
解散命令が確定した場合でも、信教の自由(憲法20条)が保障されているため、団体として存続すること自体は許される。
そこでもっとも気になることの一つが、霊感商法によって得られた利益に対する課税関係がどうなるのか、であろう。宗教法人と、法人格が認められない場合とでどのように違うのか。宗教法人法務と税法に詳しく、僧侶でもある荒川香遥(こうよう)弁護士(弁護士法人ダーウィン法律事務所代表)に聞いた。
霊感商法は課税対象の「収益事業」にあたらない
まず、前提として、宗教法人に対する課税がどうなっているのか、確認しておこう。宗教法人は法人である以上「法人税」が課税される。しかし、課税対象は「収益事業」による所得に限られる。
荒川弁護士:「収益事業は34種類と決まっています(【図表】参照)。
また、これらの事業にかかる事業活動の一環、あるいは、関連して行われる行為(付随行為)も、収益事業に含まれます」
【図表】宗教法人で課税される34種類の収益事業(出典:国税庁「令和7年(2025年)版 宗教法人の税務」)
旧統一教会は、いわゆる霊感商法により「聖本」や「壺」などを数百万円、数千万円という法外な価格で信者らに売りつけたとされる。霊感商法は34種類の収益事業に該当しないのか。
荒川弁護士:「残念ながら、霊感商法は、34種類ある収益事業のいずれにも該当しません。
問題となるのは『物品販売業』に該当するかどうかですが、これは難しいでしょう。物品販売業は、モノをそれに見合った価格で販売する純粋な経済的行為です。
これに対し、『聖本』や『壺』はその品自体に経済的価値があるわけではありません。モノ自体は二束三文です。あくまでも宗教的な意義による付加価値に着目して、購入なり寄付なりを行っていると考えざるを得ません。お寺や神社の『お守り』『おみくじ』と同じ理屈です」
宗教的意義があっても「収益事業」にあたるケースもあるが…
ただし、宗教的な意義があったとしても、収益事業ととらえる余地がまったくないわけではないという。荒川弁護士:「モノ・サービスについて一定の価格の基準が定められ、『サービスの対価』といえる場合には、収益事業に該当すると考える余地があります。
宗教法人Xが、『ペット葬祭場』を経営して金員を受け取ったことにつき、国税庁が収益事業とみて行った課税処分の取り消しを求めた事件があります。
この事件で、最高裁は、『役務等に対して料金表等により一定の金額が定められ,依頼者がその金額を支払っている』という点を重視し、『役務等の対価の支払として行われる性質のもの』であり、収益事業の『物品販売業』『倉庫業』『請負業』にあたるとして、課税処分を適法としました(最高裁平成20年(2008年)9月12日判決)。
したがって、たとえば『壺はいくら』『聖本はいくら』といった基準や価格表等が存在した場合には、『物品販売業』として収益事業に該当する余地があります。
しかし、そのような基準等が設けられていないならば、やはり収益事業にあたるというのは困難です」
法人格が否定された場合の課税は?
現状、壺や聖本について一定の価格の基準等が定められていたかどうかは明らかではない。そこで問題は、宗教法人の解散命令が確定し、法人格が否定された場合の課税関係である。荒川弁護士:「解散命令が確定した場合、その団体は法的には『サークル』や『同窓会』などと変わらない扱いとなります。税法上は『人格のない社団』と扱われ、法人とみなして法人税が課税されます。
この場合、宗教法人とは異なり、原則としてすべての経済的利益が課税対象となります。
したがって、宗教的意義の有無を問わず、経済的利益=所得といえれば、法人税が課税されます」
霊感商法のような違法な行為によって得られた所得についても、例外ではないという。
荒川弁護士:「法人税法は、課税対象となる所得について、なんら限定する定めもおいていません。したがって、適法だろうが違法だろうが、とにかく経済的利益と評価できれば、課税対象となります。これは所得税も同様です。
もちろん、違法な行為によって得られた利益は、本来、被害者に返すべきものであり、国が税金として吸い上げるのはおかしい、という考え方も、論理的にはあり得るかもしれません。
しかし、不法なやり方で利益を得た団体が税金を免れることは、社会正義に著しく反します。
被害者救済は、民事上の損害賠償請求や、あるいは刑事罰によるペナルティーといった司法的な手段により担保されると考えるべきでしょう」
つまり、宗教法人格を失った統一教会に対しては、今後、法人税ないしは所得税の課税が厳しく行われるようになるということだ。
伝統的に、宗教団体は、人々の精神の安寧やモラルの向上に貢献し、教育や福祉や慈善事業といった価値の高い社会的活動を行ってきたという歴史がある。収益事業以外を非課税とする扱いは、そのような歴史的経緯を踏まえたものである。
しかし他方で、その点を悪用し、違法な手段で利益を得ようとする反社会的団体の隠れみのに使われる危険性もある。本件は、そのことに改めて警鐘を鳴らすものといえる。