「精神疾患を抱える相談者が増えている」貧困問題の相談会で浮き彫り 今も尾を引く“コロナ禍”の影響とは
貧困問題に取り組む市民団体「反貧困ネットワーク」が主催する「いのちと暮らしを守るなんでも相談会」が4月26日、都内で開かれた。弁護士や社会福祉士ら専門家が貧困など悩みを抱える約50人の相談に乗り、答えた。

相談からはある懸念も浮き彫りになった。新型コロナウイルス・パンデミック禍で精神疾患等を抱えた人たちが、今も不安定な状況の中で苦しい生活を余儀なくされている現状だ。(榎園哲哉)

相談者「夜間学校に通い、高卒認定を取りたい」

会場の東京・早稲田の反貧困ネットワークサポートセンター「東京DEW(デュウ)」。相談したいテーマごとに「医療」、「法律」、「生活」の三つのブースが設けられ、各ブースには立て続けに相談者が訪れた。
女性Aさん(45)は、精神疾患を抱え就業できない状況などを相談した。
精神科に通院し、社会復帰・リハビリのための通所型デイケアにも通いながら生活しているAさんだが、相談後「夜間学校に通いたいという目標に向けて、(相談して)道が開けた」と語った。
「学校に行っていない時期があったので、もう一度学び、高卒の認定も欲しい。こういうことは友人たちには相談しづらいし、できない。(相談会で)ゆっくりと時間をかけ、親身になって相談に乗ってもらえた。来て良かった」
男性Bさん(29)も、相談会に初めて訪れた。
東京・六本木のバーで働いていたが、就労状況を巡って店長ともめて退職。職と収入を失い、家賃も滞納、生活保護の受給を相談した。
「思っていたより、(スタッフの)みなさんが優しかった。
もっと問い詰められるかと思っていた。区役所に一緒に行こうと提案をしていただいた。生活保護で暮らしを立て直し、新たな仕事先を見つけるつもりだ」

「精神疾患を抱える相談者が増えている」指摘

なんでも相談会を開く「反貧困ネットワーク」は、貧困問題に取り組む市民団体、労働組合などが集まり2007年10月に結成された。
会社・職場の休業や倒産、失業者の増加、収入の減少など、生活困窮の拍車がかかったコロナ禍では、2020年4月から2022年1月まで、「コロナ災害を乗り越える いのちと暮らしを守るなんでも電話相談会」を2か月に一度実施。全17回、延べ約1万5000件の相談に対応した。相談会はその後も継続し、年に3~4回、対面と電話で相談に乗っている。
2023年5月にはインフルエンザ並みの「5類感染症」とされ収束したコロナ禍だが、反貧困ネットワーク事務局長の瀬戸大作さんによると、貧困状態などが長く続いたこともあり、悪い方向に「(相談の)構図が変わっている」として、こう指摘する。
「精神疾患を抱える人たちの比率が相当高くなっている。相談を受けているとコロナ禍で人々の暮らしが壊れ、心や健康も壊れ始めたという実感を受ける」

社会との「つながり」実感、交流スペースも

相談会が開かれた「東京DEW」では交流スペース「Champora―ちゃんぽら―(沖縄でごちゃまぜという意味のチャンプルーなどからの造語)」も週に2回開催し、表現活動(絵画や工作等)やゲームなどが行われている。
相談会で健康状況について相談していた女性Cさん(57)は、「ちゃんぽら」にもよく足を運んでいる一人だ。
家賃を払えずにアパートを追い出され、東京・蒲田のインターネットカフェで寝泊まりしていた頃、偶然、路上で案内していたスタッフから声を掛けられ、相談会、そして「ちゃんぽら」を知った。
「絵を描いた経験はないが、集中して無になって描いている」とこれまでに10枚ほどの作品を描いた。
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交流スペース「ちゃんぽら」で描いた絵を紹介するCさん

何度も通ううち、ボランティアとして働くようになった藤田稔さん(46)は、廃材を用いて灯台をモチーフとした作品などおよそ20の工作を作った。
「(ちゃんぽらでは)いろいろな人と話ができる。
人とのつながりがうまれ、情報交換もできる。お互いにぐちを言い合ったりして気分が晴れる」

「一緒に悩み、考えていくことが求められる」

病気や失業、さらにコロナ禍の“後遺症”ともいえる生活困窮。そして、それに伴う社会からの孤立からどうやって人々を救うか。
筆者が取材に訪れた日の相談会では、ボランティアを含む17人のスタッフが対応し、計46件(対面12件、電話34件)の相談に答えた。
おにぎりと豚汁を振る舞う炊き出しもあり、そこではスタッフと来場者らが和気あいあいと過ごしていた。
相談会終了後、筆者の取材に対し、瀬戸さんはこう語った。
「自分の身分証明が全くない、という相談もあった。行政(上の処置)でだめであっても、だめだと切り捨てるのではなく、この相談会では一緒に考えて方法を探すことを大切にしている。寄り添い、一緒に悩んで考えていくことが必要だ。(社会保障制度から)こぼれる人や、誰からも光を当てられない人たちが今後新たに出てくることがないよう、現場からもしっかりと発信していきたい」
次回の相談会は7月26日(土)を予定している。
■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。
東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。


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