大手予備校の河合塾で働く38年目のベテラン講師が、授業中の時限ストライキを行う予定だとして、14日都内で会見を開いた。
この日、会見に出席した河合塾ユニオンの佐々木信吾書記長らによると、予備校や学習塾業界でストライキが行われるケースは異例だといい、「0ではないかもしれないが、大手の塾としては初めてではないか」と話した。

「10年以上コマ単価変わらず」

ストライキを予定しているのは、河合塾ユニオンの委員長で物理の授業を担当している、竹中達二さん。
複数の校舎で授業を請け負っているが、塾側との団体交渉の決裂を受け、5月21日の自由が丘校(東京都目黒区)での、浪人生を対象とした90分間の講座の際、通常通り授業を行ったうえで、最後の15分間に限ってストライキを実施するという。
「世間では、いまだに『予備校講師は高級取りだ』という幻想があるようですが、わたしはコマ単価約1万7000円という状況が少なくとも10年以上続いており、年収は約500万円から600万円程度です。
ただ、これはベテランといえる、僕らくらいの講師の場合。若い講師はもっと厳しい状況に置かれており、コマ単価が私の半分以下、あるいは3分の1ほどの人もいます。
この間、物価高騰で、実質賃金が大幅に下がり、さまざまな業界で賃上げの要求が進み、私たちも同様の要求をしてきました。
しかし、河合塾側からの回答はわれわれの要求を一蹴するものであったため、今回ストライキの決行を通告しました」(竹中委員長)

「塾側はまったく聞く耳持たず」

河合塾ユニオンがストライキにあたって塾側に要求した項目は、賃上げを含む3つの項目にわけられる。
「まず、1つ目の要求は1分あたり35円(1コマ90分あたり3150円) の賃上げを行うことです。これは時給に換算した場合、2100円の賃上げになるため、強欲な申し出にも聞こえるかもしれません。
しかし、講師は90分の授業を行う裏で、授業準備や採点、生徒の質問への対応、保護者への連絡などの業務も発生し、長時間拘束されています。
それにもかかわらず、物価高騰も続くなかで、賃上げの要求にまったく聞く耳を持たない河合塾側への抗議、これがこのストライキの根幹的な部分です」(佐々木書記長)

塾講師の労働者性も争点に

また、2つ目と3つ目の要求は、佐々木書記長自身が現在係争中の事件とも関連する。佐々木書記長によると、学習塾業界では、一部の専任講師を除き、多くの講師が業務委託で勤務しているという。
河合塾では、現在「委託」契約講師と「雇用」契約講師の2パターンの契約が存在するが、佐々木書記長は前者の「委託」契約講師である。
「佐々木書記長は裁判のなかで、『委託』という名称であっても、実際には委託契約講師には労働者性があると訴えており、昨年7月18日の東京高裁判決では私たちの主張が認められ、現在は最高裁の判断を待っている状態です」(竹中委員長)
今回のストライキでユニオン側は「委託」契約講師であっても、私学共済に加入できるようにすること、そして委託契約講師にも5年間での無期転換権を認めるよう要求。佐々木書記長は次のように続けた。

「皆さんもご存じの通り、無期転換やストライキの実施は労働者の基本的な権利です。
われわれは塾講師ですから、生徒にはしっかりと授業をしたい、生徒には迷惑をかけたくないという本能があります。
それでも、塾業界の多くで、やりがい搾取を受け、疲弊していく若い人たちを見て、せめてわれわれの世代でしっかり『塾講師も労働者である』と示したいという思いが強くあります。
そのためにも、今回は労働者の権利の一番最たるものである、スト権を発揮することで、今後何かを訴えたいほかの塾講師の人らが、ストライキを起こすときのハードルを下げるとともに、でたらめな労働環境に釘を刺したいです」

「新しい河合塾に生まれ変わって」

会見の終盤、竹中委員長は改めてストライキに向けた思いについて以下のように話した。
「私自身は、ストライキというのは、やむに止まれず行うものだと思っています。
自由が丘以外の校舎でも講座を担当していますが、自由が丘校の生徒とは、割と良好な関係を築けていて、何かあっても、生徒をフォローできるであろうという理由もあり、今回ストライキを実施するに至りました。
塾講師、特に中小の学習塾で指導を行っている人の中には『無権利』とも呼べる状態に置かれている講師もいるかと思います。
その点、河合塾は、この業界ではリーディングカンパニーです。われわれの要求する、賃上げの実現などによって、塾講師として働く皆さんの生活が改善し、やりがいを持って働き続けられる――そんな新しい河合塾に生まれ変わった方が、長い目でみると、塾の今後にとっても、よい結果が得られるのではないでしょうか」
河合塾側は弁護士JPニュース編集部の取材に対し、次のようにコメントしている。
「組合の要求項目に対する当方の見解が理解いただけず大変残念に思いますが、一方で適法にストライキが行われる限りは受け入れなければならないと考えています。
塾生や保護者の皆さんには大変ご心配やご迷惑をおかけしますが、河合塾は適切に対処していきますので、ご理解いただきますようお願いいたします」


編集部おすすめ