コロナ禍以降、ゴルフは「密」にならず、緑の中を歩き回る健康的なスポーツとして人気が再燃し、プレー人口が持ち直している。ただ、プレーヤーの年齢層は半数近くが60‐70代の高齢者というデータもあり、現場で突然死が起こる確率が高いともいわれている。

これまでに5000体以上を検死・解剖してきた法医学者の高木徹也氏は、こうした状況に加え、「心身に負荷がかかりやすいことも要因」と指摘する。どういうことなのか。その豊富な知見から、「ゴルフ場で死ぬ」場面について、原因を解説する。
※ この記事は法医学者・高木徹也氏の書籍『こんなことで、死にたくなかった:法医学者だけが知っている高齢者の「意外な死因」』(三笠書房)より一部抜粋・再構成しています。

ゴルフ場で突然死が起こりやすいのは必然

「紳士のスポーツ」と名高いゴルフ。道具は高額で、練習するにもプレーするにもお金がかかるスポーツですが、趣味としての人気は健在です。
ただし、ある程度、時間とお金にゆとりが必要なためか、60歳以上がプレーヤーの半数を占めるとも言われています。つまり、ゴルフ場には自然と高齢者が集まってくるので、プレー中に突然死が起こる確率が高いことも必然というわけです。
ゴルフ場には、アップダウンの多いコースがありますし、日照りや雨風の影響をもろに受けます。さらに、みんな早起きして集まるので寝不足な人もいるでしょう。「いいスコアを出したい」という精神的なプレッシャーも大きい。要するに、心身にさまざまな負荷がかかりやすいのです。
その結果、生活習慣病のある高齢者は、心筋梗塞や不整脈などの虚血性心疾患、脳出血やくも膜下出血などの脳血管疾患を発症する危険性が高まります。

ゴルフ場で多い死因

私もゴルフ中に突然死した方の解剖をしたことがありますが、死因の多くは虚血性心疾患で、生活習慣病のある高齢者がほとんどでした。
それ以外の死因として、近年報告されているのが「熱中症」です。厚生労働省の統計では、スポーツ施設での熱中症発生者数は、ゴルフ場が最も多いそうです。
屋根もなく日陰も少なく、芝からの照り返しも強い。汗もダラダラかきます。さらに、昼をまたいでプレーする場合、昼食時に飲酒する人も多く、するとますます脱水が進行してしまいます。
ゴルフは、暑さ対策や水分補給をしっかり行ないながらプレーするのが肝心です。暑さがとても厳しい場合には、途中で切り上げる決断も必要でしょう。

人災にも天災にも気をつける

私もたまにプレーしますが、訪れたことのある二つのゴルフ場で、不幸にも事故があったことを耳にしました。
一つは、コース上を移動する際に利用するカートのハンドル操作を誤って、運転していたカートごと坂道で転落した事故。乗車していた一人が、逆さまになったカートの下敷きになって亡くなったそうです。
もう一つは、池に落ちたボールを拾おうとしたプレーヤーが転落し、それを助けようとした同伴プレーヤーも転落して、二人とも死亡してしまったケースでした。池はすり鉢状になっていて、さらに、池の縁にはビニールシートが敷かれており、スパイクを履いていたプレーヤーは滑って脱出できなかったのでしょう。

プレー中最も危険な「事故」

ちなみに、プレー中の最も危険な事故は「落雷」です。
近年は対策も進み、事故も減りましたが、十数年前までは年間に数名がプレー中の落雷で死亡していました。
高い木のないフェアウェイであれば、プレーヤーとゴルフクラブが一番高い地点になるため、雷が落ちて被災することがあります。また、雨が降っているときに、木の下で雨宿りをしていると、その木に雷が落ちて被災することもあります。
雷発生の可能性がある場合にはプレーをすぐに中断し、一番近い避雷小屋などに急いで避難してください。
<まとめ>
・心身に負荷がかかるような無理はせず、体調に合わせてプレーする。
・暑い時期には、熱中症対策を万全に。
・最新の天気情報をこまめに確認する。
【高木徹也】
法医学者。1967年東京都生まれ。
杏林大学法医学教室准教授を経て、2016年4月から東北医科薬科大学の教授に就任。
高齢者の異状死の特徴、浴槽内死亡事例の病態解明などを研究している。
東京都監察医務院非常勤監察医、宮城県警察医会顧問などを兼任し、不審遺体の解剖数は日本1、2を争う。

法医学・医療監修を行っているドラマや映画は多数。


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