先日、生活保護制度について知りたいことを顔見知りの士業に簡易なアンケート形式で尋ねたところ、多かった回答の一つが『生活保護を受給したらなにか社会的に不利益を受けることはないのか?』というものでした。
これは、実際に行政書士が多く受けてきた質問の一つ。
そこで、流行りの生成AIにこの質問を投げてみました。すると、驚くような『間違った』回答がまことしやかに、瞬時に返ってきました。
ネットで情報収集する人が多いこの時代、生活保護への誤解、偏見の元を断ち切るべく、生成AIの回答では何が間違いなのか? 誤回答を紹介したうえで、『正しい』回答を解説します。(行政書士・三木ひとみ)

AIの誤回答1|生活保護を受けると「転居・外出」が制限される

まず、生活保護費をやりくりして、引越費用に充てるのは個人の自由です。最近は、いわゆる「ゼロゼロ物件」という、初期費用なく引越しできる物件もありますから、生活保護を受けているからといって、許可制とか、引越しが制限されることはないのです。
ただし、住んでいる場所で生活保護を受けるのが基本で、家賃がいくらかによって生活保護費の計算額が変わるので、生活保護のルールに則った報告や手続きは必要です。
また、事情によっては引越し費用が支給される場合があります。もちろん、公的なお金を役所が支給するには、相応の理由が必要です。
たとえば、生活保護受給中に就職活動をして、他県の就職先の内定を得て、その近辺へ引越しをする場合には、自分で引越費用を捻出できず、誰からも援助を受けられないことを担当ケースワーカーに伝えて、引越費用の支給申請ができます。
私が実際に担当した例では、一人暮らしの高齢者が、「住み慣れた故郷に帰り、経済的な支援は受けられなくても精神的な支えとなってくれる親族の近くで暮らしたい」という理由で引越し費用の支給を申請し、認められたことがあります。
外出・旅行についても特に制限は設けられていません。
プライバシーの確保、プライベートの自由は生活保護受給中でも当然あります。外出や旅行の報告を、都度行うという決まりはありません。

たとえば、テレビも携帯電話も持たないミニマム生活で生活保護費を節約して、毎年旅行に行かれているご夫婦を知っています。もともと奥様の身体が弱く、ご主人も身体に不自由があり、国民年金でぎりぎり働いて生活。70代に入り奥様が要介護となったことをきっかけに、ご主人が介護をしながら夫婦で生活保護を受給されています。
ただし、他人にお金を出してもらい旅行する場合は、「経済援助」と扱われ、その分が保護費から差し引かれます。
時折、親族宅に泊まりに行くなども、当然ながら個人の自由です。もっとも、友人宅や親族宅に長期間入り浸って自分の家に帰らないとなれば、そもそも居住実態が問われます。また、そのような場合は食事代や水光熱費等が「経済援助」と扱われることがあります。

AIの誤回答2|生活保護を受けていると「結婚・交際」ができない

「生活保護を受けていると同棲や結婚はできませんか?」
私が以前、ラジオ番組の生放送で生活保護の質疑応答を担当していたとき、リスナーから受けた質問です。明確に「大丈夫です」と回答しました。
既に同居しているとのことで、一刻も早くケースワーカーに事実を伝えるよう助言しました。
生活保護を受けていても、結婚や同棲、出産は個人の自由であり、権利です。
もちろん、生活保護受給中に結婚となれば、パートナーに生活保護を受給している事実は伝えないわけにはいかないでしょう。
しかし、その点さえクリアになれば、結婚等をすることに問題はありません。

実際に、就労支援施設で出会った、同じ病気や障害を持つ人同士が恋におち、寄り添い助け合いながら暮らしているケースもあります。
ただし、結婚や同棲をする場合には、その旨をケースワーカーに伝えて所定の手続きをする必要があります。
同居する人が無資産・無収入である場合や、生活保護受給者である場合には、同一世帯として一つ屋根の下で暮らしながら一緒に生活保護を受けることも可能です。
同居相手に資産収入が一定以上あれば、その人の扶養の傘に入りますので、生活保護は卒業です。
なお、結婚する相手に生活保護を受給していたことを知られたくない場合に、先にケースワーカーに相談して、保護を廃止にしてもらい、結婚・同居した例もあります。

