北海道・オホーツク海側にある湧別町。サロマ湖に接し、今年3月末現在で人口約7800人の小さな町だが、町庁舎の建設をめぐって裁判が繰り広げられる騒動になっている。
(小林英介)

小学校跡地に新庁舎建設を計画

湧別町は2009年、旧上湧別町と旧湧別町が合併して誕生した。合併当時は本庁舎が旧上湧別町にあり、旧湧別町には総合支所が設けられていた。しかし、効率化のために2016年、分庁舎方式へと変更。分庁舎方式を始める際、町は「将来的には本庁・支所方式が望ましく、分庁舎方式はその過程であり、合併10年をめどに既存庁舎を活用し庁舎を集約すること」を前提としていた。
22年には町民らが湧別町庁舎等検討委員会を設置。行政機能の集約化に向けて動き出すのと時を同じくし、翌年には「湧別町庁舎等集約化基本構想」を策定した。基本構想では、今年3月末で閉校した中湧別小学校の跡地に、約44億円の総事業費をかけて新庁舎を建てる計画だった。

反対派の動き激化、町を提訴

では、この計画をめぐり、どうして争いが続いているのだろうか。その背景には、地方自治法が関係している。
湧別町の町議員のうち、新庁舎の整備に反対する議員は10人中4人いる。
地方自治法4条1項は「地方公共団体は、その事務所の位置を定め又はこれを変更しようとするときは、条例でこれを定めなければならない」と庁舎移転について規定している。また、同条3項では「(同条1項で触れた)条例を制定し又は改廃しようとするときは、当該地方公共団体の議会において出席議員の3分の2以上の者の同意がなければならない」と特別多数議決が規定されている。
つまり、湧別町の議員10人のうち3分の2となる7人が賛成すれば、条例が改正されるのだ。
24年6月、町議会第2回定例会で町は庁舎設計業務委託費を一部含めた補正予算案を提出。
採決の結果、過半数の賛成を得て予算案は可決された。
ところが、「特別多数議決を先にすべき」とする議員4人はこれに反発し、市民団体「みんなで湧別の明日を考える会」と協調。地元の男性が町を提訴して新庁舎設計業務の差し止めを求めた。
関係する裁判資料などによると、原告側は「役場事務所の位置変更条例規定には、特別多数議決で採決されるとあり、この予算は特別多数議決の扱いだ。しかし、普通の議案として扱い、採決・可決したことは違法だ。予算の執行により計2億5600万円の歳出が生じ、住民に過大な債務負担が生じる」と訴え、予算執行の差し止めを求めた。
一方、町側は「予算執行は原告個人に権利侵害を及ぼすものではなく、原告を含む町民の権利義務関係に直接具体的に影響するものではない。差し止めの訴えの対象になる処分にはあたらない」とし、請求の棄却を求めていた。

札幌高裁「予算執行は差し止めの対象にはならない」

24年10月、釧路地方裁判所は判決で「原告側が差し止めを求める予算執行は、被告側が議決に基づいて行う行政作用にすぎず、それ自体は原告側を含む住民に対し、新庁舎建設に関する費用などの債務全体または一部を負担させる。または一定額の支出を強いるなど、何らかの権利義務をつくるものではなく、原告を含む町民の法上の権利義務をつくり、その範囲を確定するものとは認められない」として処分にはあたらないと判断し、訴えを却下。
しかし、原告側は判決を不服として札幌高等裁判所に控訴した。
25年4月15日、札幌高裁は判決を言い渡し、原判決の判断を引用したうえで「控訴を棄却する。
差し止めの対象にはならない」と控訴を棄却する判決を言い渡した。本稿記者の取材に応じた原告側代理人は「原告側から『上告した』と連絡を受けている。今後は、次の裁判に向けて準備を進める」と回答。町側は「今後は粛々と新庁舎整備を進める予定。庁舎は28年から供用開始を予定している」とコメントしている。
町では今年10月に町長選挙を控えている。今のところは現職の刈田智之町長と、加藤政弘町議のみが立候補する見通し。加藤氏は新庁舎の建設計画に反対する立場であり、選挙の結果によっては、計画の進ちょく予定が大きく変わり、まちづくりに影響を及ぼす可能性もはらんでいる。
小林英介
1996年北海道滝川市生まれ、札幌市在住。ライター・記者。北海道を中心として、社会問題や企業・団体等の不祥事、交通問題、ビジネスなどについて取材。酒と阪神タイガースをこよなく愛している。



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