4月には77年ぶりの巨人戦開幕5連勝を達成。
阪神といえば、90年の歴史、熱狂的なファン、甲子園の大声援、そして巨人との伝統の一戦…とNPB(日本プロ野球)の中でも注目され続けてきた球団といえるだろう。
そんな阪神が近年力を入れているのが誹謗中傷・侮辱対策だ。
今季開幕当日の3月28日、球団はXを更新し、OBの能見篤史氏が登場する動画を公開。「悪意に満ちたその声を、辞めませんか」と誹謗中傷や侮辱的な替え歌に対して注意喚起した。
「何言わせてんねん」の声も、一部では…
この投稿に対し、SNS上では「全くもって同感です」「ファンだからといって、何を言っても許されるわけではない」といった反応が見受けられたほか、能見氏が昨年も同様の動画に出演していたことから、「毎年毎年能見に何言わせてんねん」との声も上がっていた。また、長年のファンとみられるアカウントは次のようにコメントしている。
「俺も10年前までは歌ってたよ。
でも子どもができて息子が阪神ファンに育ち、球場へ行くようになって小学生の息子がそれを歌うのをみて、これはアカンなとやめた。
息子にも『相手の悪口より阪神応援しよう』と言ってる。
楽しいのはわかるけど、もうやめませんか」
しかし、なかには「きっと替え歌はまだまだ続くんだろうな…」と予想するファンも見られた。
実際、依然として代表的な替え歌である「商魂込めて」(巨人の応援歌「闘魂こめて」の替え歌)を歌うファンの目撃情報などがSNS上で飛び交っており、完全に「誹謗中傷や侮辱的な替え歌」が球場からなくなる日はまだまだ来そうにない。
法的リスク「現実的には高くないが…」
こうした選手・球団に対するヤジや、侮辱的な替え歌を歌うことによって、なんらかの法的リスクが生じる可能性はないのだろうか。プロ野球観戦が趣味だという、ベリーベスト法律事務所・大阪オフィスの川野佑介弁護士は、ヤジや替え歌による法的リスクについて、次のように解説する。
「たとえば、選手の人格を攻撃したり、社会的評価を下げるヤジ・替え歌は侮辱罪(刑法231条)に該当する可能性があります。
侮辱罪の対象は『人』のみですが、球団に対するヤジや替え歌は、程度によって威力業務妨害罪(刑法234条)に問われるおそれもあるでしょう。
侮辱罪の法定刑は『1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料』、威力業務妨害の場合は『3年以下の懲役または50万円以下の罰金』ですから、初犯の場合でも、罰金刑など重い処分を受ける可能性があります」
ただし、ヤジや替え歌が原因で刑事責任が生じる可能性は「現実的には高くない」という。また、民事上の責任についても同様で、川野弁護士はこう続ける。
「私が調べた限りでは、これまでヤジや替え歌で、民事上の損害賠償請求が認められた例はないようです。
ですが、もし仮に、賠償請求が認められた場合、通常の侮辱や名誉毀損の慰謝料の相場からすると、数十万円から100万円程度の慰謝料の支払義務が認められる可能性はあります」
「入場拒否、退場措置、販売拒否の対象となるおそれ」
法的リスクに加えて、川野弁護士は観戦にあたって注意すべき点として、NPBが定める試合観戦契約約款についても言及する。同約款2条1項では「試合観戦契約は、試合観戦を希望する者が、正規入場券を取得したとき、本約款に基づき成立する」と定められており、プロ野球のチケットを取得した者は、この約款に従わなければならない。
「同約款の8条1項6号では、禁止行為として『他の観客及び監督、コーチ、選手、主催者及びその職員等、販売店その他の球場関係者への威嚇、作為又は不作為の強要、暴力、誹謗中傷その他の迷惑を及ぼす行為』が挙げられています。
この禁止行為に違反した場合は、入場拒否、退場措置、販売拒否の対象となり得ます」(川野弁護士)
今年から指揮を執る藤川球児監督のもと、躍動する阪神タイガース。2023年以来2年ぶりの優勝、そして日本一へ向けて、ファンであればこそ、一丸となって応援したいところだ。
勝利の栄光を汚さないよう、くれぐれも注意してほしい。