AIの誤回答3|生活保護を受けたら「就職に不利になる」「家族の仕事に影響する」

本人の就職にも、親族の就職にも、生活保護受給者であることによる不利益、影響は及びません。
生活保護の申請・受給の事実は究極の個人情報なのです。本人が、自分の口から生活保護を受けてた旨を言わない限りは、就職先や転職先、前職などに知られることはありません。
生活保護を受けている福祉事務所から、就職先や前職に勝手に連絡されることも当然ありません。
ただし、生活保護を受給しながら就職した場合は、毎月の収入申告が必要です。この収入申告をせずに給与をもらいながら生活保護費を満額受給すれば、不正受給となります。
また、「親兄弟が国家公務員・地方公務員だから、自分が生活保護申請をするとバレるのではないか」という相談も多数受けてきましたが、心配ありません。
国家公務員の親族でも経済支援を受けられなければ生活保護を受給できますし、そもそも親族が公務員であることや親族の個人情報の開示は任意です。

生活保護申請において、勝手に家族の仕事を調べられることはありません。

AIの誤回答4|「役所の調査・扶養照会」で必ず家族に連絡がいく

生活保護を申請すると、本当にその人が生活困窮しているかを確認するための資産収入の調査はあります。しかし、家計簿の提出の強制や、親族の身辺調査を秘密裏にされることはありません。
あくまでも、生活保護申請にあたり調査が必要なのは、本人の資産収入に関することです。また、役所が勝手に資産や年金を調査できるわけではありません。
生活保護申請後、あるいは申請時に、年金額や金融資産の調査に同意する旨の同意書に署名しない限り、役所が勝手に個人の銀行の預貯金などを調べることはできません。
また、親族への調査である扶養照会は任意であり、強制ではありません。国から自治体に対し、「扶養照会を苦に申請をためらうことのないよう」個々の状況に応じた適切な対応をすべき旨の通達も出ています。
現在の法制度では、10年以内に連絡を取り合った親、兄弟、子には基本的に扶養照会がなされます。ただし、生活保護申請時に扶養照会をしないでほしい旨の意思表示ができます。
大事なのは、「この親族には、こういう理由で生活保護の事実を知られたくない」との明確な意思表示です。家族と折り合いが悪い場合、扶養照会により親族関係がこじれるおそれがある場合などには、親族への調査は回避してもらうよう要望すればいいのです。
さらに、生活保護を受けるわけではない家族の資産や収入を聞かれても、それは生活保護を受ける本人の個人情報ではありませんから、「別居で経済援助がない親族の個人情報は答えられない」と回答できます。

なお、扶養照会の書面が親族宅に届いても、これまで経済援助をしなかった親族なので、役所からの文書そのものを破棄するなど、回答に協力を得られないケースもよくあります。
扶養照会の回収率の低さから、国会で、「無駄な手続きではないのか」「単に生活保護申請の心理的ハードルを上げるだけではないのか」との質問が行われたこともありました。

AIの誤回答5|生活保護世帯の子どもは「大学に行けない」

「生活保護受給しながら大学に通うことはできない」という情報はネットに溢れていますが、これには誤解があります。
たしかに、生活保護を受けながら大学に通うことは認められていません。しかし、「世帯分離」をしたうえで、家族と住み続けながら、返済不要の手厚い給付型奨学金で学費と生活費の支援を受け、大学に通うことはできます。
日本学生支援機構(JASSO)の住民税非課税世帯向け給付型奨学金は、生活保護世帯も対象です。2025年の月額支給は、生活費として自宅通学で3万8000円、自宅外通学で最大7万5000円。
これに加えて、国公立大学であれば入学金と授業料は全額免除、私立大学も入学金減免が約25万円、授業料の減免も年間約70万円と手厚いです。これに加えて、生活保護受給していないため、アルバイトをしても、家族の生活保護費が減らされることはありません。

最後に|見えない不安に、振り回されないために

「生活保護は一度受けたら不利益が一生残る」といった誤解、偏見が、制度の利用を妨げている現実があります。
しかし、実際には、生活保護を申請、受給しても、そのような不利益はないのです。
生活に行き詰まりどうにもならなくなったとき、生活保護制度の利用は憲法25条・生活保護法等により保障された権利です。
生活保護について、インターネットやSNSには間違った情報がたくさんあります。
正しい知識を持てば、経済的に困窮した場合には手厚いセーフティーネットが日本には用意されているという安心感に繋がります。生活に困ったら、一人で悩まず、自分を追い詰めることなく、ためらわずに「安心・無料」の役所へ行き、生活保護の受給を申請すればいいのです。


三木ひとみ
行政書士(行政書士法人ひとみ綜合法務事務所)。官公庁に提出した書類に係る許認可等に関する不服申立ての手続について代理権を持つ「特定行政書士」として、これまでに全国で1万件を超える生活保護申請サポートを行う。著書に「わたし生活保護を受けられますか(2024年改訂版)」(ペンコム)がある。


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