
21日の参議院予算委員会で、石破総理は「トランプ大統領がみずから出てきたのは、日本との協議を重視しているということ」と強調。
同日発表された米国の世論調査では、トランプ大統領の経済政策を「支持しない」と答えた人が55%に達し、就任以来最も低い水準の支持率となっている。
一般に関税は「自国産業の保護」を目的とする政策とされるが、そのコストは最終的に自国民が負担するとの指摘もある。しかし、そもそも「関税」とはどのような仕組みであるのか、その基本的な理解が広く共有されているとは言いがたい。
本稿では経済学者の加藤真也教授(名城大学)が、関税とは誰が支払い誰に影響を与えるのか、またトランプ関税が世界経済に及ぼす影響について、基礎から解説する。(本文:加藤真也)
関税を負担するのは「国内の消費者」
最近、アメリカのトランプ大統領による関税政策が世界経済を揺るがしています。ここで改めて、「関税」の仕組みについてわかりやすく解説しておきましょう。
関税とは、外国から輸入する商品に対して課される税金のことです。
たとえば、日本政府はアメリカから輸入されるオレンジに対して関税を課しています。以下では関税率を10%、為替レートを1ドル=100円と仮定しましょう。
アメリカのオレンジの価格が1個1ドルだとすると、日本の輸入業者はそのオレンジ1個を買うためにアメリカの販売会社に1ドルを支払います。そして、為替レートが1ドル=100円なので、日本の輸入業者にとってのオレンジ1個の仕入れ価格は100円となります。
関税率が10%であれば、輸入業者はこの100円に対して10%分、つまり10円の関税を日本政府に納税しなければなりません。
仮に輸入業者が10円の利益を上乗せしたいと考えた場合、オレンジ1個の販売価格は110円+10円(利益)=120円になります。
このように、関税を実際に納めるのは「日本の輸入業者」ですが、その分は価格に転嫁されるため、最終的に負担するのは消費者、つまり「日本国民」ということになるのです。
「貿易自由化」でも関税はかかる
「貿易自由化」後にも、アメリカ産オレンジには関税がかけられている(shige hattori / PIXTA)
アメリカのトランプ関税では、中国からの輸入品に対して高い関税がかけられましたが、実際にその関税を支払うのは「アメリカの輸入業者」です。
したがって、中国製品の価格が上がり、それを購入する「アメリカ国民」が最終的な負担を負うことになります。
ところで、小学校の社会科などで「日米貿易交渉により、1991年から牛肉・オレンジが貿易自由化された」と学んだ記憶がある方も多いかもしれません。
ここで注意すべきなのは、「貿易自由化=関税ゼロ」ではないという点です。
実際に、日本の牛肉に対する関税率は現在38.5%、オレンジについては「季節関税」といって、輸入時期によって異なる税率が設定されています。
たとえば、6月1日から11月30日までは16%、12月1日から翌年の5月31日までは32%です。これは国産オレンジの出荷時期と重ならないよう、季節によって調整されているためです。
このように、「貿易自由化」とは、貿易に関する障壁を取り除いたり低減したりすることであり、関税率を下げることも自由化に含まれます。特に1991年の牛肉・オレンジの貿易自由化は、「輸入数量枠の撤廃」という意味での自由化だったのです。
ちなみに、牛肉やオレンジにかかる関税は、輸入品の価格に応じて課税される「従価税」(「価」格に「従」って課す「税」)ですが、コメに対しては「従量税」(「量」に「従」って課す「税」)が適用されています。
日本ではコメ1kgあたり341円の関税がかけられており、これは外国産のコメが日本で販売される際、1kgあたり341円が価格に上乗せされることを意味します。
関税の計算方法は?
