政府は昨年12月2日、従来の健康保険証の新規発行を停止した。
経過措置として、従来の保険証も今年12月1日まで使用可能だが、一方で、マイナ保険証の利用率は今年3月時点で27.26%と普及が進んでいるとは言えない状況だ。

こうした中、10万人を超える医師・ 歯科医師で構成される全国保険医団体連合会(保団連)が8日、都内で会見。
アンケート調査の結果、約9割の医療機関が、マイナ保険証に関連した何らかのトラブルを経験していることが分かったとして、政府に対し、従来の健康保険証を使い続けられるようにすることなどを求めた。

事務負担軽減のはずが…

調査は2月中旬から4月14日までに行われたもので、昨年12月2日以降の医療現場の実態について、約9700の医療機関が回答。保団連では過去にも、マイナ保険証によるトラブル実態の調査を実施してきたが、いわゆる“紙の保険証”の新規発行停止後の調査は今回が初だという。
政府はマイナ保険証導入のメリットの一つに、受付など事務負担の軽減を挙げていた。
しかし、今回の調査の結果、昨年12月2日以降の窓口業務について、「負担が減った」と回答した医療機関はわずか6.1%にとどまった。これに対し44.9%が「負担に感じる」、15.8%が「とても負担を感じる」と回答しており、合わせて約6割の医療機関が負担を感じていることが明らかになった。

文字化けで「●」多発に加え“さらなる懸念”も…

では、現場では具体的にどのようなトラブルが発生しているのだろうか。
具体的なトラブル事例のうち、65.1%と最も割合が高いのが、住所や名前などを表記する際に「●」が出るというものだ。
保団連の資料などによると、住所などのデータに使用される文字コードと、医療保険者向け中間サーバーの対応している文字コードの違いから生じる「文字化け」が原因だといい、なかには、元となるデータが入力された時期が古く、かな入力や機種依存文字の使用が「●」の出現を引き起こしているケースもあるという。
ほかにも、「カードリーダーの接続不良・認証エラー」「マイナ保険証の有効期限切れ」といったトラブルの発生割合が高く、特に2025年度には2768万件のマイナンバーカードで電子証明書の更新が必要となることから、有効期限切れによるトラブルについて、保団連は「さらなる増加が懸念される」と指摘している。

複雑な「資格確認書」と「資格情報のお知らせ」の違い

調査結果によると、マイナ保険証でのトラブルが発生し、資格確認ができない場合について、約8割の医療機関が健康保険証で対応したと回答。
このような背景からか、約7割の医療機関が、従来の健康保険証を復活させ、マイナ保険証と併用できるようにすべきとも答えている。
また、資格確認をめぐっては「資格確認書」と「資格情報のお知らせ」の区別がついていない、あるいは「資格情報のお知らせ」を保険証と混同してしまっているケースが見受けられたという。
「資格確認書」はマイナ保険証を持たない人に交付されるもので、従来の健康保険証と同様、単独での資格確認が可能だが「資格情報のお知らせ」はあくまでも、マイナンバーカードが読み取れない場合などの“バックアップ”であり、法令上、単体での資格確認は認められていない。

「なんとか必死になって医療体制を支えている」

保団連の山崎利彦理事は「『資格情報のお知らせ』のみをもった患者が病院を訪れた場合、法令上の資格確認が困難となり、いったん10割負担をお願いせざるを得ないケースも生じかねない」と指摘。次のように続けた。
「世の中には『医者が金の話をどうこうするなんて』と批判をされる方も多いだろうと思います。
ですが、実はこの数年の間で、医療機関の7割以上がかなりの減収となっています。かつ、こうした状況でも、持ち出しで給料を上げなければ、従業員をつなぎとめることはできません。
20年、30年前でしたら、月に1人や2人の患者が不払いだったとしても、あるいは保険証を持ってきていない患者に対しても『しょうがないか』と大目に見ていた医師は、たしかに大勢いました。
ですが、現在は、どこの医療機関も経済的な大打撃を受けており、それに加えて、マイナ保険証による負担もある中で、それでも現在の医療体制を支えるためになんとか必死になっているという事情をわかっていただきたいです」


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