
意識調査は、これまで把握できていなかった事実婚カップルの実態に迫るもので、当事者たちが事実婚を選択している理由などを明らかにする目的で実施された。
調査の結果、浮かび上がってきたのは、20~30代の結婚を考える世代の間で、夫婦同姓を強制されることへの抵抗から事実婚を選択するケースが多い実態だ。また、それにより当事者らが法的保障を受けられず、社会的な不利益を受け、不安や不便を抱えながら生活している状況も明らかになった。(杉本穂高)
「選択的夫婦別姓制度」導入を待っている事実婚者は58.7万人
調査はリサーチ会社インテージの協力のもとで行われた。インターネットで全国の20~59歳の男女を対象に、スクリーニング調査で1万人分の回答を回収。その中から1600のサンプルを抽出した。実施期間は2025年3月26日から31日まで。サンプルの内訳は事実婚532、法律婚538、未婚が530。スクリーニング調査に回答した1万人の中で、事実婚と回答したのは2%。これは内閣府の推計(2021年)とほぼ一致する数字だった。この数字を20~50代の人口推計6046万人(2025年3月総務省統計)に当てはめると、全国で122.6万人が事実婚状態にあると推定できるという。
その上で、調査において事実婚状態にあると回答した532人に事実婚を選択した理由(婚姻届を出さずに結婚生活を送る理由)を聞いた設問では、「相手または自分が改姓を望まないから」との回答が約3割ともっとも多い結果となった。
一方、婚姻届を出さないことでの困りごとを聞いたところ、「税控除が受けられない(25.2%)」「パートナーの医療同意ができない(21.8%)」「相続権がない(19.7%)」などが上位に挙げられ、「子どもを持つことに躊躇(ちゅうちょ)がある」という回答も11.8%という結果となった。


法律婚へ移行した人たちが感じた「事実婚」のデメリット
なお調査では、現在法律婚をしている人で、過去に事実婚だった62人の回答も集計。事実婚当時に困ったこととして、「子どもを持つことに躊躇がある」という回答がもっとも多く(37.1%)、事実婚では法的な保障が受けられないことや親権に関する問題などから、子どもを持つことに不安や迷いを感じるケースがあり、その結果として一部の人が法律婚を選んでいる現状が浮き彫りになった。

年代別・性別に見ると、20代では男女ともに「必要」と答えた人が約5割となり、若い世代ほど選択的夫婦別姓の導入を求めている傾向が、改めて示される結果となった。

事実婚の不安定さが子どもを持たない一因になっている
会見に出席した慶應義塾大学文学部の阪井裕一郎准教授は、調査結果を受けて、選択的夫婦別姓制度が導入されていない社会的な不利益を次のように指摘した。「本来は法律婚をしたいのに、同姓を強制することなどから、仕方なく事実婚を選択しているカップルが多く存在することが示された。
また、事実婚は法的な保障を十分に得られない状態のため、事実婚当事者らが心理的な不安を感じていることも可視化された。現行の婚姻制度は、「自分で氏を選ぶ自由」と「法的に保障される婚姻関係」が両立せず、いずれかを諦めなければならない“トレードオフ”の状態になっている。
さらに、選択的夫婦別姓制度は少子化対策とは別に考えられるべきだが、制度を導入することで、若者が子どもを持つことに対する心理的ハードルを下げる効果があることも明らかになった」
調査にアドバイザーとしてかかわった、立命館大学名誉教授で家族法を専門とする二宮周平博士は、「法制度は若い世代が家族を形成することへの希望を支援するものでなければならない」として、こう語った。
「改姓を望まずに事実婚を選択する人が20代に突出して多く、若い世代に改姓への違和感が強いことが示された。
あすには代表理事の井田奈穂氏は、「(事実婚であるために)パートナーの手術の合意書にサインできなかった」と自らの経験を語った上で、「同様の悩みを抱えている当事者が多くいることもわかった。税控除を受けられない、相続権が認められないといった法的・経済的な問題も含め、夫婦同姓の強制は『命とお金の問題』として捉えるべきだと思う」と述べた。
その上で、「特に若い世代が不安を感じている中、これを解消するのは政治の役割だ」と強調した。
■杉本穂高
日本映画学校(現・日本映画大学)出身。神奈川県のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ(現・あつぎのえいがかんkiki)」の元支配人、現在は映画ライター。