
報道によれば、30代の女性が無人ジム利用中に荷物置きに置いたかばんを窃盗され、現金約7万円を抜き取られた。
ネットの相談サイトでも「無人ジムで窃盗にあった」という事例が多くみられ、こうした被害が頻発していることがうかがえる。窃盗犯にすれば、24時間営業で、鍵付きロッカーがない無人ジムは当然、狙いやすく、防犯面の甘さが悪用されている格好といえる。
無人ジムの防犯対策
たとえば、24時間営業の無人ジムを全国に約1800店舗展開する「RIZAP」運営の「chocoZAP(チョコザップ)」は、鍵付きロッカーを設置していない。防犯面に不安があるが、同社は対策として、次のようにうたっている。「AIによる監視カメラでトラブルを徹底的に防ぐため、全店舗24時間防犯カメラで録画しています。
然るべき対応が必要な場合に、映像を確認して警察に届出をいたします。chocoZAP会員様はスマートフォンで開錠しますので、会員様以外は入店できません」
利用規約には「貴重品の管理は会員自身」と明記
そのうえで、利用規約の第14条には、賠償責任について以下のように記載されている。〈1.本サービスの利用にあたって発生した紛失、盗難、傷害その他の事故については、当社は、その故意または重過失による場合を除き、一切の責任を負わない〉
〈3. chocoZAP ジムご利用における衣服類、貴重品その他の所持品(以下「所持品」という) に関しては、会員自身の責任で管理するものとする〉
利用規約には「貴重品管理は自己責任」と明記されている(チョコザップHPより)
月額約3000円の低価格で利用でき、その他のサービスも提供している同ジムのコストパフォーマンスは非常に高い。そうしたこともあり、ネット上でも同ジムでの窃盗被害に対しては、「安いからしょうがない」「セキュリティを求めるなら、別のジムへ行けばいい」と自己責任を受け入れるような声も目立つ。
無人ジムで施設側にどこまで責任問える?
とはいえ、防犯カメラ設置などが、防犯対策として本当に十分だといえるのか。施設側の責任を問うことは難しいのだろうか。「基本的に責任を問うことは難しいです。ただ、施設側が十分に責任を果たしたといえるかどうかは評価が分かれるところもあるかと思います。なぜなら、トレーニングジムはその性質上、器具を用いた運動などを行う際に携行品(貴重品)を手元から離さなければならなくなることが容易に想定できる場所です。
そのため、防犯対策としては単に防犯カメラを設置するだけではなく、鍵付きロッカーを置くべきだったという評価はあり得るでしょう」
こう説明するのは刑事事件に詳しい、堀田和希弁護士だ。
防犯カメラでは事後検証は可能だが、必ずしも現場での犯行抑止になるとはいえない。その点で、鍵付きロッカーを設置しないことを理由に賠償責任を問われる可能性もあり得る。ただ、鍵付きロッカーを設置していたとしても、無人をいいことに、こじ開けて窃盗されるリスクはある。
「その場合には施設管理者には責任を問えないかと思います。
ただ、鍵付きロッカーの鍵が壊れていた場合は、設備が壊れていたことが盗難原因の一要素ということで施設管理者が責任を問われる可能性があります」
もしも自己責任うたうジムで窃盗被害にあったら
「貴重品の管理は自己責任」。利用規約にそう明記されている無人ジムで、もし、窃盗被害にあってしまったらどう対処すればいいのか。堀田弁護士は次のように助言する。「自己責任といっても、大前提として盗難被害にあったときに悪いのは窃盗犯本人です。そのため、まずは警察に被害届を提出したうえで、示談などで窃盗犯本人から被害弁償を受けられるように動くべきです。
窃盗犯本人からの被害弁償が難しい場合は、盗難の原因に施設の不備がないかを確認し、不備があれば施設管理者から補償を受けることができないかを交渉するという流れになるかと思います」
自己責任施設を利用上する際の注意点
上述と別件の窃盗事件では、被疑者はセキュリティーの一環である入店時のQRコードを偽名による会員登録で入手したとの報道もある。利用者の自己責任だけを問うのは厳しい側面もありそうだ。そのうえで、堀田弁護士は「自己責任」をうたう施設利用時の注意点を次のように示した。
「鍵付きロッカーがある施設でも貴重品等の私物の管理は基本的に本人に任されており、自己責任をうたっているところが多いです。そのため、注意点とすれば、当たり前のことですが鍵付きロッカーがあれば利用する、ないのであれば貴重品は手元から離さないようにして自衛するしかありません」
人件費を抑えるなど、コストを最小限にして、その分を利用料金に還元するタイプの24時間営業の無人ジム。そうしたビジネスモデルを理解して、一定の自己責任を受け入れられる人なら利用価値はありそうだが、あくまで施設側に責任を求めたければ、利用料金がある程度かかるジムを検討する方が賢明なのかもしれない。