演していたCMスポンサーと中居氏については、こう付け加えた。
「ただし、スポンサーが、契約違反を理由に中居氏に対して損害賠償請求することは、法律的には可能でしょうね。今回大っぴらになった事実が、スポンサー契約の前提を覆すだけの内容であることは間違いないですから。
ただ、支払った広告出演料の返還を超えて、損害賠償や違約金を請求するかは、法的に可能であっても業界慣行としては、当然には行わないと思います。中居氏も払えない金額が問題になって中居氏が金額を争えば、いろいろな事実がさらに露呈するでしょうし、それを望ましくないと評価するのは中居氏だけではないでしょう。
結論としては、今起きている株主による請求以外の損害賠償請求の話まで表沙汰にならないのでは、と私は思います」
いずれにせよ、さまざまな論点を孕(はら)み、テレビ業界の根深すぎる闇を露呈させたこの問題。渦中のフジテレビの今後はいまだに全く先が見えない状態だ。