
この施策は、自由席をなくすことで席に座って快適に移動できる乗客を増やすためのもので、2023年の年末年始から三大ピーク期(年末年始、ゴールデンウィーク、お盆)に限り実施されている。
新幹線の客室内はもちろん、自由席への着席を求めて人が殺到していた東京駅など始発駅の混雑緩和につながっているようだ。
しかし、全席指定席だからといって、乗客同士のトラブルがなくなるわけではない。
「自分の指定席に他人が座っていた」という30代のA子さんのトラブル事例が弁護士JPニュース編集部に寄せられた。
注意すると空いているはずの隣の席へ…
「今年3月、『スマートEX』を利用して新幹線の指定席券を購入しました。スマートEXだと座席も自分で選ぶことができるので、隣に誰もいない2列席の窓側を選びました。予約が完了したのは、乗車の30分前ほど。乗る予定の新幹線は、すでに前の駅を出発している時間なので、一人でゆっくりできそうだと思っていました。
ところが、いざ新幹線に乗ってみると、私の指定席に50代くらいのおじさんがロング缶のビールを片手にうたた寝していたのです…」
A子さんは「トラブルになったら嫌だなとは思いつつ、(男性が)席を間違えているだけかもと考え」男性に直接声をかけた。
すると男性は「悪びれる様子もなく、『ああ』と言ってA子さんの隣の席(通路側)に移動した」という。
「予約時には隣の席も空いていたはずで、『本当に指定席券を持っているのか?』と思いましたが、隣の席は私の指定席ではないので諦めました…。おじさんはその後、ひじ掛けを占有して、いびきをかいて爆睡。しかもイヤホンからは音漏れ。最初から乗務員さんに声をかけて指定席券を確認してもらえばよかったのかな…と、降りてからもモヤモヤしました」(A子さん)
こうした「自分の指定席に他人が座っていた」というトラブルはめずらしいものではないようで、X(旧Twitter)などのSNS上では、たびたび不満の声が投稿されている。
「乗ってくるまでええか」で他人の指定席に座るのマジやめてほしい。こっちが間違えてるかと何回も確認しちゃうので。
まっつさん (@twicca3) March 19, 2025
新幹線の指定席で男の人に勝手に座られて、指定席なので!と利用票見せたら謝りもせず逃げるようにどいて、違う座席(そこも指定席)に座ろうとした。無謀すぎ、自由席なりどっか行ってと思ってたら、前に座っているおじ様がその人を注意してくれた。お礼を言うと気にしないでと笑顔で返してくれた♀️
Risa❤︎@ (@ri_resiroom4) April 11, 2025
JR東海「巡回中の乗務員に遠慮なくお知らせください」
他人の指定席に座る人は「本来座るはずの乗客が乗ってくるまでならいいだろう」「空いているんだから座ってもいいだろう」と思っているのかもしれないが、座られた、つまり本来指定席に座るはずの人にとっては迷惑な行為に違いない。しかし、A子さんのように自分で交渉するしかないのだろうか?
JR東海の広報担当者に尋ねたところ、「お困りごとがございましたら、巡回中の乗務員に遠慮なくお知らせください」と回答があった。
「マナーを逸脱するような場面に遭遇された際も、巡回中の乗務員に遠慮なくお知らせください。車内での過ごし方については、他のお客様も快適にご利用頂けるよう、周囲へのご配慮をお願いしております。快適な車内環境づくりにご理解ご協力をお願いいたします」(同広報担当者)
指定席に他人が座っていた場合は、無理に自分で声をかけず、トラブル回避のためにも乗務員に相談するのがよさそうだ。
とはいえ、車両数の多い新幹線では、巡回中の乗務員をすぐに見つけるのは難しい。
同担当者は「乗務員が見つけられない場合は、8号車の乗務員室までお越しください。また、緊急の対応が必要な場合には、客室(緊急)通報装置をご利用いただき、乗務員にお知らせください」と説明した。
客室(緊急)通報装置は、東海道新幹線(N700S系)の場合、客室前後に設置されている(弁護士JPニュース編集部)
車内ではより深刻なトラブルも?
A子さんのケースは、小規模なトラブルで収まったともいえる。混雑時は1日約30万人を運ぶ新幹線では、より深刻な乗客同士のトラブルが発生することもあるようだ。3月に新幹線を利用したというB子さんは、乗る予定だった列車が「乗客同士のトラブル」で遅延した可能性があるという。
「駅についたら新幹線が遅れていたので、SNSで原因を調べてみたら『新幹線内で乗客同士がケンカした。被疑者が車内にいるから警察が乗ってきた』とつぶやいている人がいて、このせいかと…」(B子さん)
B子さんが乗車した日の東海道新幹線公式Xアカウントには「お客様対応を行った影響により、遅れが発生しています」というポストがあった。
新幹線を送らせるほどのケンカの発端はわからないが、注意された腹いせなどから迷惑行為がエスカレートし、暴言や暴力行為に発展する可能性もあるだろう。万が一トラブルの当事者になってしまった場合、どうすればいいのか。
新幹線内での「暴言・暴力」どう対応するのが正解? 弁護士の答えは…
刑事事件や民事事件に幅広く対応する三木悠希裕弁護士は「暴言などの迷惑行為に関しては、まずは乗務員に連絡するのが良いと思います」と対応を説明する。「法的観点からは、暴言の内容が、生命、身体、財産等への侵害を内容とする言動があれば、脅迫罪(刑法222条)に該当する可能性があります。
刑法上の犯罪に該当しない場合も、軽犯罪法違反となる可能性があります。軽犯罪法1条5号は、公共の乗り物において、『乗客に対して著しく粗野又は乱暴な言動で迷惑をかけ』ることを禁止しています。脅迫に当たらない場合も、程度によっては、軽犯罪法違反に該当するかもしれません」(三木弁護士)
一方、暴力行為があった場合について三木弁護士は、「暴行罪(刑法208条)や、それによって負傷すれば傷害罪(同204条)が成立する可能性があり、これらは犯罪行為ですから、警察への通報をすべきです」ときっぱり断言する。
「まずは逃げて距離をとるか、他の乗客と協力して自身の安全を確保したうえで、乗務員や警察に通報するのが良いと思います。また、犯罪行為は民法上の不法行為(民法709条)にも該当しますから、それに伴う損害があれば、その賠償を請求することも可能です。
余裕があれば、暴言等については録音をする、周囲の乗客に目撃を証言してもらえるように、その連絡先等を聞いておくなど、証拠を確保しておくとよいかと思いますが、無理をせず、まずは自身の安全を確保することを優先してください」(同上)
せっかくの新幹線の旅を不快な思い出にしないためにも、マナー違反には賢く対処したい。