
もっとも、「オペレーションがひどい」「アクセスが弱く不便」といった声が上がっているほか、メタンガスによる爆発事故の発生や、「パビリオンの完成が間に合わない」などの課題もある。
まだ会場になる土地さえなかった大阪ベイエリアの埋め立てが始まったのは1977年。以降、バブル崩壊や大阪五輪招致がかなわなかったことなどもあり、夢洲は「負の遺産」と呼ばれることもあった。
起死回生の一手が、大阪・関西万博の開催、そしてIR誘致だった。
埋め立ての際の手続きは?いつから土地に?
紆余(うよ)曲折を経て、いま、夢洲はお金を生み出す‟財産”として生まれ変わろうとしている。そもそも、埋め立てをするにはどのような手続きが必要なのか。行政事件に詳しい荒木謙人弁護士が解説する。
「海や河川などの公有水面を埋め立てる際には、まず公有水面埋立法に基づく『免許』が必要です。場所や規模によって許可権者が異なり、国土交通大臣または都道府県知事が審査を行うのが一般的です。
利害関係者(漁業権者など)の意見聴取も行われるため、事業者と周辺地域との調整が重要になります。」
では、埋め立て地は、どの段階から土地として扱われることになるのか。
「埋め立て地が複数の市区町村や都道府県にまたがる場合、まず行政区域の画定が問題となります。埋め立て免許の申請段階で、関係自治体や国と協議を行い、どの区域に帰属させるかを取り決めます。
工事完了後、公有水面埋立法第22条に定める竣工認可を申請し、認可を受けると、埋め立て地が正式に土地として扱われます。」(荒木弁護士)
埋め立て地の境界線巡り裁判になった事例も
主に海上となる埋め立て地は、複数の行政区にまたがることも珍しくない。その境界をめぐり、裁判になった事例もある。東京湾の江東区南端に位置する中央防波堤埋立地だ。大田区は、江戸時代からノリの養殖などを通じて大田区の産業と地域社会を築いてきたという歴史的沿革を主張し、他方で、江東区は、埋め立て地に向かう廃棄物の運搬車が通る中、住民は渋滞や悪臭に耐えてきたという住民の負担を主張して、長く対立が続いた。
争いの発端となった都による埋め立て開始の1973年から、実に40年以上にわたる争いとなっていたが、最終的には江東区が約8割の帰属割合を有するという判決になり、法廷闘争により決着がついた。
埋め立て地活用に東西の違いはある?イベントか緑化か
江東区と大田区で境界を争った中央防波堤埋立地の一角は、「海の森公園」と名づけられ、東京の‟新たな森”として、グリーンアイランドに生まれ変わった。グランドオープンしたのは3月28日。タイミングは、大阪・関西万博開幕の3週間前だった。ごみ処理場から緑の人工島に生まれ変わった東京・江東区の「海の森公園」(弁護士JPニュース編集部)
逆風が吹き荒れる中で開幕した「大阪・関西万博」と、都民憩いの場として緑あふれる「海の森公園」。埋め立て地の活かし方に東西差があるとは思えないが、過去を振り返っても両エリアには方向性の違いが浮かび上がる。
たとえば、神戸沖を埋め立てたポートアイランドは、博覧会(1981年)会場として活用された。一方、お台場の埋め立て地は、1996年に開催予定であった世界都市万博会が中止に。江東区沖の埋め立て地は、緑に囲まれた「夢の島」に再生され、東京五輪(2021年)ではその一部が会場に使用された。
このようにしてみると、西は万博などのお祭り中心、東は環境配慮が多めの印象だ。
規模によっては住民説明会も
住民にとっては生活環境に影響がおよぶ可能性があるだけに、埋め立て地をどのような用途として活用するかは気になるところだろう。荒木弁護士が解説する。「用途については、都市計画法や港湾法、環境影響評価法などが関わり、施設の規模や性質に応じて都市計画決定などが求められます。
大規模施設や公園・商業施設を整備する場合、都市計画法に基づく都市計画決定が必要です。
また、埋め立て地が港湾区域に含まれる場合、港湾法に基づいた港湾計画との整合性も必要です。海岸部の管理をする際には、海岸法の規定も検討対象となります。
計画の規模が大きい場合は、自然環境や地域住民への影響を事前に評価します。万博や大規模公園など社会的影響の大きいプロジェクトでは、住民説明会やパブリックコメントなどを通じて、合意形成が図られるのが一般的です」
今後の日本に求められる埋め立て地活用のスタンス
それまでなにもなかった場所に新たに広大な土地が生まれる埋め立て造成。経済が右肩上がりの頃は、国の勢いを象徴する存在ともいえたが、景気も人口も停滞する現在は、扱うにも慎重さが求められるのが実状だ。「人工島は開発当初こそ注目を集めるものの、長期的には利用が伸び悩み、維持費や老朽化への対応が課題となることが少なくありません。
そのため、観光施設やイベント会場だけでなく、物流拠点、防災拠点、再生エネルギーの拠点など、複合的に使用できるようにすることで、持続的な利用価値を生み出すことが重要です。
人口や社会情勢が変化する時代に対応するためにも、一時的な観光事業にとどまらず、長期的な視点での運営・管理計画を立てることが重要だと考えられます」(荒木弁護士)
なにもない場所に、新たな陸地が生まれる。だからこそ、埋め立て地造成においては地域や住民にとってより付加価値のある使い方を提示してもらいたいものだ。