
渋滞予測が出ている日程に車での移動を予定している人は、長時間のドライブに伴う「居眠り運転」に十分注意してほしい。
本記事では、居眠り運転のリスクとともに、「なぜ車に乗っていると眠くなってしまうのか」について明らかにする。(本文:島崎敢・近畿大准教授(安全心理学))
なぜ車の中にいると眠くなるのか
2019年、名神高速道路で居眠り運転のトラックが渋滞中の車列に追突し、3台を巻き込む重大事故が発生した。運転手が眠気を感じながらも運転を継続し、前方車両に気付くのが遅れたことが事故の原因だった。居眠り運転による事故は過失運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法5条)だけでなく、状況によっては最大20年の懲役刑が科される危険運転致死傷罪に問われる可能性もある(同法2条1号、3条参照)。さらに、居眠り運転をしていた加害者は、通常の前方不注視による事故よりも、民事上、重い責任を負うことがある。
このように居眠り運転は人命と法的責任の両面で重大なリスクをはらむ。
しかし、車を運転したことのある人で、「運転中に眠気を感じたことは一度もない」と言い切れる人はかなり少ないのではないのではないだろうか。
なぜ車の中にいると眠くなるのか。
エンジンの振動や道路からの揺れ、単調な風景などが理由として挙げられることが多いが、実は「車内の二酸化炭素(CO2)濃度」も重要な要因だ。今回は、あまり知られていない車内のCO2濃度と運転への影響について明らかにしたい。
車内のCO2濃度はどのくらい?
人は呼吸によって酸素を取り込み、CO2を排出している。密閉された空間では、人が多いほど、また滞在時間が長いほどCO2濃度は上昇する。通常、外気のCO2濃度は400ppm*程度で、1000ppmを超えると20%程度の人に眠気が生じるとされている。
*ppm(parts per million)は濃度や割合を示す単位。100万分の1を表す。
窓を閉め切った車内は当然、一般的な建物の部屋よりも狭く、CO2の濃度は顕著に上昇する。
筆者らがタクシーを対象に調査した結果、窓を閉めエアコンを内気循環にした状態の車内では、わずか30分でCO2濃度が2000ppm以上に達した。
運転中の車内CO2濃度は中央値で1400ppm、最大値で5200ppmにも達することがわかった。
この数値は、一般的なオフィスビルの管理基準(1000ppm以下)や、意思決定能力に悪影響を及ぼすとされる濃度(2500ppm)をはるかに超えている。
CO2濃度の上昇が運転に与える影響
CO2濃度が高くなると、運転手の状態はどうなるのだろうか。これを明らかにするために、筆者らは、ドライビングシミュレーターを用いてCO2が運転パフォーマンスに与える影響を調べた。CO2濃度が5000ppm程度の環境(High条件)と、1000ppm以下の環境(Low条件)を比較したところ、以下のようなことがわかった。
- High条件ではLow条件の約2倍多くウインカーを出し忘れる
- High条件ではLow条件の約3倍多く固定物や他車と接触する
- High条件ではLow条件の約2.5倍多く脱輪する
- High条件ではLow条件の約1.5倍多く通行帯違反が発生する
タクシーのドライブレコーダー映像を用いた別の分析では、「休憩および客待ち後の発進」において、車内のCO2濃度が高くなるほど運転評価の得点が低下し、特にウインカーの使用が適切でないケースが多く見られた。
これは、車内のCO2濃度が高いと、長時間の停車で低下した覚醒レベルが、元に戻りにくい可能性を示している。
さらにトレイル・メイキング・テスト(TMT)という認知機能検査では、CO2濃度が上昇すると成績が低下することが確認された。
すぐにできる長時間ドライブ対策
こうした結果を踏まえ、ゴールデンウィークに家族で車の移動を考えている人は、以下の対策を参考にしてほしい。1. 内気循環の長時間使用を避ける
最も避けるべきなのは、エアコンを「内気循環」にしたまま窓を締め切って長時間走行することだ。
エアコンパネルには通常、車内の空気を循環させる「内気循環」(車内で矢印が循環しているマーク)と、外から新鮮な空気を取り入れる「外気導入」(外から矢印が入ってくるマーク)を切り替えるボタンやレバーがある。「外気導入」にすることで車内のCO2濃度上昇を大幅に抑えることができるため、基本的には「外気導入」モードを使用すべきだろう。
ひとつのボタンで「内気循環」のON/OFFを切り替える車種も多い(umaruchan4678 / PIXTA)
トンネル内など空気が悪い場所では一時的に内気循環に切り替え、それ以外は外気導入を基本としよう。現代の車の排ガス処理技術は非常に高度になっており、通常の道路環境であれば排ガスはそれほど気にする必要はない。
それでも、どうしても外気導入にはしたくないという場合は、定期的に窓を開けて換気しよう。窓を少し開け、1分程度走行するだけでも車内のCO2濃度は大幅に下げられる。
2. 休憩後の発進時は特に注意
先述の研究で明らかになったように、休憩後や長時間の停車後はCO2の影響を受けやすい。休憩後など、発進する前に一度外に出て新鮮な空気を吸うとよいだろう。また、意識的に周囲の確認を行い、ウインカー操作などの基本動作を確実に行うようにしてほしい。
3. 乗車人数に応じて換気を
車内の人数が多いほどCO2濃度は急速に上昇する。
子どもは体重あたりの代謝量が大きいため、体は小さくてもCO2排出量は一人前だ。
また、もし食材を運ぶためにドライアイスを車内に置く場合は、ドライアイスの蒸発によって大量のCO2が発生するので、より換気を徹底したい。
まとめ
車内のCO2濃度の上昇は、運転に悪影響を及ぼしている。特に家族や仲間たちと大勢で長距離・長時間ドライブをする機会の多いゴールデンウィークには、適切な換気によって車内環境を整えることを意識してほしい。
また、眠気を感じたら無理をせず、すぐに安全な場所に停車して換気を行い、休憩するか、運転を交代するようにしよう。
適切な運行計画や安全運転はもちろん、車内環境にも気を配ることで、皆さんが安全に、そして快適にゴールデンウィークを過ごせることを願っている。
■注記
本記事で紹介した研究は、公益財団法人スズキ財団2022年度課題提案型研究助成を受けて実施されました。
■島崎敢
1976年東京都生まれ。早稲田大学大学院にて博士(人間科学)取得。同大助手、助教、防災科学技術研究所特別研究員、名古屋大学特任准教授を経て、近畿大学准教授。元トラックドライバー。