コロナ重症化を察知できる“偽造品”出回る
パルスオキシメーターとは装置に指を挟み、動脈血の酸素飽和度(血中酸素濃度)等を簡単に計測、心肺機能が正常であるかを知ることができる医療機器として販売されている。「トライアンドイー」と「エクセルプラン」は2011~12年ごろから、アマゾンジャパンのプラットフォーム(販売サイト)上で、こうしたパルスオキシメーター「パルキシープラス」等の販売を行ってきた。
2020年初頭からの新型コロナウイルス感染症拡大を機に、販売状況が一変。同ウイルス感染症の重症化をいち早く知ることができるとして、パルスオキシメーターが売れ始めたという。
しかし、同時期からアマゾンジャパンのサイト内で主力製品「パルキシープラス」の偽造品が“同製品”と誤認されて売られるようになった。
正規品の販売価格、約2万6000円に対し、偽造品はおよそ10分の1の約2000円。客が偽造品に流れたことで利益は激減。また、サイト内のレビュー(感想記入)欄には、偽造品購入者からの「正常に動かない」「数値が正しくない」などの書き込みが並んだ。
アマゾンで販売されている「トライアンドイー」社製のパルスオキシメーター(左)とその偽造品。デザイン・色が酷似している(4月25日 都内/榎園哲哉)
さらに、本来の価格が“異常に高い”とシステム内のアルゴリズム(計算・処理方法)に弾かれ、正規品にもかかわらず出品停止となった(現在は出品再開)。
2社はアマゾンジャパンに対し改善を求めてきたが、状況は変わらず、2022年9月、合計約2億8000万円の損害賠償を求める訴訟を提起した。
アマゾンジャパン独自システム「相乗り出品」の弊害
判決後、記者会見に臨んだ原告代理人の染谷隆明弁護士は、偽造品が正規品として売られる背景として、アマゾンジャパンが独自に採用する「相乗り出品」方式を挙げた。同方式では、同一商品はサイト内の同一ページで集約・販売される。
たとえば、アマゾンである商品Aを検索すると、ページを開設した業者以外にも「こちらからもご購入いただけます」と、他にAを出品している業者が複数ひもづけられて紹介される。これは、他の通販サイト「楽天」や「ヤフオク」などでは採用されていない方式だ。
同方式について、染谷弁護士はメリットと弊害があると指摘。メリットについては、「消費者が一つの商品ページで複数の出品者の価格を比較できる」ことなどを挙げた。
一方で、「適正に運用しなければ問題が生じる」と弊害に言及した。そのうちの最たるものが、消費者が誤って偽造品を購入してしまう可能性だという。
染谷弁護士は、「同一ページに出品されている商品(相乗り商品)は全て同一であることが前提で、消費者は商品が同一であると疑わない。(注文とは)別の商品が届けば(消費者にとっても)相乗り出品の意味がない」と指摘。
さらにパルスオキシメーターのような医療機器については、法律上販売資格が必要と説明した上で、「相乗る出品者もきちんと販売資格を持っていなければならないはずだ」とも語った。
アマゾンジャパンに訴えた四つの「義務」
今回まさに「相乗り出品」方式の弊害が「エクセルプラン」が開設した商品ページで露呈した。前述したように、同社のページに偽造品の製造業者が相乗り。ロゴが模倣され、デザイン・色も酷似した偽造品が“正規品”として販売された。

約2000円の偽造品につながるサイトページ(提供:池田・染谷法律事務所)
裁判で原告は、販売の場の提供を受けるために出品者が払う対価に対して、適正に商品を販売できる環境を整えるために負う「適正システム構築提供義務」をアマゾンジャパンは履行していないと主張した。
具体的には、以下四つの義務に違反していることを訴えた。
①「相乗り出品の際、相乗り出品者の販売資格の有無や偽造品かどうかを確認し、違法な相乗り出品を排除する義務」
②「申告等によって違法な相乗り出品を知り得た時は、合理的期間内に、相乗り出品者の販売資格の有無や偽造品かどうかを確認し、違法な相乗り出品を排除する義務」
③「原告が出品した商品を合理的理由なく出品停止・削除しない義務」
④「事実誤認に基づくレビューを適時かつ適切に削除する義務」
一方、被告側はこうした「適正システム構築提供義務」について、その義務を「負わない」と反論。
東京地裁は判決で、②「申告等によって異なる品の出品を知り得た時は、合理的期間内に、相乗り出品者の商品が異なる商品かどうかを確認し、異なる商品を排除する義務」と③「原告が出品した商品を合理的理由なく出品停止・削除しない義務」の二つの義務が被告にあることを肯定。被告に対し、3500万円の損害賠償支払いを命じる判決を言い渡した。
「偽造品を医療機器と信じ、命のよりどころとして使用している人もいる」
医療機器の偽造品は購入者・使用者の命にもかかわりかねない。パルスオキシメーターは、薬機法2条8項で定める「特定保守管理医療機器」とされ、製造・販売するためには、品目ごとに認証を受ける必要がある。販売された偽造品が認証を受けていたかは疑問だ。
染谷弁護士は「偽造品や販売許可がない出品者による商品であれば安全性についても問題がある」と懸念を示した。
会見に出席した「トライアンドイー」の藤井敬博社長も、偽造品が使用者に健康被害を及ぼしかねないことへの憤りと不安を語り、アマゾンに対しこれまでに販売した偽造品の回収を求めた。
「今でも医療機器と偽ったパルスオキシメーターが流通している。(偽造品を)医療機器と信じて購入し、命のよりどころとして使用している消費者に対し、会社(アマゾンジャパン)が商品を回収するなどの措置を取ることを切に願う」(藤井社長)
筆者はアマゾンジャパンにもコメントを求めたが、回答は得られていない(4月28日17時現在)。
■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。