企業の発展に不可欠な新規出店業務。その最前線に立つ社員A氏が、「店舗開発部長」という地位を濫用し、会社の資金を不正に操作する事件を起こした。
A氏は工事業者に、実際には行われていない工事費用を、外部業者には実体のない仲介手数料や企画料を会社へ請求させた上で、その一部を受け取っていた(いわゆるバックリベート)。
会社がA氏を懲戒解雇したところ、A氏は「解雇は無効である」として労働契約上の地位確認、未払い賃金・賞与等の支払い、さらには慰謝料の支払いを求め提訴。
しかし、裁判所は「解雇は有効」と判断し、A氏の請求をすべて棄却した。(大阪地裁 R6.9.17)(弁護士・林 孝匡)
しかし令和元年(2019年)、担当していた「B店」の建設工事が大幅に予算を超過し、開業予定日も半年以上遅延。その結果、会社は店舗が営業できない状態で家賃約900万円を支払う事態となり、A氏は出勤停止7日間の懲戒処分を受けている。
その後も店舗開発に従事していたA氏であったが、令和4年(2022年)、金銭が絡む不正疑惑が浮上する。会社は外部弁護士を含む特別調査委員会を設置し、A氏が関与した複数の工事案件について調査を実施。その結果、A氏が以下の行為をしていた疑いが指摘された。
■ 懲戒解雇事由の有無
A氏は一貫して「不正な行為はしていない」と主張し、特に架空工事やバックリベートの受領を否定した。しかし、裁判所は、各関係証拠を総合的に評価し、以下の事実を認定した。
裁判所は、これらの行為が就業規則上の懲戒解雇事由、すなわち、「人を欺いて会社の金銭を交付させた場合」「職務上、金品を供与され不正の利益を得た場合」に該当すると認めた。
■ 解雇権濫用の有無(解雇の有効性)
次に争点となったのは「解雇は相当といえるのか?」である。
A氏は、「解雇理由が事実であったとしても、解雇は処分として重すぎる」と主張したが、裁判所はこれを退けた。
不正行為の内容と態様、さらには金額の規模、社会的影響を総合的に評価した結果、「会社が被った損害は約585万円、A氏が受領したリベートは200万円を優に超えておりいずれも看過できない」「A氏の行為は、企業の秩序を著しく乱す」「提訴前の調査段階から一貫してリベート受領を否認し、およそ反省する姿勢は見受けられない」として「解雇は、社会通念上相当である」と結論付けた。
■ A氏の請求はすべて棄却された
A氏は、解雇後の賃金支払い、賞与支払いを求め、「解雇は不法行為にあたる」として精神的苦痛に対する慰謝料請求も行ったが、解雇が有効と判断されたため、すべての請求は退けられた。
経費でたまったポイント「20万円分」を私的利用…シラ切る“問題社員”に裁判所が下した判断は
この事件では、会社が手土産や接待に使うための高級ウイスキーを購入してたまっていたポイント20万円分を、従業員が勝手に使用。掃除機、美容液等を購入していた。
A氏は工事業者に、実際には行われていない工事費用を、外部業者には実体のない仲介手数料や企画料を会社へ請求させた上で、その一部を受け取っていた(いわゆるバックリベート)。
会社がA氏を懲戒解雇したところ、A氏は「解雇は無効である」として労働契約上の地位確認、未払い賃金・賞与等の支払い、さらには慰謝料の支払いを求め提訴。
しかし、裁判所は「解雇は有効」と判断し、A氏の請求をすべて棄却した。(大阪地裁 R6.9.17)(弁護士・林 孝匡)
当事者
会社は、回転ずしチェーンを展開する株式会社である。A氏は店舗開発部長の地位にあり、新規出店に関する業務として、仲介業者から出店候補地内の物件紹介を受けるなど、仲介業者を通じて物件オーナーと賃貸借契約等を行う業務に従事していた。事件の経緯
A氏は、平成29年(2017年)に有期契約社員として入社後、翌年には正社員として再契約を交わし、店舗開発部長の地位に昇進。以後、出店候補地の選定や物件オーナーとの契約交渉を行う役割を担ってきた。しかし令和元年(2019年)、担当していた「B店」の建設工事が大幅に予算を超過し、開業予定日も半年以上遅延。その結果、会社は店舗が営業できない状態で家賃約900万円を支払う事態となり、A氏は出勤停止7日間の懲戒処分を受けている。
その後も店舗開発に従事していたA氏であったが、令和4年(2022年)、金銭が絡む不正疑惑が浮上する。会社は外部弁護士を含む特別調査委員会を設置し、A氏が関与した複数の工事案件について調査を実施。その結果、A氏が以下の行為をしていた疑いが指摘された。
- 工事業者に実体のない架空工事の請求書を作成させ、会社に虚偽の支払いをさせた。
- 仲介業務の実体がないにもかかわらず、架空の「仲介料」「企画料」を業者に請求させ、会社から支払わせた上で、その一部を現金で受領(じゅりょう)した。
裁判所の判断
本件の争点は、次の3点に整理された。- 懲戒解雇事由の有無
- 解雇権濫用の有無(解雇の有効性)
- 解雇が不法行為を構成するか否か
■ 懲戒解雇事由の有無
A氏は一貫して「不正な行為はしていない」と主張し、特に架空工事やバックリベートの受領を否定した。しかし、裁判所は、各関係証拠を総合的に評価し、以下の事実を認定した。
- 実際には行われていない工事費用を工事業者から会社に請求させ、会社に支払わせた。
- 仲介業務や企画作業を実施していない会社に架空の請求書を発行させ、これを基に会社から支払わせた。
- 業者から現金約200万円のバックリベートを2度にわたり受領していた。
裁判所は、これらの行為が就業規則上の懲戒解雇事由、すなわち、「人を欺いて会社の金銭を交付させた場合」「職務上、金品を供与され不正の利益を得た場合」に該当すると認めた。
■ 解雇権濫用の有無(解雇の有効性)
次に争点となったのは「解雇は相当といえるのか?」である。
A氏は、「解雇理由が事実であったとしても、解雇は処分として重すぎる」と主張したが、裁判所はこれを退けた。
不正行為の内容と態様、さらには金額の規模、社会的影響を総合的に評価した結果、「会社が被った損害は約585万円、A氏が受領したリベートは200万円を優に超えておりいずれも看過できない」「A氏の行為は、企業の秩序を著しく乱す」「提訴前の調査段階から一貫してリベート受領を否認し、およそ反省する姿勢は見受けられない」として「解雇は、社会通念上相当である」と結論付けた。
■ A氏の請求はすべて棄却された
A氏は、解雇後の賃金支払い、賞与支払いを求め、「解雇は不法行為にあたる」として精神的苦痛に対する慰謝料請求も行ったが、解雇が有効と判断されたため、すべての請求は退けられた。
ほかの裁判例
本件と同様に、従業員の金銭的不正行為を理由として「解雇が有効」と判断された以下のケースがある。経費でたまったポイント「20万円分」を私的利用…シラ切る“問題社員”に裁判所が下した判断は
この事件では、会社が手土産や接待に使うための高級ウイスキーを購入してたまっていたポイント20万円分を、従業員が勝手に使用。掃除機、美容液等を購入していた。
最後に
金額の大小にかかわらず、その背後にある不正の手口や行為態様が、「組織全体の秩序と信用を根底から揺るがすものである」場合には、解雇処分が有効になる可能性が高いので注意が必要だ。編集部おすすめ