今月1日、あるXユーザーが投稿したこの短いポストがSNS上で拡散された。
前述のポストには2枚の画像が添付されており、1枚は駐車場の様子で、もう1枚には「ディスカウントドラッグコスモス 店長」の署名とともに書かれたメモが写されており、その内容が議論を呼んだ。
「無断駐車は固くお断りいたします。
当店駐車場は、お買い物中のみご利用いただけます。ナンバーを控えさせていただきました。
告知の通り、1万円を申し受け致しますので、本文を確認されましたら、店頭までお越しください。
また、今後同様の無断駐車をされた場合は、警察へ通報いたします」
コスモス側、共同駐車場と認め謝罪
しかし、投稿にもあった通り、現場となった「ドラッグストアコスモス松原インター店」はラーメン店と隣接しており、駐車場には両店舗のロゴが描かれた看板が設置されていた。そこで、投稿者は「看板をみて、ラーメン屋と共有の駐車場だと判断し、駐車場を利用したが、メモによって共有でないと知った。1万円を支払いたいので振込先を教えてほしい」という旨のメールをコスモス側に送信。
メールと電話でのやり取りを経て、コスモス側は同駐車場がラーメン店との「共同駐車場」であることを認め、投稿者に謝罪した。
投稿者が4月3日に謝罪を受けたとXで報告すると、翌日の4月4日にはコスモス社側も「『ドラッグストアコスモス松原インター店』に関するSNS上の投稿及び当該投稿に関連する一部報道について」と題したプレスリリースを発表。
「エリア責任者から弊店従業員に対して、共用駐車場である旨を周知できていなかった」「従業員に対する教育不足があった」と反省を示し、今後は「従業員に対して運用ルールの周知を徹底」すると表明した。
「民間人や企業が勝手に『罰金』を課すことはできない」
一連の騒動で、投稿者は“罰金”を支払う姿勢を見せていたが、これに対するリプライの中には、「(コスモス側の請求には)法的根拠がないのでとんずらで大丈夫」といった声や、「法的根拠のない金品を要求する行為は恐喝に当たる」といった声も見受けられた。果たして、このような投稿は法的に正しいのだろうか。民事事件および企業法務に詳しい本庄卓磨弁護士は「一部に正しい部分もあるものの、法的には不正確または誤解を招く表現も含まれている」として注意を促す。
「まず、『罰金』という言葉は本来、刑事事件において科される刑罰の一種であり、民間人や企業が勝手に『罰金』を課すことはできません。
そのため、駐車場の持ち主や管理者が、張り紙などで『無断駐車は罰金○万円』と記載していても、それだけでは法的な支払い義務は生じず、請求に応じる必要はありません。
さらに、『○万円払え』などと威迫的に金銭を要求する行為は、その状況や言動の内容によっては、恐喝罪(刑法249条)に該当する可能性があります」(本庄弁護士)
「損害賠償を請求される可能性も…」
ただ、実際に無断駐車をしてしまった場合、こうした請求を「すべて無視してよい」と断定するのは危険だと本庄弁護士は続ける。「無断駐車によって実際に損害が発生している場合には、その損害の実費相当額について、損害賠償請求がなされる可能性はあります。
たとえば、無断駐車によって、他の客が駐車できず機会損失が生じた、有料駐車場を代用したといった場合、駐車場の持ち主からその損害額を限度とした、損害賠償を請求される可能性があります」(本庄弁護士)
とはいえ、この場合も駐車場側が「罰金」や「違約金」などの名目で高額な金額を一方的に請求することはできないという。
「事前の契約や合意がない限り、駐車場の持ち主等が、無断駐車をした人に対して請求できるのは、あくまで“実際に発生した損害額”に限られます」(同前)
無断駐車に頭を悩ませている場合は?
一方、ネット上ではコスモスを巡る騒動の影響か、「近所の駐車場の看板が訂正されている」という投稿も見られた。投稿に添付された写真には、「20分以上お車から離れて駐車されている場合、無断駐車とみなし」と書かれた看板が写る。罰金の支払いを求めるような書きぶりだが、文章が続く箇所を覆うように紙が貼られており、「みなします」と上書きされていた。
罰金に法的根拠がないことを知った関係者が慌てて紙を貼って、文言を変更させたのだろうか…。
無断駐車に頭を悩ませる企業や住宅、土地の持ち主らは、どのような対応を取るべきなのだろうか。本庄弁護士は次のように解説する。
「1つ目の対応策は、証拠を確保することです。無断駐車を行っている車両のナンバーや、駐車の位置、日時などを写真や動画で明確に記録しておきましょう。
事前に「駐車禁止」「無断駐車は損害賠償請求の対象になります」といった看板を設置するなど、警告表示をしていた場合も、無断駐車に対する抑止効果を期待できるだけでなく、注意喚起がなされていたことの証明になります。
また、被害が継続する場合は、防犯カメラの設置や、駐車場管理会社への委託も有効です」
無断駐車によって通行が妨害されている、出庫ができないといった緊急性がある場合には、110番通報も有効だ。
「緊急性がなくても、『不法占拠』や『民事介入要請』として警察に相談することは可能です。ただし、民事不介入の原則から、必ずしも対応してくれるとは限りません。
車の所有者や使用者が判明している場合には、基本的には、まずその人に連絡し、交渉を進めることになります。この際、やり取りを録音するなど記録を残し、冷静に交渉することが重要になります。
無断駐車をされると、つい感情的に『罰金を払え!』と言いたくなりますが、実際には冷静な対応が大切です。
もし、対応に不安がある場合は、早めに弁護士に相談すると安心でしょう」(本庄弁護士)