きっかけとなったのは、2022年に当時16歳だったローナンさんという少年が、同級生に「ニンジャソード」で殺害されたという事件や、同国での「ニンジャソード」を含む刃物犯罪の増加だ。
英政府は「ニンジャソード」について「大半は14インチから24インチの刃渡りで、まっすぐな刃先を持つ“短刀スタイル”のもの」と説明している。
ローナンさんを襲った犯人らは、オンラインで「ニンジャソード」を入手しており、英警察当局の刃物犯罪対策を担当する司令官は、英スカイニュース紙の取材に対し次のように述べている。
「(若者にとって)これらの刃物を買うよりも、解熱鎮痛剤を買う方が難しい場合がある。それは正しいことではない」
ローナンさんの家族らは事件以降、「ニンジャソード」の所持などの禁止を求めた運動を展開。
一方、同国での刃物犯罪の状況は深刻で、昨年5月にもロンドンで36歳の男が日本刀と思われるものを振り回し、14歳の少年が死亡、市民と警官2人ずつが負傷する事件が起きていたほか、昨年11月には13歳の少女が刺殺されるなど(この事件では、BBCが凶器について「サムライソード」と報道)、痛ましい事件が多発していた。
「ニンジャソード」回収キャンペーン実施へ
こうした状況を受けイギリス政府は「今後10年間で刃物犯罪を半減させる」としており、その一環として議会に「ニンジャソード」の所持禁止や、オンライン販売の規制強化を含めた「ローナン法」を提出。今年8月以降、「ニンジャソード」を所持していた場合、最大6か月の懲役刑が科されるといい、さらに、今後の法改正によって2年以下の禁錮刑に引き上げられる予定だ。
イギリス政府は同時に、7月1日から31日までの期間、全国で武器を引き渡すことができるキャンペーンの実施も告知。この期間中であれば、匿名で「ニンジャソード」を引き渡し、刑を逃れることが可能となっている。
日本で“刀”を持って捕まるケースとは…
では、忍者や日本刀、あるいはそれらに類する文化の“発祥地”ともいえる、わが国の法規制はどうなっているのだろうか。日本においては、銃刀法による規制がある一方、模造刀や居合刀、美術刀が販売されており、さらに「遺品整理中に刀が出てきた…」といったケースも少なくない。
そこで、銃刀法など刑事事件に詳しい雨宮知希弁護士に、改めて日本の“刀”に関する規制について聞いた。
「まず、模造刀や居合刀など、それぞれの言葉の意味についてですが、模造刀とは、本物そっくりに作られた偽物の刀(主に装飾用)のことで、居合刀とは、居合道等の練習に使われる、刃のない、金属製の刀です。また、刃がついていない装飾・観賞用のものが、美術刀にあてはまります。
これらの所持が違法になるケースとしては、本物の刀剣類で、登録証がない場合や、鋭利な刃がついている模造刀を携帯・所持している場合、正当な理由なく、公共の場所で模造刀を持ち歩く場合などが想定できます」
刃がついていないのに「刀剣類」に該当する場合も
そのうえで、これらを購入、所持する際の注意点について、雨宮弁護士は以下のように述べる。「模造刀・美術刀のうち、主に観賞用の刀の場合、その多くはアルミニウムなどの非鉄合金類が材料となっており、刃がついていない(切れない)ものであれば、基本的に銃刀法で規制の対象となる“刀剣類”には該当しません。
ただし、外見が日本刀に類似しているため公共の場で模造刀を持ち歩くと、下記の罪に問われる可能性があるため注意が必要です。
『正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者は、拘留又は科料に処する』(軽犯罪法1条2号)
『何人も、業務その他正当な理由による場合を除いては、模造刀剣類(金属で作られ、かつ、刀剣類に著しく類似する形態を有する物で内閣府令で定めるものをいう。)を携帯してはならない』(銃刀法22条の4)
ここでいう『正当な理由』とは展示や購入の帰り、練習などを指します。ですので、持ち歩く際には、箱に入れる・袋で覆うなどの配慮が求められます」(雨宮弁護士)
また、刃がついていなくても、材質や長さによっては「刀剣類」として扱われる場合があるという。
「目安としては、刃渡り15cm以上で金属製の場合、刀剣類に該当する可能性があると考えられるでしょう。
実際、過去の判例でも全長68.3㎝の鋼質性の素材でできた、鋭利な状態の模造刀は、『ある程度の研磨等により刃を付けられる模造刀は、刃が付いていなくても銃刀法違反の刀に該当しうる』との判断が下されています(山形地裁 平成19年(2007年)5月23日判決)。
そのため、購入は可能ですが、所持にあたっては、自宅で安全に保管しなければなりません」(同前)
遺品整理で“刀”を発見、どう処理すれば?
加えて、遺品整理で“刀”を発見した場合や、それらを譲渡する際には次の点に注意が必要だ。「もし、日本刀など、本物の刀剣類だった場合は、まずは文化庁の「登録証」があるかを確認してください。そのうえで、警察への届出や名義変更の手続きが必要となります。また、登録証がない場合には、警察に発見届を提出しなければなりません。
模造刀や美術刀だった場合は、特段、登録や届出は不要ですが、万が一のために専門の刀剣店や警察への相談をしてみてもよいでしょう。
また、繰り返しにはなりますが、銃刀法への抵触を避けるべく、安易に自宅外に持ち出すことは控えた方が良いかと思います」(雨宮弁護士)
アニメやコスプレグッズの“刀剣”注意すべきポイントは?
最後に、国内では昨年11月、映画『ハリーポッター』のグッズとして販売された剣が銃刀法違反の疑いがあるとして、回収されるという事件も発生していた。そこで、映画やアニメのグッズ、コスプレグッズとして販売されている刀剣類やそれを模したものを購入・所持する場合の注意点について雨宮弁護士に聞いた。
「先述したように、刃がついていなくても、材質や長さによっては『刀剣類』として扱われる場合がありますし、正当な理由なく持ち歩くなどの行為は、法律に違反する恐れがあります。
そのため、購入する際は、信頼できる公式な販売店等で購入し、出どころが不明なインターネットオークションやフリマアプリなどでの購入は、よく確認をしてからにしましょう。
加えて、法的に問題のないグッズであっても、人に見せびらかしたり、威嚇したりする行為は、軽犯罪法などに触れる可能性がありますから、公共の場への持ち込みは極力避け、持ち運ぶ必要がある場合は、周囲に誤解を与えないよう注意してください。
また、自身でそうしたグッズを改造する行為も危険です。
もし、購入しようとしているグッズや、所持しているグッズが、銃刀法に抵触するかどうか不安な場合は、最寄りの警察署の生活安全課や専門の刀剣店に相談するのも有効でしょう」