高齢多死社会では、‟最後の場面”も多様化する。病床で衰退の果てはもちろん、アクティブに活動するシニアも増えており、まさかの「突然死」ということもある。
「腹上死」もそのひとつにあげられるだろう。法医学者・高木徹也氏によれば、「年の差のある相手との行為やバイアグラ服用時が多い」という。肉体が若くても、寄る年波には勝てないということか…。
不審遺体の解剖数で日本1、2を争う同氏が、その豊富な知見から、シニア層が「性交渉で死ぬ」メカニズムについて解説する。
※この記事は法医学者・高木徹也氏の書籍『こんなことで、死にたくなかった:法医学者だけが知っている高齢者の「意外な死因」』(三笠書房)より一部抜粋・再構成しています。
これは性交渉中に死亡することの俗語ですが、法医学の分野を世に広めた功労者でもある、大先輩の上野正彦先生も研究していたテーマです。
腹上死は突然死全体の0.6~1.7%を占めるという報告もあるようですが、日本国内の割合は正確には把握されていません。
一部の論文では、腹上死の75%が不倫関係にあったと報告されていますが、これまでの私の解剖経験では、高齢者による非常に若いお相手との性交渉時、そして、近年認可された勃起不全治療薬「バイアグラ」の服用時が目立つ印象があります。
腹上死が「腹の上で死ぬ」ことを指すため、男性が「正常位」での性交渉時に死ぬことだと思っている方も多いようですが、正常位以外でも、また、男性でなく女性が死亡する場合も「腹上死」と表現します。
さらに、今回は高齢者に焦点を当てて解説しますが、若年者でも発生する可能性があることを理解していただきたいと思います。
勃起から射精までの過程は、自律神経の副交感神経から交感神経への切り替わりが俊敏に起こる反射によって行われるため、全身にも負荷がかかる行為です。
そのため、射精の際に心筋梗塞などの虚血性心疾患、くも膜下出血や脳内出血などによって死亡することがあります。
また、これは性交渉だけでなく自慰行為でも発生します。アダルトビデオを流したまま下半身だけ裸の状態で死亡しているケースを解剖することも、多々あります。
高齢者が性交渉中に死亡した際、私たち法医学者にとって最も厄介なのは、ご家族への説明です。
パートナー同士での性交渉中の死亡であれば近親者の方々の悲しみに配慮するのみなのですが、内密のお相手との性交渉中に死亡した場合は、ご家族への説明に苦慮します。保険金や遺産相続が絡んだ裁判に巻き込まれることもありました。
高齢者がバイアグラを服用して、性交渉中に死亡するケースは増えています。
このような場合では、もともと高血圧や心疾患を有していて、降圧薬を服用している人が多く、バイアグラを併用することで急激に血圧が低下し、急性脳梗塞などで死亡していることが多いようです。
バイアグラによる腹上死は、用法・用量を守って服用することで防ぐことが可能です。お医者さんや薬剤師さんの指導には、必ず従うようにしましょう。
<まとめ>
【高木徹也】
法医学者。
杏林大学法医学教室准教授を経て、2016年4月から東北医科薬科大学の教授に就任。
高齢者の異状死の特徴、浴槽内死亡事例の病態解明などを研究している。
東京都監察医務院非常勤監察医、宮城県警察医会顧問などを兼任し、不審遺体の解剖数は日本1、2を争う。
法医学・医療監修を行っているドラマや映画は多数。
「腹上死」もそのひとつにあげられるだろう。法医学者・高木徹也氏によれば、「年の差のある相手との行為やバイアグラ服用時が多い」という。肉体が若くても、寄る年波には勝てないということか…。
不審遺体の解剖数で日本1、2を争う同氏が、その豊富な知見から、シニア層が「性交渉で死ぬ」メカニズムについて解説する。
※この記事は法医学者・高木徹也氏の書籍『こんなことで、死にたくなかった:法医学者だけが知っている高齢者の「意外な死因」』(三笠書房)より一部抜粋・再構成しています。
腹上死は「正常位」とは限らない
「腹上死」という言葉をご存じでしょうか。これは性交渉中に死亡することの俗語ですが、法医学の分野を世に広めた功労者でもある、大先輩の上野正彦先生も研究していたテーマです。
腹上死は突然死全体の0.6~1.7%を占めるという報告もあるようですが、日本国内の割合は正確には把握されていません。
一部の論文では、腹上死の75%が不倫関係にあったと報告されていますが、これまでの私の解剖経験では、高齢者による非常に若いお相手との性交渉時、そして、近年認可された勃起不全治療薬「バイアグラ」の服用時が目立つ印象があります。
腹上死が「腹の上で死ぬ」ことを指すため、男性が「正常位」での性交渉時に死ぬことだと思っている方も多いようですが、正常位以外でも、また、男性でなく女性が死亡する場合も「腹上死」と表現します。
さらに、今回は高齢者に焦点を当てて解説しますが、若年者でも発生する可能性があることを理解していただきたいと思います。
性交渉で死に至るメカニズム
性交渉は、男性の場合、肉体的に陰茎の勃起と射精という一連の流れで行われます。勃起から射精までの過程は、自律神経の副交感神経から交感神経への切り替わりが俊敏に起こる反射によって行われるため、全身にも負荷がかかる行為です。
そのため、射精の際に心筋梗塞などの虚血性心疾患、くも膜下出血や脳内出血などによって死亡することがあります。
経験上、腹上死の多くは射精後に起きていることが多いことからも、自律神経の過剰な反射が大きく関与していると考えています。
また、これは性交渉だけでなく自慰行為でも発生します。アダルトビデオを流したまま下半身だけ裸の状態で死亡しているケースを解剖することも、多々あります。
性交渉中の死をどう家族に報告するのか
「えっと……旦那さんは性行為中に亡くなりました」高齢者が性交渉中に死亡した際、私たち法医学者にとって最も厄介なのは、ご家族への説明です。
パートナー同士での性交渉中の死亡であれば近親者の方々の悲しみに配慮するのみなのですが、内密のお相手との性交渉中に死亡した場合は、ご家族への説明に苦慮します。保険金や遺産相続が絡んだ裁判に巻き込まれることもありました。
高齢者が性交渉時に、注意すべきこと
歳を重ねると、勃起力は低下します。それでも性的活力の高い人は、バイアグラに代表される勃起不全治療薬を服用して性交渉を行います。高齢者がバイアグラを服用して、性交渉中に死亡するケースは増えています。
このような場合では、もともと高血圧や心疾患を有していて、降圧薬を服用している人が多く、バイアグラを併用することで急激に血圧が低下し、急性脳梗塞などで死亡していることが多いようです。
バイアグラによる腹上死は、用法・用量を守って服用することで防ぐことが可能です。お医者さんや薬剤師さんの指導には、必ず従うようにしましょう。
<まとめ>
- 過剰な性的興奮を伴う性交渉は避ける
- 異常を感じたらすぐに連絡が取れる手段を確保しておく
- 勃起不全治療薬と降圧薬を併用しない
【高木徹也】
法医学者。
1967年東京都生まれ。
杏林大学法医学教室准教授を経て、2016年4月から東北医科薬科大学の教授に就任。
高齢者の異状死の特徴、浴槽内死亡事例の病態解明などを研究している。
東京都監察医務院非常勤監察医、宮城県警察医会顧問などを兼任し、不審遺体の解剖数は日本1、2を争う。
法医学・医療監修を行っているドラマや映画は多数。
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