
一方で、不貞行為(不倫)が実社会の夫婦生活に与える影響は言うまでもなく深刻である。令和5年度の司法統計年報によると、離婚調停などの婚姻関係事件を申し立てた人のうち約12%が、不貞行為などの異性関係が争いの原因となっているという。
多くの日本人が不倫を否定的に捉えていることは(前回)確認した。本記事では、実際にどの程度の人が不倫を経験しているのか、日本および海外の過去の社会調査結果をもとに、不倫経験率や男女差の実態を整理する。
※ この記事は五十嵐彰/迫田さやか両氏の書籍『不倫―実証分析が示す全貌』(中央公論新社)より一部抜粋・再構成。
既存調査からわかる日本人の不倫経験率
日本人は、どの程度の割合で不倫をしているのだろうか。反不倫規範の水準がやや低いだけに、他国よりも割合が高いのだろうか。この答えを得るためには、大規模な社会調査データが必要となる。2000年代以前のものでは、筆者らが知る限り一点、石川弘義(いしかわひろよし/編集部註:社会心理学者)らによる『日本人の性』が不倫の割合を集計している。石川らは、高度経済成長を背景に、性行動を「人間らしさの証(あかし)」と位置づけ、性行動がいかに営まれているかを検証した(※1)。
1982年に既婚者を対象に収集された大規模社会調査をもとに、配偶者の不倫をはじめとする、性にまつわる様々な事項を分析している。
石川らの調査では、1982年当時に(「ここ一、二年で」)不倫を経験した人の割合は、既婚男性が20・82%、既婚女性が3・79%であったことがわかっている。
実際の不倫割合に加えて、石川らは配偶者以外に「よろめいた」ことがあるか、すなわち配偶者以外に心を惹かれたことがあるかを聞いており、男性は5割から6割、女性は2割程度という結果となっている。
2000年代以降の調査では、『プレジデント』誌と相模(さがみ)ゴム工業による2つの調査が代表的なものとして挙げられるだろう。
『プレジデント』誌が2009年に行った調査では、34・6%の既婚男性と6・0%の既婚女性が、2013年の相模ゴム工業による調査では、既婚者のうち24・8%の男性と14・0%の女性が不倫を経験したことがあると回答している(※2)。
値に差があるのは調査の対象や方法が異なっているからであり、これらの数値から時代の変化や傾向を論じることまではできないが、大まかにいえば、男性は20~35%前後、女性は4~14%前後に不倫経験があるといえるだろう。
不倫経験者“男性”が非常に多い?
こうした既存の調査に加え、不倫の分析を進めるため、筆者らは独自にデータを収集した。NTTコムオンラインというウェブ調査会社に回答者として登録しているモニターに対して、2020年3月に結婚生活と不倫に関する調査を行った(以降、「総合調査」と呼ぶ)。
日本全体の既婚者の性別・年代・居住地の割合を代表するような形で6651名からなるサンプルを収集した。
総合調査は現在結婚している既婚者に限定したものであり、質問の中には、「配偶者以外と結婚後今までセックスをしたことがありますか」という項目が含まれている。
この質問に対して「現在している」「過去にしていたが今はしていない」「今までしたことがない」という3つの回答選択肢を提示した。それぞれの割合は、男女別に見ると表2-1のようになっていた。
表2-1を眺めると、男性において「過去に(不倫を)していた」、「現在している」人の割合が非常に高いことが目につく。
既婚男性のうちおよそ46・7%が結婚後どこかの段階で不倫経験があると回答している。過去の推定と比較しても非常に大きな割合であるといえよう。これは調査タイミングの差と、調査モード(調査の集め方)の差によるものと考えられる(※3)。
一方、既婚女性はおよそ15・1%に不倫経験があるという。女性は過去の調査と比較しても大きな差がないといえるだろう。
不倫の割合の国際比較
それでは他国における不倫の割合はどの程度だろうか。入手可能なデータが限られているため多くのことはいえないが、例えばイギリスやドイツにおける不倫割合はおよそ似通っており、男性の20%、女性の15%がパートナー以外とセックスをしたことがあると回答している(※4)。
イギリスの調査は、不倫をしたいと思ったことがある人の割合も同時に聞いており、男性は41%、女性は28%が思ったことがあると回答している。
一方で、フランスで2014年に行われた調査では、55%の男性、32%の女性が結婚後今まで不倫をしたことがあると回答している(※5)。
隣国の中国では、2000年から2015年の間に4度行われた調査をまとめた研究がある(※6)。これによると、2000年には既婚男性の12・9%、既婚女性の4・7%が不倫をしたことがあると回答していた。この割合は徐々に増え、2015年の不倫割合は、既婚男性は33・4%、既婚女性は11・4%に増加していた。
ほかにも、中国の一人っ子政策により男性の割合が女性よりも多くなった結果、不倫をする中国の女性が増えたという研究もある(※7)。これは女性にとって潜在的な性的パートナーがより多くいるという、機会の観点から説明されている。
アメリカでは多くの調査が行われているが、それらを概観すると、既婚男性は20から25%、女性は10から15%ほどが結婚生活のうちどこかで不倫を経験したことがあるとまとめられる(※8)。
さらに現在入手可能な最も新しい2015年の調査によれば、男性は21%、女性は19%であった(※9)。アメリカにおける近年の調査の特徴として、男女差が徐々に縮まっていることが指摘できる。不倫割合に男女差がなくなることによって、不倫の背後にある生物学的・進化心理学的な説明を退ける議論もある。
