引き取り手のない遺体「年間4万人超」初調査で判明 “弔う親族がいない”想定した法律なく…「死後の不安」少しでも減らすには?
身寄りがないなどの事情で引き取り手がなく、自治体が火葬などを行った遺体が、2023年度、全国で約4万2000人だったことがわかった。同年の全死亡者の約2.7%にあたる。
厚生労働省(厚労省)が初めて調査した。
背景には、高齢者や単身世帯の増加、家族関係の希薄化などがあるとされる。警察庁が2024年8月に発表した孤独死に関するデータでは、同年上半期(1~6月)に自宅で死亡した一人暮らしの人が全国で計3万7227人。そのうち、65歳以上が全体の約8割を占めた。
孤独死の現状を定期的にレポートで発表している日本少額短期保険協会の「孤独死現状レポート」(24年1月)によれば、第一発見者で最も多いのは「職業上の関係者」で51%。続くのが近親者で37.1%だった。

遺体の引き取り手がいない場合、法律では市町村長が弔うのが“原則”

人が亡くなると、その親族が弔うのが一般的だろう。だが、なんらかの事情で親族と疎遠になり、周辺との関係性も乏しい場合、引き取り先不明遺体となり、死亡地の市町村長が火葬などを行うこととなっている。
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墓埋法9条に基づく火葬件数(出典:日本総研報告書=厚労省HPより)

「墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)」によるもので、その9条には次のように記載されている。
<死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村長が、これを行う>
誰も引き取り手がいない。だからといって、遺体を放置しておくことはできない。そこで、故人の尊厳を守り、公衆衛生上の問題を防止するために、このような措置がとられる。
また、旅行中・移動中・漂泊中等に死亡し引き取り人がいない人については、行旅病人及行旅死亡人取扱法(行旅法)7条により、死亡地の市区町村が、その人が誰なのか認識できる事項を記録した後に遺体の埋火葬等を行わなければならないとされている。

「遺体」の扱いの特殊性

「引き取り手がいないといっても、どこかには親族がいるケースもあるとは思います。ただ、警察や自治体がそれを調べて連絡するにも限界があります。現状、そのようなケースを想定した詳細な法律があるわけではなく、たとえば通常の相続のように、誰が相続人になってどれだけ配分されるといったような基準は特に存在しません」
「遺体」取り扱いの実状をこう説明するのは、相続や近隣トラブルに詳しい辻本奈保弁護士。
親族が亡くなれば、その関係性にもよるが、相続問題が発生するのが一般的だ。ところが、祭祀(さいし)・弔いについては、通常の相続制度と切り離し、含ませない仕組みになっている。この特殊性が引き取り人不明遺体の扱いを、単にその故人を公的に弔うだけでは済ませられない問題にしている。
「一般的に遺骨は一定の人間関係がある人が引き取り、管理すればよいのではないかということになりますが、誰も引き取る人がいなかったとき、民法の枠内では解決が難しくなっています。遺骨が誰に帰属するのか、弔いはどこまで、誰がやるべきか、法的には明確に定まっていません」

独自マニュアルを用意している自治体は1割程度

墓埋法で引き取り人不明遺体の火葬などを行うとされている市区町村はどう対処しているのか。厚労省の調査によれば、ルールなど「特にない」が4割を超え、独自のマニュアルを用意している自治体は1割程度というのが実状だ。
そうした中で、市内に1万人超のひとり暮らし高齢者が居住する神奈川県横須賀市は、エンディングプラン・サポート事業を展開。ひとり暮らしで頼れる身寄りがなく、生活にゆとりがない高齢等の市民の葬儀・納骨などに関する相談に乗り、サポートしている。
同市では、身元がわかっていながら引き取り人がいない遺骨が年間50体にのぼるといい、早い段階から対策に乗り出すことで、この問題に向き合っている。
今後のさらなる高齢化の加速、独身率の増加などの社会情勢を見据えれば、同市のような対応を迫られるケースが増大するのは確実だ。そうなれば、対処が困難になるのは目に見えており、法律も含め、その扱いについての体制整備は急務といえる。

いち個人のフェーズでこの状況を予防したり、少しでも緩和したりできないものか。辻本弁護士が助言する。
「親族と疎遠になっている高齢者の方でも、病院や友人等には、知る限りの親族の連絡先を伝えておくようにはしたいところですね。終活は浸透しつつありますが、自分が亡くなったときにどのように葬儀を行うのか、費用も含め、生前にすべて準備しておくのもいいかもしれません」

生活保護でフォローされるケースも

一方で、高齢で親族と疎遠な場合、生活水準が低いことも想定される。そうなれば、事前に準備するにも限界があろう。実はそうした場合、生活保護法がセーフティーネットとして機能するケースもある。
引き取り手のない遺体「年間4万人超」初調査で判明 “弔う親族がいない”想定した法律なく…「死後の不安」少しでも減らすには?

自治体区分別の生活保護法18条1項の葬祭扶助件数(出典:日本総研報告書=厚労省HPより)

「生活保護法に基づく葬祭扶助は以下の3つの場合です。
(A) 被保護世帯が実施する葬祭の場合 (生活保護法18条1項)
(B)死亡者本人が生活保護受給者で、葬祭を行う扶養義務者がいない場合 (同法18条2項1号)
(C)死亡者本人は生活保護受給者ではなく、葬祭を行う扶養義務者がおらず、遺留金品で葬祭を行うに必要な費用を満たすことのできない場合 (同法18条2項2号)
特に、B、Cのケースが引き取り手のいない遺体に関わる可能性が高いといえるでしょう」(辻本弁護士)

自治体が火葬した場合「死亡届」「遺骨」はどうなる?

ところで、引き取り人がおらず、公的に火葬などの対応が行われた場合、死亡届や遺体の扱いはどうなるのか。
自治体によりまちまちだが、日本総合研究所の報告書にはアンケート調査で、実際の対応が記されている。
たとえば、亡くなった人が成年被後見人等なら、後見人、保佐人などに死亡届の提出を依頼。これが難しく、亡くなった場所が病院だった場合には、病院長・施設長名での届け出を依頼している自治体もある。
遺骨については、一定期間個別に保管した後、合祀(ごうし)する自治体や、身寄りがなければ自治体指定の納骨先に届けるケースもある。後のトラブル対策として、保管し続けている自治体もあるようだ。

出生率が下がる一方で、進行する高齢多死社会。法律も含め、受け止める体制の整備が不十分なことから、主な対応先となる自治体もその対応に苦慮している実状がうかがえる。
今後、こうした引き取り人不明遺体の増加は不可避の情勢であり、公的対応となれば原資が税金となり、この問題は決してひとごとではない。そもそも、どんな事情・状況であれ、自身の死後に遺体の扱い等がどうなるかわからないような社会には、不安しかないだろう。


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