せっかくなので、こうした関税が実務上どのように計算されるのか、もう少し詳しく見ていきましょう。通常、関税の課税対象は「CIF価格(Cost, Insurance, and Freight:シフ価格)」と呼ばれる、商品代金+保険+運賃の合計になります。
もちろん、輸入には航空輸送もありますが、ここでは代表的な「海上輸送」のケースを説明します。
● CIF価格=FOB価格(本体価格)+海上運賃+海上保険料
FOB価格(Free On Board:フォブ価格)は、輸出国の港で船に積み込むまでの費用を含めた商品本体の価格であり、本船渡し価格(本船渡し条件)と訳されます。
また、海上運賃は輸出国から輸入国までの輸送費、海上保険料は輸送中の事故や損傷に備える保険の費用であり、いずれも通常は輸入者が負担します。
具体的には、次のような数値例で考えていきましょう。
● FOB価格(オレンジの本体価格):1.00ドル
● 海上運賃(アメリカの港から日本の港までの船賃):0.15ドル
● 海上保険料(輸送中の事故に備える保険料):0.05ドル
● CIF価格(合計=税関で課税対象となる金額):1.20ドル
このCIF価格1.20ドルに対して関税がかかるわけですが、まず為替レート(税関公示レート)1ドル=100円を使って円換算します。
税関公示レートとは、財務省(税関)が毎週金曜日に翌週分(月曜~日曜)を公表する、輸入申告時に使う公式の為替レートです。
たとえば水曜日にアメリカからオレンジを輸入するなら、「その週に適用されている税関公示レート」でドルから円に換算するわけです。
この例では、CIF価格1.20ドル=120円となり、この価格に対して関税率10%が適用されて、12円が関税として課されます。
さらに、120円+12円(関税)=132円に対して消費税10%が課されるため、消費税は13.2円。
最終的に、132円+13.2円=145.2円が日本の輸入業者の仕入れコスト(輸入原価)となるわけです。
このように、輸入品にも日本国内の商品と同様に消費税が課されます。輸入品に消費税がかからなければ国内事業者が不利になるため、制度上の公平を保つ目的で導入されているものです。
結局、オレンジ1個に対して輸入業者が負担するコストは145.2円ですが、ここに各業者(輸入業者、卸売業者、小売業者)の利益や国内での流通費が加わることで、日本国内での店頭価格はさらに高くなります。
「国民の負担」と「産業の利益」を天秤にかけて判断
さて、ここまで見てきたように、「関税は輸入業者が納めるものの、最終的には消費者がそのコストを負担する」ことになります。では、なぜ日本政府は関税をかけるのでしょうか?
その理由の一つは、「関税によって国内産業を保護するため」です。関税により輸入品の価格が高くなれば、消費者は「外国産は高いから国産品を選ぼう」と考えるようになり、結果として国産品に対する需要が高まります。
ちなみに、日本政府は関税や輸入消費税による税収も得られますが、これは国内の輸入業者から徴収されたものであるため、国全体として見ればプラスマイナスゼロになります。
たとえば、日本で消費される小麦の8割以上は輸入に依存しているため、小麦に関税をかければパンの価格が上がります。その一方で、国産小麦の生産者にとっては販売機会が増え、利益が上がる可能性があります。
このように、関税によって生じる「国民全体の負担増」と「国内産業の利益増」のどちらが大きいかが、関税政策の是非を判断する基準となります。
経済学的にはデメリットが大きいが
経済学の立場では、「関税はその国全体にとってデメリットが大きい」というのが一般的な結論です。つまり、関税によって生じる国民の負担が、保護される産業の利益を上回るということです。
それでは、なぜトランプ大統領は関税を強化しているのでしょうか?
それは、経済全体の効率よりも、特定の国内産業の保護や雇用維持を優先するという政治的判断であると考えられます。
経済学は、全体最適を追求する学問であるため、こうした政策を中立的に評価し、結果として「非効率」とすることが多いのです。

加藤真也教授
トランプ関税が世界経済に広げる波紋
最後に、2025年4月のトランプ関税の動向について整理しておきましょう。4月2日
「相互関税」政策を発表。すべての国に基本関税率10%を課し、日本には24%、中国には34%、インドに26%、EUに20%など、貿易赤字の大きい国に上乗せ関税を設定。5日に発動。
4月10日
「相互関税」を中国以外の国に対して90日間停止すると発表(日本への10%は維持)。そのうえで、中国からの輸入品への関税を最大145%に引き上げ。
4月11日
中国が報復関税として、アメリカからの全輸入品に125%の関税を課すと発表。12日に発動。
4月12日
中国が追加表明。アメリカがさらに関税を引き上げても「相手にしない」と宣言。
この間、世界の株価は乱高下し、アメリカ国債の価格や金利、為替レートにも影響が出ました。
たとえば、株価の下落により投資家が安全資産である国債を購入したことで、国債価格が上がり、金利が下がるという動きが見られました。
その後、株価の急落によって損失を受けた企業が国債を売る動きに転じ、国債価格は下落し、金利は上昇するという変化も起きています。
2025年4月17日には、トランプ大統領がFRBのパウエル議長の解任を検討しているという報道もあり、金融市場の不安定化が懸念され、その後、ドル売りと円高が進行しました。しかし、23日には「パウエル議長を解任するつもりはない」との報道が流れ、トランプ大統領は事態を鎮静化しようとしています。
このように、トランプ関税は世界経済に大きな波紋を広げており、その影響を理解するためにも、経済学の視点による分析がますます重要になっていると言えるでしょう。
■加藤真也
博士(経済学)。名城大学・経済学部産業社会学科教授。岡山商科大学・山口大学経済学部准教授を経て2025年より現職。YouTubeチャンネル「はじめよう経済学」では、社会人、特に経済学の初学者を対象に経済学をわかりやすく講義している。チャンネル登録者数は3.66万人(2025年4月時点)で、「経済学」系のYouTubeチャンネルではチャンネル登録者数は日本最多。