ちなみに各国のデータが示しているのは、「長い結婚生活のどこかのタイミングで不倫をしたことがある」人の割合である。例えばアメリカの研究では、過去1年といったように期間を限定すると、全体の2・33%といった低い数値として現れる(※10)。
以上のように、他国、主にデータが入手可能なアメリカと西ヨーロッパにおける不倫割合を検討した。日本で今まで公表されている不倫割合とおよそ同水準か多少低い程度であり、日本における不倫の割合が特殊なものとはいえないだろう。
■註記
※1 石川弘義・斎藤茂男・我妻洋(1984)『日本人の性』文藝春秋
※2 プレジデント(2009)、相模ゴム工業(2013)。なお相模ゴム工業の値は、著者の一人である五十嵐が相模ゴム工業の調査担当者の方に連絡をとり、既婚者に限定して再分析を行ってもらった結果の値である。相模ゴム工業は2018年にも同様の調査を行っているが、不倫の割合に目立った違いはなかった。
プレジデント(2009)『PRESIDENT』2009.10.23号別冊、プレジデント社
相模ゴム工業(2013)「ニッポンのセックス」相模ゴム工業ホームページ(2017年10月7日取得、https://sagami-gomu.co.jp/project/nipponnosex/)
※3 ただし相模ゴム工業はウェブ調査を使っており、そのためモードによる差とは断言しにくい。
※4 イギリスは YouGov (Jordan, 2015)の調査に基づく。
Jordan, W.(2015). Men are more likely to have affairs with‘work colleagues’,women with ‘friends’. YouGov. https://yougov.co.uk/topics/lifestyle/articles-reports/2015/05/27/one-five-british-adults-admit-affair.
Haversath, J; Gärttner, K M; Kliem, S; Vasterling, I., Strauss, B.,& Kröger, C. (2017). Sexualverhalten in Deutschland: Ergebnisse einer repräsentativen Befragung. Deutsches Ärzteblatt International, 114(33-34): 545-550.
※5 Kraus, F. (2014). Obser vatoire gleeden de l’infidélité-enquête sur les perceptions et les comportements des Français en matière d’aventures extra-conjugales. https://www.ifop.com/publication/observatoire-gleeden-de-linfidelite-enquete-sur-les-perceptions-et-les-comportements-des-francais-en-matiere-daventures-extra-conjugales/
※6 Zhang, Y., Wang, X., & Pan, S. (2020). Prevalence and patterns of extramarital sex among Chinese men and women: 2000-2015. The Journal of Sex Research, online first.
※7 Trent, K., & South, S. J.(2011). Too many men? Sex ratios and women’s partnering behavior in China. Social Forces, 90(1): 247-267.
※8 Munsch, C. L. (2012). The science of two-timing: the state of infidelity research. Sociology Compass, 6(1): 46-59.
※9 YouGov の調査に基づく(Moore, 2015)。
Moore, P. (2015). Men are more likely than women to think about cheating on their partners, but women are as likely as men to say they’ve gone through with it. YouGov. https://today.yougov.com/topics/lifestyle/articles-reports/2015/06/02/men-more-likely-think-cheating
※10 Whisman, M. A., Gordon, K. C., & Chatav, Y.(2007). Predicting sexual infidelity in a population-based sample of married individuals. Journal of Family Psychology, 21(2): 320-324.