お笑いコンビ「とんねるず」の石橋貴明(63)氏への過去の言動に対する「バッシング」が止まらない。同氏をめぐっては、フジテレビの第三者委員会報告書で、実態調査のため、ヒアリングを要請されたことが判明。
過去に不適切な行為があったことなどが引き金となった。
16日には所属事務所を通じ、コメントを発表。初期の食道癌のほか、咽頭癌を併発していたことを明かし、一連のフジテレビ関連の不適切行為については「10年余り前のことで記憶が曖昧な部分もありますが」としたうえで、「かなりはめを外したかもしれません」と認め、謝罪するに至った。

ネット上では「当時から嫌だった」の声も

フジテレビ問題に関し、石橋氏の関与が明らかになったことで、過去の同氏出演の番組での芸風やふるまいへも厳しい意見が集中。ネット上では、「当時から嫌だった」と嫌悪感を示す声の一方で「あの時はあれが許されていたのだから、必要以上に掘り返すのはやり過ぎ」といったコメントが交錯した。
同氏のケースは、芸能人であり、影響力もあり、現役であることなどから、ある意味で仕方のない側面はある。だが、一般社会に置き換えると、過去に会社でひどいハラスメントにあった人の場合、いつまでさかのぼって法的制裁を加えるなどが可能なのか。

弁護士「当時でも法的にアウト」…時効は?

労働問題に詳しい向井蘭弁護士は、まず石橋氏の件について忠告する。
「そもそも『あの当時は許されていた』というのは間違いです。いまはもちろんですが、あの当時も、テレビ画面の中で行われていたいくつかの行為は法的にアウトです。確かに許される空気だったかもしれませんが、法的にダメだったことはしっかりと認識しておく必要があります」
そのうえで、「たとえば、セクハラ、パワハラなどで賠償請求などをする場合には、損害と加害者を認識してから3年の時効がありますが、当該の上司などに懲戒を求めるなど、金銭賠償を得る以外の目的であれば時効はありません」と説明する。
具体的には、民事裁判における「不法行為に基づく損害賠償請求」を適用する場合、時効は被害者が「損害および加害者を知ったときから3年以内、かつ不法行為の時から20年以内」とされている。
さらに不法行為が「人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権」の場合は、「損害および加害者を知ったときから5年以内、かつ不法行為の時から20年以内」とされる。よりひどいハラスメントだった場合は、その分、時効も延長される立て付けだ。

もっとも、ハラスメントでは、金銭補償よりも当該人物の懲罰や社会的制裁を求めるケースが多いといい、その場合は上記のように時効はない。現実的には、訴えるまでにあまりに時間が経過していれば、当該人物が退職していることも少なくなく、向井弁護士の感覚では「そうなると被害者側の多くはそれ以上を求めないですね」という。
「フジテレビ問題で中居さんが当初、トラブルは解決した旨を明かし、芸能界でやっていける姿勢を示しましたよね。その結果、大バッシングされました。その後、引退を表明すると少なくとも以前ほどのバッシングは無くなりました。
一方、石橋さんは病気を報告したことでバッシングは収まったものの、それでもたたかれているのは現役だからです。結局、ハラスメント被害を受けた側にすれば、同じ組織・社会に居座られることが許せないんです」(向井弁護士)

「おじさん世代」は要注意

コンプライアンス順守の意識が強くなっている昨今、かつてのようなパワハラ上司がのうのうとしていることは少なそうだが、もし運よく居座れているなら、いまからでも改心は不可避といえる。とくに50、60代のおじさん管理職および経営者世代は危ないという。
「さすがにおじさん世代も、ハラスメントがヤバいことは認識しているんです。ただ、それでも世代的に染みついたものもあり、『これくらいは大丈夫だろう』とNG行為をやってしまうケースがある。
これが問題となる背景には、若い世代、特に女性が大きく変わっていることがあります。
ある事例では、20代の女性社員に、おじさん社員がバストのサイズをあてると絡みました。女性社員はものすごいショックを受け、社内の対応部署に報告。
おじさん社員はその後、左遷されました。
20代にとっては、昭和のあたりまえに接する機会が皆無に近くなっている中で、当時のノリになんの免疫もありません。だから、受けるショックも尋常でないものになる。それくらいの意識を持っていないと、おじさん社員は本当に危ないです」
過去の映像などとともに、当時の芸風やふるまいを批判される石橋氏は気の毒でもあるが、それもまた芸能人の宿命でもある。だが、ハラスメント気質の社員は、いまや問題を起こせば、閑職に追いやられ、場合によっては離職を余儀なくされる可能性もあるため、注意が必要だ。

「うっかりハラスメント」を避けるための“セルフチェック”

キャリア晩年で、大やけどとなれば、余生にもダメージを引きずりかねない。向井弁護士がその対策として提言するのは、「セルフチェック」だ。
「うっかりハラスメントをしてしまう中年世代には共通点があります。たとえば、パワハラだったら机をたたく、セクハラだったら頭をなでたり、手を触ったり。下ネタも、『するけど俺は相手を選んでいる』といってみたり…。
結局、ダメとわかっていて制限してやっているから大丈夫だという理屈なんです。だからセルフチェックで自分を客観視して、自制するしかありません」
ハラスメントについては、厚労省も「対策マニュアル」(https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001338359.pdf)を示している。
たとえばNG行為として、セクハラなら「いつ結婚すると聞く」「好意を持った女性を食事に誘う」など。パワハラについては「無視し続ける」「仕事を与えない」などが挙げられている。
「当時は当たり前だった」が、そもそも「法的にアウトだった」とする向井弁護士は最後に、次のように戒めの言葉を送った。
「石橋さん全盛期のあの時代、公共の電波を通じ、違法行為が行われていました。悪いのは本人だけでなく、もちろん局の関係者など、容認していた人すべてです。つまり、赤信号をみんなで渡っていたんです。
ところがたまたま、事故に遭わなかった。それだけのことなんです。SNSで誰もが情報発信できるいまの時代、運よく助かる確率はもはや限りなく低い。そこのところは強く自覚しておいた方がいいと思います」


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